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お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第二章 キャラバンの旅とお食事係

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第五話 旅の難所ドルンゾ山脈

 次の日から、本格的にキャラバンの生活がはじまった。朝は夜明けと共に起き出し、太陽が顔を出したら出発、夕焼けの頃には野営地に入り、夜を明かす。なかなか規則正しく健康的だ。食事は一日三回、午前中と午後に水場を見かけたら、馬車を止めて休憩をする。昼メシは午後の休憩の時だ。


 キャラバンの仕事は、馬車が走っている時と、止まってからのギャップが激しい。走っている間は、何もやる事がないのだが、止まってからは、まるで戦場のようだ。


 あまりにバランスが悪いので、昼と夜のメシの下ごしらえを、馬車の中ですることにした。芋の皮をむいたり、パン生地をこねたり、ピクルスの仕込みをしたりする。揺れる馬車の中でも、慣れればなんとかなるものだ。


 ピクルス液はさゆりさんに教えてもらって、大岩の家で作ってきた。酢に砂糖、塩、粒コショウ、この世界のピリ辛を一手に引き受けている『マルラ』という木の枝を入れてひと煮立ちさせる。液がこぼれたら悲惨なことになるので、大岩のチートアイテムであるゴムパッキン付きの瓶に入れて持ってきた。このキャラバンは鼻の良い、犬系の人が多いからな。


 大人の指程度の小さなきゅうり、地球産より柔らかくて黄色いにんじん、少し大きめの色とりどりのパプリカ、セロリに似た香りの良い野菜のくき部分なんかを丁寧に洗い、ざっくりと切って放り込んでおく。浅くても深く漬かっても、美味しく食べられるのだ。


 いつも俺とハルが乗る最後尾の馬車には、大抵たいていハザンが一緒に乗り込んだ。


 ハザンは武器の手入れをしたり、筋トレをしたり、座ったままで居眠りをしたりしている。ハルは俺の下ごしらえを手伝う以外は、折り紙を折っていることが多い。ハルの折り紙は、実はたいしたもので、レパートリーは数百種類、オリジナルの折り方や、リクエストに応じての即興そっきょう折りもできる。宝物は金と銀の折り紙だ。


 日本にいる頃、小学校の先生から『ハルくん授業中に、いつも折り紙を折っているんです』と、何度も電話がかかってきた。先生の途方に暮れた声音こわねに、恐縮して電話口で頭を下げたものだ。最近は茜岩谷サラサスーンの生き物や植物をよく折っている。


 ハルとハザンは、二人で紙ヒコーキを飛ばしたり、紙ふうせんを折って、打ち合いをして遊ぶうちに、すっかり仲良しになった。ハザンがキャチャーミットのような大きな手で、ちまちま折り紙を折る様子は、なかなか微笑ましい。


 俺とハルの言葉が違うのも、ちょっと変わった料理を作るのも、耳や尻尾を隠す習慣があるのも『遠い東の海を越えてきた異国人』だから。折り紙も故郷の子供の遊びということになっている。




 三日目に小さな村に寄り、荷物をいくつか下ろした。ロレンに頼んで、葉野菜を少し補充してもらった。


 そんな馬車での旅に、少し慣れはじめた五日目くらいから、だんだんと景色が変わりはじめた。


 所々に張り付いたように生えている、枯れた色の草が緑色を帯びてくる。サボテンを見かけなくなってきたなと思っていたら、ポソポソと控えめに葉をつけた木が増えてくる。


 気が付けば、赤茶色のひび割れた地面は、焦げ茶色に変わっていた。そして、もりもりと葉を茂らせた木を其処此処そこここに見る頃には、遠くに山脈が見えてきた。


 この旅最大の難所、ドルンゾ山脈だ。


 街道から外れるため、馬車の足も遅くなるし、野営地もない。熊や狼などの危険な獣も、茜岩谷サラサスーンにいる谷狼や谷黒熊よりずっと大きいそうだ。


 しかし何よりも危険なのは、ときおり被害の出る盗賊だという。キャラバンは仕入れや買い付けのために大金を持ち歩いているし、荷物も金になる。盗賊にとっては良い獲物なのだろう。一番怖いのは人間だというのは、異世界も変わらないらしい。


 山のふもとまであと一日くらいの距離。


 今日は少し無理してでも距離を稼ぎ、夕方までに麓にある村へとたどり着き、その村で一泊させてもらって、明日の朝から山へと入る予定だ。


 休憩時間を短縮して馬を走らせ、結局日が沈むギリギリに、なんとか村へと辿たどり着いた。


 馬の世話をしようとして近づくと、御者をしていたトプルが『無理させちまってすまなかったな』と、馬の首を撫でながら言っていた。


『馬の心、わかるのか?』と、つい聞いてみた。異世界なら動物と話せたり、心を理解できる人がいるかも知れない。


 トプルは『長い付き合いだし、なんとなくはわかるよ』と笑った。


 普通だった。常識的な答えに、子供っぽい質問をしてしまって恥ずかしくなる。縁側で猫に話しかけている婆さんに『おばあちゃん、猫と話せるんだ! すげぇ!』と感心している小学生のようだ。


 俺は『そうか』とだけ言い、もの思いに沈むふりをしてみた。誤魔化ごまかせたかどうかは、定かではないが。

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