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お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第八章 茜岩谷に吹く風が

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第一話 忌み地の謎

 砂漠から戻って一週間くらい経った日の事だ。


 俺はどうしても行かなければならない、と思う場所があった。


 俺たちがこの世界に飛ばされた日、アホみたいに呆けて、どうしたら良いかわからず立ち尽くした場所。大岩の家から真っ直ぐ西の方向にある『忌み地』と呼ばれる場所だ。


 鳥も動物も近寄らない、呪われた土地だと言われている。大きな怪物が出るとか、怖ろしい事が起きると言われているらしく、旅人も避けて通る。


 耳なしに関わりのある土地だという説もあり、時折り教会の人間が巡礼に行き、みんな帰って来ない、そんな噂もあるらしい。サラサスーン地方の『忌み地』に対する認識は『ヤバイから近寄るな』だ。


 怪しい事この上ない。


『たぶん、何かある』。俺はそう思っていた。俺たちの住んでいた地球とつながる何かがある。歪んだ空間の入り口とか、次元の狭間とか。俺の想像はB級SF映画並みに幼稚なものだったけれど、俺たちだけでなくさゆりさんも同じように、飛ばされて、立ち尽くした場所だ。


 あの場所に何かある可能性は高いと思う。


 今まで近寄らなかったのは『今は帰るわけには行かない』から。そこに行きさえすれば、すぐさま地球に帰れると思っているわけではないが、ナナミを迎えに行くまでは、家族が全員揃うまでは、近寄りたい場所ではなかった。


 今はクルミがいる。ご両親の事を考えると、なんとか無事に帰してやりたいと思う。忌み地にそのヒントみたいなものがあるなら、探しに行かなければならない。


 俺は自分で言うのもなんだが、とても臆病だ。良く言えば用心深い。石橋は何度も叩く。落ちた時の事を何通りも想像して、それに備えるような人間だ。今回の調査は『危険には近づかない』をモットーで行こうと思っている。とりあえずの様子見だ。


 ちなみに、ナナミは『石橋が壊れたら、落ちる前に渡り切る。落ちたら泳げばいい』みたいな、勢いを大切にするタイプだ。俺はハラハラしながら、浮き輪やロープや着替えを持って、こっそり後を着いて行く。ナナミも良い年なんだから、そろそろ落ち着いて欲しいな、とか思いながら、そんなナナミが羨ましくて、面白くて仕方ない。ナナミに振り回される事こそ、俺の本望なのだ。


 この世界に飛ばされる直前にも『辺境医療に(たずさ)わりたい。沖縄の離島に行きたい』と言っていた。俺は会社勤めではないし、絵はどこにいても描けると思っていたので、具体的に話し合っていた矢先の転移だった。ナナミが海辺の教会で、医療師(カラ・マヌーサ)をやっているとしたら、ある意味夢が叶ったようなものかも知れない。




『忌み地の謎を(さぐ)りに行く』と言ったら、リュートとロレンが着いて行くと言い出した。危険には近づかないつもりだが、やはりリスクはあるだろう。危険が目に見えるとは限らない。


「猫族の危険察知能力は大したものですよ」と、ロレンが言った。


 なんでも、尻尾の毛が逆立つ感じがするのだと言う。


「ああ、わかるな。静電気みたいな感じだ」と、リュートが言い、ふたりでうんうんと頷き合ったりしてる。


 尾てい骨しか持ってない俺には、全然わからない。ロレンのうねうねと自由に動く尻尾は、ハルではないがさすがに少し羨ましい。そういえばユキヒョウは、びっくりすると尻尾を噛んで落ち着こうとするらしい。一体どういう事か、さっぱりわからない。


 危険があるのに、なぜ着いてくるのか聞いてみた。二人は声を揃えて「面白そうだから」と言った。『好奇心は猫も殺す』ってことわざ知ってるか?



 念のため(ラングリット)完全武装して、子供たちに見つからないように出かける事にした。見つかったら二人と同じ理由で、着いて来たがるに違いないからだ。



 俺はあくびに乗り、ふたりは馬で行く。俺たちがあの日辿った、途切れ途切れの細い道を行く。


 二時間程走ると、ロレンが「ヒロト! 止まって!」と叫んだ。


 見ると、ふたりの尻尾が見事にぶわっと逆立っている。


「どうした? なにかあるか?」


「動物も鳥も見当たらない。忌み地に入ったのかも知れない」

「ヒロト、いいところに連れて行ってやる」からはじまる閑話シリーズ。


第四弾 『ガンザール』



「ヒロト、いいところに連れてってやる」


 ある日ガンザが大岩の家のドアを開けるなり言った。小さな虫取りあみのようなものを、何本も担いでいる。


「ハルとハナも連れていく。あとクルミも」


 またこのパターンなのか。賭けでもしてるのか?


「虫採りか?」


「えっ! 虫はちょっと――」


 クルミがしり込みする。この世界の昆虫は、かなりデカイのもいるので俺も苦手だ。


「虫じゃねぇぞ。もっと美味いものだ」




 獲物も目的地も明らかにならないまま、馬とあくびとクーで街道に向かって茜岩谷の大地をひた走る。


「ガンザ、道具、それだけ?」


 食える獲物で、弓も釣竿も要らないのに、網が必要。俺には昆虫以外に思い浮かばなかった。ゲテモノのたぐいでないことを祈る。


 街道に出ると、シュメリルール方向へ。なんだシュメリルールへ行くのか、と思っているとガンザの馬が街道を外れていく。どうやら南にそびえる岩山へ向かっているらしい。


 シュメリルールは、岩山から流れる川を挟むように発展した街だ。その上流は穀倉地帯になっていて、段々(だんだんばたけ)が広がっている。段々畑を抜け、更に上を目指す。道幅がどんどん狭く、険しくなっていき、やがて途切れる。


「あのへんまで頑張って行くぞー」


 ガンザが引率の先生のように、上の方を指さしながら言った。


「「「ヤー!」」」


 子供たちが声をそろえて返事をする。気分は遠足だな!




 たどり着いた先は棚田のような地形の場所だった。大小さまざまな大きさの池が段々に連なり、その全てが小さな滝で繋がっている。小さな虹を作っている滝もあり、不揃いなシャンパンタワーのようなその光景に、ガンザ以外の全員が声を上げる。


「わあー! すごいきれい! 連れて来る、ガンザ、タカーサ(ありがとう)!」


「ハル坊、まだまだ、お楽しみはこれからだぞ」


 ガンザが網の柄の長さを調節しながら、いつものようにガハハとおっさん臭く笑った。




「いいか? よく見てろよ」


 ガンザが『パン!』と両手を打ち合わせる。


 すると、小さな淡いオレンジ色の何かが、ポンと勢いよく跳ね上がる。もう一度手を叩く。今度は数匹跳ね上がり、そのうち一匹がスウ―ッと滑空し、隣の池にぽちゃんと落ちた。


「跳ね上がったところを網ですくうんだ。こいつら、ハサミが大きくてな、池を跳んで移動するんだ。面白れぇだろ?」


 こぶしほどの大きさのエビっぽい甲殻類に見える。ハサミが羽のように薄く平たい。


「なんで跳ねる?」


 言いながらパンッと手を叩くと、また数匹のエビが宙に舞う。ガンザから網を受け取った子供たちが、歓声を上げながらエビを追いはじめる。なるほど、これは確かに面白い。


「ビックリするんじゃねぇの? 」言いながらガンザも手を打つ。


「大きい音だとたくさん跳ねるぞ」


 ハナのピタンと手を打つ音ではエビは跳ねないようだ。シュンと耳を垂らしている。


「ハル、アレ折ってくれ。ほら、大きい音のするヤツ」


「あっ! 紙テッポウ!? でも薄い紙じゃないといい音しないよ」


「薄い紙あるぞ、ほら」


 俺が日本で仕事で使っていたトレーシングペーパーを取り出す。さゆりさんがお菓子を作る時に使ったきりで、まだ何枚か残っている。


 ▽△▽



「いっくよー!」


 ハルが折りあがった紙テッポウを勢いよく振りかぶる。


 パン!!!


 小気味いい破裂音と共に、周囲の池が泡立つように、数え切れないほどのエビが跳ね上がる。


「すげぇ音だな、ハル坊! こりゃあエビじゃなくてもビックリして跳び上がるぞ」


 一瞬臨戦態勢を取っていたガンザが、目を丸くして言った。クルミとハナが歓声を上げながら、網を持って走り回る。


「大漁だー!入れ食いだー!」


 クルミ、それちょっと違う。


「ハル、それお父さんがやるから、おまえも行ってこい」


 ハルがヤー(はーい)と言って網を持って走り出す。少し背が伸びた後ろ姿を見送る。この世界に来てから、ハルはどんどん強く、逞しく育っている。



 全員くたくたになるまで走り回り、持ちきれない程のエビを馬に積み、意気揚々と鼻歌を歌いながら帰る。ガンザ先生引率の遠足に一同大満足の一日だった。



 その日、大岩の家はエビ三昧の大変なご馳走になり、こちらも大満足の大満腹だ。ちなみにこの世界では猫科の人がエビを食べても、腰が抜けたりはしないそうだ。



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