表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第二章 キャラバンの旅とお食事係

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/168

第十二話 神さまの湖

 ドルンゾ山に入って四日目。今、馬車は大体五合目くらいの所を進んでいる。馬車が通れる道はこの辺りの標高が限界らしい。道はこの後山肌を沿ってぐるりと回り込み、谷を渡りまたぐるりと回り込み、やっと下りへと差しかかる。まさに『山を登り、谷を越え』だな。


 谷間の向こう側に、首の長いモコモコのアルパカっぽい動物の群れを見かけた。ハザンに聞いたら『ビークニャ』という動物で、毛は上等の毛織り物や、高級な毛糸の材料として高く売れるらしい。大岩の家に二匹くらい連れて帰りたい。さゆりさんは刺しゅうや編み物が好きなので、きっと喜ぶに違いない。



 昼休憩の時、アンガーとヤーモが釣竿の手入れをしていた。聞くと、この先に大きな湖と集落があるそうだ。集落で一泊して商売をする予定で、細い道を外れ更に上を目指す。少し馬車と馬に負担がかかるが、ラーザへの行き帰りに、必ず寄る集落らしい。いわゆるお得意様なのだろう。


 アンガーとヤーモは湖での釣りを楽しみにしているらしい。茜岩谷サラサスーンは乾燥地帯なので魚はほとんど食べることができない。シュメリルールの街は川が流れているが、食べられるほど大きな魚は住んでいない。俺は釣りの経験はほとんどないが、魚料理は楽しみだな。


 この先更に道が悪くなると聞いて、卵を使ってしまうことにした。ミルクもそろそろ使わないといけない。ホットケーキでも作るか!


 ベーキングパウダーも重曹じゅうそうもないので、まずは卵白を泡立てる。筋肉担当のトプルとハザンに手伝ってもらおう。


「混ぜる、シャカシャカ、ずっと」


 説明して見本を見せる。


 ハザンは『ずっとかよ!』と言いながらもシャカシャカと泡立てはじめる。この男はどうしてこう、刃物以外のものを持つと、不器用そうになるのだろう。トプルは何でも器用にこなすタイプだな。兄より優れた弟がここにいるよ!


 卵白はあっという間に白くなる。ハンドミキサーより速い。さすが世紀末筋肉兄弟だ。ツノが立つようになったらメレンゲの出来上がりだ。


『卵をかき回しただけで、こんな風になるのか?』と、トプルが首をかしげていた。この男がお菓子作りを知らないのか。それとも、この世界全体が知らないのか。


 小麦粉を泡立て器で混ぜてから(ふるう替わり)砂糖を入れて練った卵黄とミルクを入れてよく混ぜる。この中にメレンゲを入れ杓子しゃくしでさっくりと混ぜる。まだらでも大丈夫なので、まぜ過ぎないのがコツだ。あとは煙がでるほど熱したフライパンを、いったん濡れた布の上にじゅうっと乗せてから、バターを落として焼く。


 小さく切ったバターを上に乗せて、好みでハチミツかジャムをかける。カッテージチーズやホイップクリームを添えたいところだが、旅の空だ。我慢しよう。


 バターの香ばしい匂いと、生地の甘い香りにみんなが集まってくる。珍しくロレンが先頭だ。


「おや、ホットケーキですか」とクールに言うが、尻尾がピンと立ってフルフルしている。ロレンは見かけによらず、甘いものが大好きだ。さゆりさんの『ヒロトとハルをよろしくお願いします』という手紙と共に渡したクッキーも、少しずつ大切に食べているらしい。他のメンバーはあっという間に食べた。ハザンなんか三口だったな。


 それにしてもあの手紙は気恥ずかしかった。まるで小学生の頃の誕生会で姉貴に『ヒロトと仲良くしてあげてね』と、友だちにお菓子を渡された時のようだ。まあ、有難いんだけどな。


 ハザンが『しょっぱいものも食わせろ!』とうるさかったので、じゃがいもとベーコン入りのパンケーキも作った。ポーンとフライパンを返す技を披露したら、拍手が起こった。拍手、この世界にもあるんだな。ロレンに聞いたら、意味合いも同じだそうだ。


 昼メシを終えてお茶を飲んだら、いよいよ順路を外れて更に細い道を行く。馬車と荷物を気遣って、ゆっくりと進む。トプルとアンガーが先行して、道の大きな石を取り除いているらしい。馬車は歩く速度と同じくらいなので、俺とハルも降りて歩くことにした。ハルは道端の小さな白い花を摘んだり、変わった形の石を拾ったりしてご機嫌だ。


 俺たちが呑気にハイキング気分で歩いていたら、心配になったらしいハザンが馬車から降りてきた。この辺りでも季節的には狼の縄張りになるらしい。狼は薄暮性なので昼間はあまり狩りをしないんだけどな。


 三時間ほど歩くとあしのような背の高い草に覆われた、湖が見えてきた。


 一気に視界が開け、連なる山々が湖の向こうに見える。空が低く雲が近い! 静寂を絵にしたような、凪いだ湖面にゆっくりと流れる雲が映り、反射した太陽のまぶしさに目がくらむ。


 この世界は、なんて美しいのだろう。


 ハルが『おとーさん、すごくきれいな湖だね! 神さまが作ったみたいだ!』と眩しさに目を細めて言った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ