第四話 ロレンとディナー
ハルと二人、大急ぎで海から戻ると、宿屋のソファでロレンが本を読んでいた。息を切らして入ってきた俺たちに気付き、顔を上げて立ち上がる。
「ロレン、待たせる、すまん」
頭を下げると「大丈夫、それほど待っていませんよ」と笑ってくれた。
「海、きれいで、遊びすぎ、ぼくがわるい」
ハルがわたわたと説明する。
「コレ、おみやげ、ロレン」と、薄い緑色の小さな貝殻を見せる。
「目の色、同じ、きれい」と、恥ずかしそうに手渡す。
「私の目の色ですか?」
ハルがコクンと頷く。
ロレンはソファに手を突いてフルフルと震えている。
俺は思った。
ああ、落ちたな、と。
「ありがとう、ハル! とても嬉しいです。さあ、美味しいものを食べに行きましょう! 何でも好きなものを食べて下さい!」
ロレン店長がハルの手を取って歩き出す。うむ、流石だハル! おっさんキラーの名は伊達じゃないな!
▽△▽
ラーザの海の幸は、どれもとても美味かった。
赤い皮の魚は身がホロホロと柔らかく、酸っぱくてピリっと後味の辛いタレと良く合った。貝を殻ごと炊き込んだ米料理は、コックリと味が濃く、シャキシャキの葉野菜で包んで食べると、また違う味わいがある。
甲殻類っぽい小ぶりな何かは、毒々しい紫色にビビったが、噛むとプツリと歯応えがあり、トロリとクリーミーな何かが口いっぱいに広がった。
『何か』について詳細を聞くのはやめておいた。知らない方が良いこともある。
ロレンはハルが美味しそうに食べるのを、ニコニコ眺めながら、次々に料理を勧めてくれた。そしてハルがトイレに立ったタイミングで、真面目な顔になり、
「ヒロト、教会へは行ったのですか?」と、聞いてきた。
「奥様の足取りは?」
「全然」
俺がそう答えるとしばらく考え事をして、
「うちのキャラバンは、まだ他にも海へのルートを持っています。また参加して下さい」
と言った。難しい言い回しもあったが、概ね理解出来た。願っても無い提案だ。
俺は「お世話になります」と頭を下げた。
「あなたは自分で思っているより、ずっと有能ですよ」
うむ。褒められているような気がするが。ロレンの話し方は、丁寧な分難しい。ハルが単語帳ごとトイレに行ってしまったので、調べることもできない。
「キャラバンでヒロトが、役に立っているという意味です」
俺が理解できずにいることに気付いたのか、簡単な言葉で話してくれた。
ハルがトイレから戻ると、デザートが運ばれてきた。もうおなかいっぱいで食べられないと言って、お土産用に包んでもらった。
店を出て、二人でご馳走さまと言うと「美味しいものばかりだったと言う意味ですか? なら良かった」と言われた。
うむ。この挨拶も通じないらしい。なかなか異世界語マスターへの道は遠いな。
ハルとロレンは、また手を繋いで、歌をうたいながら宿屋までの道を歩いた。




