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お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第五章 ハナの異変と羽休め

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第六話 メンテナンスと影絵

 旅の間俺とハルは、道具類や衣服やブーツ、スリングなど、出来る限りメンテナンスはしていた、つもりだった。だが、大岩のチート夫婦には不服だったらしい。


 ゴーグルやスリングが、爺さんによってあっという間に分解され、細かい修理とメンテナンスがほどこされる。気になっていた少しのきしみや、ゴムを引き絞った時の軽い違和感が、見事に解消されていく。


 これはしっかり見ていないと!


 俺とハルが、がぶり寄りで目を皿のようにして見つめていると『そんなに見られると、やりにくい』と爺さんが口元を少し緩めて言った。


 眉根に寄せた皺が伸び、口元がほんの少し柔らかくなる。この人の、暖かいものがつい滲み出てしまったような笑い方は、どうしてこうも魅力的なのだろう。刻まれた皺が、若造には太刀打ち出来ない渋みとなって漂う。


 いつか俺もこんな爺さんになれるだろうか。


 衣服や道具類は、さゆりさんによって隅々まできれいに洗われ、つくろわれ、縫い直されていく。もう落ちないと思っていたシミが酢やほうれん草の茹で汁、大根の汁で白さを取り戻したりする。この人なんでこんな事知ってるんだろう。


 ブーツや腰ベルト、ベルトにつける小物入れやスリングケース。このへんの細かいものは、爺さんやさゆりさんに教えてもらいながら、自分たちでメンテナンスした。


 多少の緩みが出た部分を縫い直し、革紐を新しいものと交換し、ダメになった部分を張り替える。たった一ヶ月と少しの旅の間に、我ながら、ずいぶんと使い込んだものだ。


 さゆりさんがふと、


「また旅に出るのかしら?」と聞いた。


「そうさせてもらえたら、と思っています」


「またハナちゃんが、かわいそうねぇ」


 俺はその言葉には、答える事が出来なかった。


 ▽△▽


 夜、ハルがラーザで拾った貝殻をランプの灯りに透かして遊んでいる。ラーザの貝は透き通ったものが多く、灯りにかざすと壁に色の付いた影が映る。それにハルが作った折り紙の影を重ねて、ハナに見せている。ちょうど色付きセロファンを使った、地球の影絵劇のような感じだ。


 ハナは「ハルちゃ、もっと! もっともっと!」と大喜びだ。


 こっそり聞いていると、どうやら物語であるらしく、


『そのときです。たいへん! 屋根がこわれて、おとーさんとハルくんは馬車から落ちてしまったのです』


 ドルンゾ山で狼に囲まれた時の話だな。ちょうど盛り上がりの場面らしい。


 背景がうす緑から淡い赤色へと変わる。ハルが貝がらを変えたのだ。


 背景チェンジ付きだよ! 本格的だな!


『おとーさんは大きな狼にふみつけられて、ぜったいぜつめいのピンチ!』


 狼の影が、ガウガウと吠えながら行ったり来たりする。ハルはナレーションと効果音もこなして大忙しだ。


「ダメー! とーたん、にげてー!」


 ハナが悲鳴をあげる。


『そのときです!』


 またその時か!


『大きな山ねこが、たすけに来てくれました。山ねこはへんしんしたロレンでした』


「ろれーん!」ハナが合いの手のように叫ぶ。


『ロレン山ねこはとても強くて、あっという間に悪い狼をやっつけました』


 猫の影が、狼の影を吹き飛ばす。じゃじゃーんという、ハルの効果音付きだ。


『おとーさんは顔にケガをしたけど無事でした。そしてまた、旅をつづけました。おしまい!』


 ハナがわー! パチパチと拍手する。


 大冒険活劇だ。これロレンが見たら喜ぶんだろうなー! でもお父さん、全然出番のなかったヤーモがちょっと気の毒だよ。ヤーモだって大活躍したじゃないか。


 ーーしたよな?


「ヒロト、いいところに連れて行ってやる」からはじまる閑話シリーズ。


第二弾 『ロレン』



「ヒロト、いいところに案内しましょう」


 ある日、ロレンが大岩の家のドアを開けるなり言った。ロレンが言うと『地獄を見せてやろうか』みたいに聞こえるのはなぜだろう。すみやかに昇天する、そんな場所に連れて行かれそうだ。


「みんなで行きましょう」


 俺の心情を知ってか知らずか、俺以外は全員歓声を上げ、ロレンはやたらニコニコと、まるで善良な青年ですよというように笑った。


 ロレンはなんと、キャラバンの馬車を一台持って来ていた。ヤーモの時と同じように、行き先も目的も教えてもらえない。今回はさゆりさんや爺さんも一緒だ。大岩ファミリー御一行さま、いったい、どこに連れて行かれるのやら。


 ハルがハナを連れて、馬車の幌に登る。御者席の後ろの、幌の骨組み部分に並んで座る。俺とハルのお気に入りの場所だ。


 あの場所から二人で、ドルンゾ山の渓谷や、ラーザの海を眺めた。ポーポーニャの音そっくりな風や、潮の匂いのする風に吹かれた。月の満ち欠けを数えたり、夕陽の沈む位置で方角を覚えたり。


 ハナに見せてあげられなかった、ナナミと見ることのできなかった、たくさんの美しい風景が頭に浮かぶ。


 ナナミとハナと、俺とハル。いつか四人で大陸中を旅するのも良いな。きっとまだ見ていない綺麗なものが、たくさんあるはずだ。


 そんな日が、どうか早く来ますように。



 俺は、世話になった覚えもない、この世界の神さまに祈りたい気持ちに、少しだけなった。


 さて、俺があれこれ考えごとをしているうちに、ロレンプレゼンツのミステリーツアー、目的地に到着したようだ。


 馬車から降りると、目の前にはこじんまりとした水場を中心にした、花畑が広がっていた。


 茜岩谷で花畑といえば、致死毒の紫色の花畑しか見たことがない。おいロレン、大丈夫なのか?


「この花は毒はありませんよ」


 その色とりどりの花畑は、チューリップを逆さにしたような、可愛らしい花が咲き乱れていた。しかも、風に吹かれて花が揺れ、シャラシャラと涼やかな音が鳴る。


「あら、シャオランゼの花畑、ステキね。こんなに群生しているのは初めて見たわ」


さゆりさんが馬車から降りながら言った。ハナが早速ユキヒョウの姿になって、花の間をすり抜けるように走ると、その後をシャラシャラという音が追いかけるように鳴る。


 ハルが花を、そっと揺らして声を上げた。


「この花、色ごとに音程が違う! ホラ!」


 へぇー! それは面白いな! 演奏ができるんじゃないか?


 地球出身者がそれぞれ、花の音を確認する。


『さいたー、さいたー、チューリップの花が』


 ハルが歌いながら花を揺らす。ハナとさゆりさんも後に続く。


『並んだー、並んだー、あか、しろ、きいろ』


 みんな揃って『どの花見ても、きれいだなー』。


 ロレンと爺さんが拍手する。


 これは楽しいな!


 その後、ロレンと爺さんのセッションによる、茜岩谷の民謡や、ハナのフリージャズばりの独奏がはじまった。さゆりさんによる、懐かしい日本の歌謡曲を演奏もあり、なんとも楽しい一日となった。


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