プロローグ2
1月3日 時間にして午後6:30のことだろうか。もう空はとても暗くなりかけていた。1月ということで寒さも厳しいもので、人通りの多いこの市では人々の白い吐息がよく目に付いた。
とその時のことだった。
「え〜っと、皆さん聞こえますでしょうか。」
こんな寒い中半袖長ズボン、そして金髪をした男がマイクを使って怒鳴りだした。
こんな人通りの激しい街中で朝礼台のような台の上でマイクで怒鳴るものがあるのだろうか。もちろん人々は気にもしていない。そう、あそこにやばい人がいる 。ただそれだけだった。
男は続けて
「私がここでこのようにして演説するにはそれ相応の理由があるのです。まさか理由もなしにマイクで怒鳴る狂人なんて思っておられないことでしょう。」
「単刀直入に言います。私は、魔法が使えます。そう、私はこの国に革命を引き起こす者です。」
「魔法」この一言で少なからず何百人は耳を傾け、男の元に寄ってく者もいた。
「魔法?お前何言ってんだ?この現実世界で魔法なんてものは存在し得ない。証明されてる。」
こんな野次が飛び交うのも当たり前だ。魔法を具現化できないということをいくつもの実力派の研究者グループが発表していた。
フフっ。マイク越しに笑い声とともに吐息がかかり街中に響いた。
「存在不可の証明?何をバカげたことを言ってるんだ? 今私が使える。これが存在可の証明ではないか。」
野次馬が「見せてみろ」そう発言しようとした時だった...
空高く男が手を掲げると同時に巨大な火の玉が現れる。それは具現化した小さな太陽のようであり、人々は開いた口がふさがらなかった。
気にしていなかった者までも...その場にいた全ての者が目を街中に現れた火の玉に向けていた。
「口は閉じようか。でないと虫が入ってくるよ。」
と冗談を混ぜながら男は得意げに笑った。
「ニセモノだろ?そんなありえない大きさの火の玉が現れるわけねぇよ。」
ふと我に帰り1人の大学生の若い少年が叫んだ。それに賛同し、そうだ!そうだ!と言わんばかりに罵声が降りかかった。
「少年よ。特別にだ。火の玉に近づけてやろう。」
「あぁ、やってみろ。イカサマだって事証明してやる。」
いかにも小学生同士の口喧嘩のような会話が街中に響く。その時のことだった。
少年の体はふと宙に浮いた。スピードを徐々に上げ何十メートルも先の火の玉に直進していく。
少年の服装はみるみるうちに溶け始めた。
「(嘘だろ。暑い...皮膚がやける。こんな訳・・・)無理。わかった。俺が悪かった。お前は本物だ。死ぬ....。」
少年の叫びとともに少年の体は地に落下した。
「言っただろ。本物だって。」
その途端に、人々が周りを見合わせ、歓声がどっと湧いた。その場にいたもので彼を疑う余地のある者は、もうどこにもいなかった。
「改めまして自己紹介。私は魔法の支配権を持っています。私はありとあらゆる魔法を取得していますので...そうだな...マジックマスターとでも呼んでください。」
男は、笑顔で続ける。
「私は、この国に魔法をもたらし、この国をより発展させたい。魔法があれば不可能なことまでが可能になる。もちろん悪にもなり得るがね。」
「私は政府に物申す。魔法の存在を認め、国に魔法省・魔法職を設置することを。」
男に当てられた罵声は今では歓声に変わり、いわゆる配信サイト等で配信するものも出ていた。
「政府の皆様。もし私の要求を検討しないというのであれば・・・」
周りの者がその険悪な雰囲気を察し、皆が黙り込んだ。身構えたものも少なくない。
不気味な笑いをした後に口を開け、
「この魔法という力をこの国でなく...そうだな、軍事大国等に提供しようと考えております。」
始まって間もないこの演説はテレビ局でも生中継され、全国各地に広まっていた。
「総理...。いかがいたしましょう。今のような力が軍事大国に渡れば1つの国にこの世界が支配されかねません。」
「彼を呼べ。マジックマスターと名乗る奴を招き入れるのだ。」
後日、男は政府に呼ばれ、会談を行った。
そしてその十年後に魔法省が国の機関としておかれ、魔術師という職を用意するとともに、魔術師を希望する者たちへの魔法の伝授も始まった。
あの男いやマジックマスターは魔術師を育成する学校を設立し、その学校の校長...ではなく、設立責任者へと就任した。なんだそれと思うものも多いだろう。
設立責任者とは、その学校の安全に関して責任を持つものであり、育成に関しては関与したりしなかったりと曖昧な立ち位置だ。
そんなこんなでこの国に魔法という概念が現れた。魔法を正義に使う者、悪事にふるう者、様々なものがある中、この世はどうなっていくのだろうか。