閑話 ウサギ狩り
夕方、狩りに出るというガンザに、俺はハルと一緒に着いて行くことにした。俺には圧倒的に実践経験が不足している。山猫に襲われた夜に、スリング・ショットの一発も打つことができなかったことは、やはり俺の胸に大きくシコリとなって残った。
なるべく足音がしないように歩く。木の枝を踏まないように気をつけていると、足元ばかり見てしまい、獲物を探すどころではない。
狩人への道は遠く険しい。戦うお父さんへの道は、更に遠い。
大岩の爺さんの言っていた『気配、消す』という奥義 ?を、俺なりに実践しながら歩いていると、ガンザが斜め上に向けてでキリキリと弓を引き絞る音が聞こえた。
ヒュッと鋭い音がして『ククーッ!』と短く鳴き声が響く。茶色い羽根の鳥ががバサバサと羽ばたきながら落ちる。お見事です。
目の周りが赤い三十センチくらいの雉っぽい鳥だ。茜岩谷の足長鳥よりも淡白だが、癖がない分食べやすい。
うずらの足が長くなったような、ミニミニサイズのダチョウのような足長鳥は独特のえぐみがあり、ハルは少し苦手だったみたいだ。ハナは何でも、もりもり食べる。
「この前食べた、あのおいしい鳥だよね?」
ハルが嬉しそうに言った。さっきまで生きていた動物を見て『うまそうだ』と思うとは、ハルくん、随分ワイルドになっちゃったのね。
俺は額のゴーグルを装着して、三十メートル程度先にピントを合わせる。注意深く探していくと、巣穴から顔を出している、耳の短いウサギを発見した。耳の間に小さな角のような突起が二つある。あれがハザンの好物の角ウサギか?
ハルとガンザに指で獲物を示し、頷き合う。しばらく待っていると、あと二匹、いや二羽、全部で三羽巣穴から出てきた。全員が狙いをつけ、逸る気持ちを抑えて、合図を待つ。
ガンザがチッと小さく舌を鳴らす合図に合わせ、同時に玉を撃ち出す。できる限り連射する。スリング・ショットは、弓より連続して射てる事が強みだ。
ガンザが二羽、俺かハルの撃った玉が一羽を仕留めたので、晩メシのおかずには充分だ。
狩りに出る前に『そんな玩具みたいので、狩りが出来るのか?』と言っていたガンザは、帰り道では『それ、あとでちょっと打たせてくれ』とスリング・ショットに興味津の様子だった。
ちなみに『ウサギを仕留めたのは自分だ』と、俺とハルが共に確信を持っていたのは当然だろう。
ガンザは『どっちだっていいじゃねぇか』と笑ったが、イヤイヤ! そこんとこ重要だから!
洞窟に戻ってウサギの解体をする時、ウサギ肉をフライパンでこんがりソテーしている時、ウサギジンジャーソテーを、美味しく頂いちゃってる時。俺は気になって仕方なかったことがある。
俺とハルはフードで隠しているが、ウサギ耳を生やしている、という設定だ。遠い故郷の習慣で、耳や尻尾は隠して生活している。特に『俺とハルはウサギだ!』と説明した事はないが、それはキャラバンのみんなも同じだ。この世界の人は特に自分の種族について名言しないし、他人のそれを詮索しない。
果たして俺とハルはこの肉、食べて良いのだろうか? 倫理的に。そこんとこ、どーなってるの? この世界的に!
だれか教えてくれ!!
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今日のメニュー
朝 塩にぎり、厚焼き玉子焼き、ピクルス(浅漬け)、胡麻と葉野菜のあっさりスープ
昼 ヘビ肉入りチャーハン、かき玉汁
夜 角ウサギのジンジャーソテー、豆入りの薄いパン、ピクルス




