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お父さんがゆく異世界旅物語  作者: はなまる
第六章 耳なしの民話とバレリーナ

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第七話 露店市場の街にて 後編

 ガンザが露店を出しているバザールの一角を陣取る。


 ハルは黒い大きな布を敷き、その上に色とりどりの折り紙を並べていく。『紙細工、銅貨三枚~』と書いた看板を出し準備完了。日本円にして三百円程度だ。少し高いか? とも思ったが、日本製の色紙(いろがみ)はもう手に入らない貴重品だ。この世界では見かけない折り紙の目新しさもあるので、強気の価格設定とした。ちなみにハルの小遣いは、一週間で二百円だった。金銭感覚が狂ってしまわないか、少し心配だ。


 俺は、サラサスーンやラーザの風景画を何枚かと、似顔絵の見本を何枚か飾り『似顔絵描きます。銀貨一枚~』と書いた看板を出す。俺の準備もこれで完了だ。


 ラッカを軽やかにかき鳴らし、クルミちゃんがそれに合わせて踊りだす。全て即興(そっきょう)だ。


 爪先立ち、片足でクルクルと二回転。腰に巻いた薄布がスカートのように空気を孕んでふわりと膨らんだ。両手を大きく広げてから、風を抱きしめるように胸元で交差する。ゆっくりと足を高く掲げてゆき、綺麗なアラベスクでピタリと止まる。


 隣で店番をしているガンザが「おおー!」と感嘆の声を上げた。道ゆく人が足を止め、振り返る。クルミちゃん、これが君の踊りの(ちから)だ。君は(ほこ)っていい。




 ひとしきり踊った後クルミちゃんから視線が来る。ひとつ山場を作って盛り上げてから、ラッカをトレモロに切り替える。クルミちゃんは曲の山場で細かいステップを繰り返し、大きくジャンプしてから静かに地面へと膝を着いた。


 いつの間にか出来ていた人垣から、歓声と拍手が上がる。見惚れるようなお辞儀をしてから箱を置くと、ご祝儀(しゅうぎ)があちこちから飛んで来た。


 クルミちゃんが人垣に背を向けて、俺たちだけに見えるように、小さくガッツポーズを決めた。さっきまでの舞姫ぶりに不似合いな『やってやったぜ!』みたいなニンマリした笑みまで浮かべている。


 ほらほら、せっかく人が集まってるんだから、ちゃんと宣伝して!


『みなさん、私の踊りを見てくれて、タカーサ、タカーサ! うちのキャラバンの異国の品や紙細工もぜひ見て下さい。似顔絵はいかがですか?』


 丸暗記した宣伝文句を、順番に指差しながら口にする。


 うん、見事な棒読みだ!




 そのまま歩き去る人も多かったが、興味を持ってくれた人もそれなりにいた。


 ハルは「坊主、それなんだ?」と聞かれ「虫、ここをこうやると足がうごく」とか「鳥、ここをひっぱると羽ばたく」とか折り紙の説明をしている。


 折り方を教えてあげたり「だめ、強くはだめ。破れる」と注意したり、リクエストに応えて色々な動物を折ったりと、なかなか忙しそうだ。


 ガンザの方も、虚実きょじつ取り混ぜた絶妙のセールストークに余念がない。


「これはチョマ族の織物か?」


「ああ、値打品だぜ。冬の一番柔らかい毛だけ使ってるんだ」


「このガラス細工は?」


「サラサスーンで一番の人気の品だ。もうすぐ手に入らなくなるぞ」


 俺まで、つい買ってしまいそうになった。


 似顔絵屋にも何人か客が来た。土地柄で顔を(さら)すのを嫌う女性もいるらしいので、衝立(ついたて)も用意してある。


 客足が途絶えたら、クルミちゃんに踊ってもらい人を集める。これを四回ほど繰り返した頃、夕方の鐘が鳴った。そろそろ店じまいの時間だ。


 宿に戻ってそれぞれの収益金額を数える。ハルもクルミちゃんもニヤニヤしっぱなしだ。俺も風景画が二枚売れたのでかなりの稼ぎになった。


 これならあと二日頑張れば、なんとかなるかも知れないな。


 ハルが「あくびのためにがんばるぞー!」と言ったので、俺とクルミちゃんは「おー!」と応え、その後、三人そろって照れ臭くなって笑った。




▽△▽



 挿話 その頃の留守番組


 俺たちがポーラポーラまで行って、露天市場の街へと戻ってくるまで約一か月掛かった。その間留守番組は何をしていたかと言うとーー。


 ガンザは毎日露店を出し、店番をしていたそうだ。最初は客足の望めないような場所を、嫌がらせのように割り当てられたりしたらしい。新参者への洗礼のようなものだったとガンザは笑っていたが、ロレンは「約束が違いますねぇ」と言って、黒い笑みを浮かべていた。


俺たちが戻ってきた頃には、かなり良い場所で店を開いていたところを見ると、きっと静かな攻防戦が繰り広げられたのだろう。ガンザの事を荒だてないやり方は、さすがの年の功と感心させられる。とりあえず、ロレンはその物騒な顔ヤメロ。


 トプルは馬車と倉庫を、ヤーモと交代で警備しながら、この街の剣術道場へ通っていたそうだ。砂漠の人たちが好んで使う、三日月のような短刀や、ブーメランに持ち手が付いたような変わった形の剣の、独特の型や足さばきをみっちり修行していたと言っていた。


「おまえ! 俺が盗賊と命のやり取りしてたっつーのに!」


「盗賊との真剣勝負か。俺はそっちが(うらや)ましいぞ」


 どっちもどっちの、バトルジャンキーだ。アンガーに謝れ!



 ヤーモはトプルと交代で警備をしながら、サボテン農家へ手伝いに行き、その見返りとしてサボテンの栽培について教えてもらっていたそうだ。たくさんの種類のサボテンを株分けしてもらって『サラサスーンで育ててみる』と、いつも通りの眠そうな顔で言った。


 俺たちは、盗賊に襲われた話しや、砂嵐に()った話し、ロレンの宝石市場での買い付けの話しをした。一か月ぶりにようやく顔をそろえた面子(メンツ)と酌み交わす酒は、いつもよりは、少しだけ酔いが回ったような気がした。


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