表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第一章 スローライフと似顔絵屋さん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/168

閑話 俺がもらったもの

 教会で教えてもらった海辺の街は、全部で五つ。その中で茜岩谷から一番近いのは『ラーザ』という名前の街だった。幸いなことに、この街とシュメリルールは貿易が盛んで、行商人やキャラバンの往き来があるらしい。探せば同行させてくれるキャラバンが見つかるかも知れない。


 問題は子供たちなのだが、俺は連れて行くつもりでいた。ラーザまでは山越えがあり、時折り盗賊の被害もあるらしい。危険はあるだろう。でも、さすがに旅の間ずっと、二人を大岩の家に預けておくわけにはいかない。


 何よりも俺は、子供たちと長い期間離れる事が、どうしようもなく不安だった。手を離した瞬間にどこかに行ってしまったナナミのように、ハルやハナが目の前から消えてしまったら、俺はどうしたらいいのだろう。そのことを考える度に、まるで地面が透明なガラス板になってしまったようで、不安感に圧し潰されそうになる。


「ダメよ! 絶対にダメ! ヒロトさんはこの世界がどんなに危険か、全然わかってないわ! 日本で旅行に行くのとはわけが違うのよ?」


 さゆりさんは大反対だった。キャラバンには護衛がいることが多いらしいが、道中の危険を思うと子連れでの旅など、絶対にやめて欲しいと声を荒らげた。


 おっとりしたさゆりさんのその様子に驚いたが、それだけ子供たちのことを思ってくれているのだろう。ありがたいとしか言いようがない。


「「俺が一緒に行くから、大丈夫だ」」


 さゆりさんの意外な剣幕に、まるでタイミングを合わせたみたいに、リュートと爺さんが申し出てくれる。


 全員似た者親子だ。お人好しで暖かい。この人たちに出会えただけで、この世界に飛ばされて来た事が、全くの悲劇じゃないと思えてくる。



 とりあえず、この件に関しては保留にしてもらった。まずは、ラーザまで行くキャラバンか行商人を探すのが先だ。これは、シュメリルールの街に住んでいるリュートが引き受けてくれた。料金の兼ね合いもあるが、なるべくしっかりした護衛のいる事を条件にさせてもらった。


 例えば、俺が護衛を雇い、馬車を借りてラーザまで旅をした場合、どのくらいの金貨が必要なのだろう。


 まず命を預けるに足りる護衛を雇うのに、だいたい一人につき金貨二十枚。馬車と馬を借りるのに金貨三十枚、食料などの経費で金貨十枚。俺の似顔絵屋の稼ぎだと、三、四か月分くらいだろうか。その間の大岩の家での生活費なども考えると、旅に出るのが半年先になってしまう。そんなに、ナナミを待たせるわけにはいかない。


 例えば俺ひとりで旅にでる場合。ハルとハナを大岩の家に預け、リュートか爺さんに護衛を頼み、馬だけ貸し馬屋で借りる。だが、そこまで世話になってしまっては、今の関係ではいられなくなってしまう気がする。第一、旅は一度で済むとは限らないのだ。


 それにリュートや爺さんに、金貨を渡してついてきてもらうのは、どうかと思ってしまう。俺は大岩の誰かが必要とするなら、腎臓のひとつや角膜の片方くらい、喜んで差し出す。でもいつか、金や物なんて無粋ぶすいなものじゃなくて、違う何かを返したいと思っている。


 出来れば俺がもらったみたいな、暖かい何かを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ