第九話 灰色狼の群れ 其ノ一
動物を殺す描写があります。
夕焼けがはじまっても野営の場所が見つからず、仕方なしに道の端に馬車を寄せた時だった。
狼の遠吠えが遠く近くで聞こえたかと思うと、行く手を遮るように大きな灰色狼が数頭、姿を現した。
馬車はそう簡単にUターン出来ない。わかってやっているとしたら、頭の良い生き物だ。
さらに遠吠えが吠え交わされ、やがて馬車はすっかり狼の群れに囲まれてしまった。日が沈み、暮れはじめた辺りに低く威嚇の声が響く。
ロレンとガンザが弓を持ち、幌の上に登る。俺たちの馬車の御者をしていたアンガーが、クーを毛布で包んで背負う。ハルが心配そうにアンガーの名前を呼ぶと、
『大丈夫、俺が絶対にクーを守る』と言って、ひらりと馬車を飛び降りて行った。
ハザンが「ヒロトとハルも幌の上から応戦してくれ。狼は幌の上には届かない」と言って走って行く。
俺はハザンが俺と、ましてやハルを戦力として数えた事に少し驚いた。信頼してくれているのか、それともそれだけ事態が逼迫しているのか。どちらにしてもやるしかない。今ならまだ外は明るさが残っている。闇に沈んでしまえば、夜目の効かない俺とハルには為す術がなくなる。
俺とハルはスリング・ショットと、持てるだけの玉を腰ベルトの物入れに入れ、素早く幌に登った。近接戦闘の出来るハザン、トプル、ヤーモ、アンガーは馬を守って戦っている。馬車の側面を壁につけていたので、完全に囲まれていないのは好材料だろう。
「ハル、遠くのやつから狙うぞ!」
「うん! 頭だよね?」
ロレンとガンザの矢の数を考えると、無駄打ちは出来ないだろう。手数ならスリング・ショットは弓矢に負けはしない。
狼の狩りは波状攻撃だ。決して致命傷を狙わず、入れ替わり立ち替わり襲いかかり、少しずつ体力を奪う。
俺とハルは首に掛けていたゴーグルを装着し、草むらや木の陰で様子を伺っているやつを、片っ端から狙った。
倒れる個体は少なかったが『キャウン』と鳴き、逃げて行くやつは結構いた。ハルも落ち着いて、丁寧に狙いをつけている。
その間にも遠吠えの声が響く。まだ集まって来るのか? 既に三十頭前後は相手にしている。
ハザンは数歩前に出ていて、狼を誘うように立ち、隙と見て跳び掛かってくるやつを危なげなく迎え撃つ。反射神経と、咄嗟の反応速度が半端ないな。視界も広い。
今は人の姿でいるはずなのに、獣の姿のハザンがやけに目に浮かぶ。牙をむき出しにして、四肢を広げ、獲物に跳びかかる寸前の姿勢だ。ゾクリと鳥肌が立つ。
飢えた獣の、本物の殺気だ。
トプル、アンガー、ヤーモはそれぞれ馬を守っていて、やはり跳び掛かってくるやつに対処する。同時攻撃を仕掛けてくるやつには、ロレンとガンザが弓矢を放つ。俺とハルは遠巻きにしている奴らを追い払う。
そんな奇妙な均衡が破れた。




