閑話 ハルの日記
今日はラーザさいごの夜。あしたの朝にはシュメリルールにかえる。教会におかーさんがいなくて、がっかりした。がっかりしてかなしいきもちになったけど、またがんばってさがそうと思う。
海できれいな貝がらをたくさん拾った。貝がらは、夜ランプにかざすと、かべにピンクやみどり色のかげができてとてもきれいだ。ラッチェンのウロコはおひさまがにあうけど、ラーザのかいがらは、ランプの火がにあう。
おいしいものをたくさん食べた。ロレンさんがつれて行ってくれたお店はお皿がいっぱい出てくる、高そうなお店だったし、ヤーモさんたちと釣った魚も、おだんごもおいしかった。
たびはこわいこともあったけど、とてもたのしい。きれいなものも、おもしろいこともたくさんあるから。でもぼくは、おとーさんがずっと、いっしょにいてくれるのが一番うれしい。
ハナちゃんが生まれてから、おとーさんはぼくだけのおとーさんじゃなくなってしまったから。
ハナちゃんが生まれてしばらくした時、ぼくはおとーさんに聞いたことがある。
おとーさんはだれが一番好き? って。
もちろんハルだよって言ってほしかったのに、おとーさんは『おとーさんが一番好きなのはおかーさんだ!』ってえばって言った。
ぼくは、えー、そんなのずるいって思ったけど、おとーさんは、ハルも大人になればわかるさ、なんて言ってた。大人はすぐにそういう風に言う。
ラーザのまちが見えてきたころ、おとーさんがすごくへんになった。ぼーっとしたり、きゅうに元気になったり、ずーっと絵をかいたり、しんけんな顔をしてにんじんを切ったりしていた。
すきってきもちは、いろんなものをつれてくる。やきもちとか、ひとりじめしたいとか、いなくなったらいやだとか、きらわれたらどうしようとか。
大人は、すきっていうきもちは、ステキなことだと言うけど、ぼくにはとてもやっかいなことに思える。
やっかいで、こまったことで、かっこわるくて、はずかしい。
でもおとーさんは、おかーさんがだいすきだから、しかたない。もしまたおとーさんがへんになったら、ぼくががんばろうと思う。
おとーさんのかわりができるように、ごはんを作るれんしゅうもしておかないと。にほんにいるときは、火はあぶないとか、ほうちょうはダメとか、ひとりじゃダメとか言われたけど、そんなこと言ってるばあいじゃない。
ぼくはおとーさんのおにもつじゃなくて、あいぼうだから。
かっこわるくても、はずかしくても、ぼくはおとーさんが、だいすきだから。




