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お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第三章 海辺の町ラーザ

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第七話 荷車の重さ

 ラーザ滞在三日目は大忙しの一日だった。


 まだ真っ暗なうちに、ガンザ、ヤーモと一緒にいそ釣りに出かけた。


 満天の星空の下、真っ暗な中打ち寄せる波に囲まれて釣り糸を垂らす。


 そして俺とハルには浮きが見えなかった。暗くて。


 蛍光塗料などないこの世界では、よく考えたら当たり前だった。ガンザとヤーモは犬系の人たちだと思っていたが、違うのだろうか。身体強化とかいう能力を使っちゃっているのだろうか?


 まあ俺とハルより高性能の目と耳を持っている事は確かだろう。


 仕方ないので砂浜まで戻り、星を見ながら夜明けを待った。


 砂浜に寝転んで見上げる星空は、きれいな垂れ幕みたいだった。星雲せいうんというのだろうか。赤や薄紫、青っぽい光のかたまりが、天の川の中でいくつも輝いている。天の川は夜空にかかる、光の虹のようだ。


 日本にいる頃は夜が明るいせいなのか、空が汚れているからなのか、多分たぶん両方なのだろう。五、六個の星がチラチラと頼りなげにまたたく程度だった。あの頃は夜空をのんびり見上げる事も少なかったのだが。


 流れ星をいくつも見つけるたびに、ハルが嬉しそうに声を上げる。


「おとーさん、ほら! また流れたよ! もう願い事思いつかないよ!」


 まあ、あれだ。世界の平和でも願っとけ。


 俺はいつのまにか眠ってしまい、気がつくと朝日が顔を出していた。ハルは磯で歓声を上げている。ガンザがやってきて、ヒロトも釣るか? と聞いた。もうちょっとしたら、と答えると、隣に腰を下ろして言った。


「ヒロトは嫁さん探して旅してるんだって? 子供連れて大変だな」


 こんな感じの事は良く言われるので聞き取れはする。返事に困って曖昧あいまいに誤魔化すと、


「見つかるといいな。俺ならたぶん探さないけどな」と言い、ガハハと笑った。


 ガンザと奥さんの仲が心配だ。


 日が登りきるまで、エサのニョロニョロ虫や波しぶきや、絡まる釣り糸と格闘かくとうして、俺が二匹、ハルが三匹の魚を釣り上げた。びっくりするくらい目が大きくまん丸の魚と、黒鯛クロダイに似た背ビレが凶悪にトゲトゲの魚だ。まん丸は煮物、トゲトゲは刺身で食べると美味いとヤーモが教えてくれた。


 宿に戻って少し寝てから、ヤーモに魚のさばき方を教えてもらった。トゲトゲの背ビレをハサミでパチンパチンと切ってから、ウロコをバリバリと包丁の背でがす。三枚におろす包丁捌ほうちょうさばきはなかなかのものだった。


 まん丸魚の目が幼気いたいけで、少し気がとがめたが、甘辛く煮ると格別の味わいだった。トゲトゲ魚の刺身もプリプリと歯応えがあり、甘い。生魚は寄生虫が心配だったが、内臓とその周辺を食べなければ大丈夫だそうだ。


 トゲトゲ魚のトゲトゲは、中が空洞になっていて軽い。短いもので五センチ程度、長いものはその倍くらい。何かに使えないだろうかと思い、ヤーモに言って全部持って帰る事にした。乾燥させるとどうなるかにもよるんだけどな。



 午後からはアンガーと買い出しに出かけた。


 アンガーはまだ若く、二十代前半くらいかと思っていたら、十八歳だと言う。口数が少なく滅多に笑わないが、笑うと幼さがにじみ、花がふわっとほころぶように可憐だ。ロレンもシュッとしてサラッとした美形なので、親戚というのもうなずける。猫系の人たちはしなやかな美しさを持っている人が多い。


 キャラバンの食料の買い出しは、八人で約二週間食べる分だ。かなりの量になるだろう。アンガーは荷車を引いてやって来た。


 まずは八百屋へ行く。大根や人参、じゃがいもや玉葱などの根野菜を大量に。大根は地球のものよりずいぶんと小さいが、じゃがいもは特大サイズだ。真っ赤なカボチャも買う。中味は白く、スープにすると甘くてコクが出る。バラの花のようにきれいなキャベツや楕円形のトマト、ピクルス用の小ぶりなキュウリもたくさん買う。緑色のナスに似た野菜も美味そうだ。


 ロレンのキャラバンの者だと言うと、八百屋のウサ耳おばさんが、頰を染めて値引きしてくれた。うむ、熟女キラーか。無理もない。俺もたまにキルされそうになる。


 果物屋で日持ちのしそうな青りんごや硬くて紫色のバナナ、まん丸くて大きいアボカドに似たやつなんかを買う。ロレンのキャラバンの者だと言うと、店番のばーさんも嬉しそうに値引きしてくれた。うむ、超熟女もキルしているらしい。


 肉屋で腸詰や燻製肉などを大量注文。途中狩りで補充できるので、生肉はそこそこで大丈夫だ。ロレンの(以下省略)。ただし相手は純情そうな垂れ耳の青年だった。ロレンは少し自重して欲しい。


 卵と牛乳を買って調味料や茶葉を補充すると、もう荷馬車は山積みだった。


 アンガーと二人で荷車を引いて、倉庫まで歩く。


「ヒロトの作るものは変わっているけど美味い。メシが楽しみになった」と言ってくれた。今までは交代で食事当番をしていたらしく、ハザンの作るメシが特にひどかったと、顔をしかめて言った。苦いか、硬いか、ナマ煮えかの三択だったと笑う。


 明日の朝は荷物を積んで、午前中には出発予定だ。ラーザ特産の野菜や干物、海藻類や塩なんかも仕入れたらしい。


 俺は荷車を引きながら、やり残した事がないか考える。さゆりさんに頼まれた、にがり用の海水も汲くんで来たし、ナナミの似顔絵も宿屋に貼ってもらった。お土産もたくさん買った。色々あったがラーザは良い町だったったな、と少し帰るのが惜しくなる。


 しかし早く帰らないと、ハナに忘れられてしまう。考えるとハナが生まれてから、こんなに長く離れたのは初めてだ。まだあと二週間以上会えないと思うと、胸に苦いものが広がるように感じた。


 ナナミに会う前、ハルやハナが生まれる前、俺はどうやって暮らしていたんだっけ。


 俺はもう、ひとりでは生きて行けそうにないなと、しみじみと思う。自分の家族を持つという事は、そういう事かも知れないなと思いながら荷車を引いて歩いた。


 荷車より重い。でも俺はこの重さを手放す気など、さらさらない。



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