執事の最期
どうも皆さん初めまして。
この作品は作者の初投稿作品であります。
至らぬところが多いと思いますがご了承ください。
ミスやアドバイスなどをして頂けると幸いです。
「はぁ、はぁ、ごほっ!」
一人の男性が壁に背もたれ、かけていたペンダントを右手にとっていく。
そのペンダントには男性の仕えてきた主人の名前が彫ってある。この男性は人生の多くを執事として過ごしてきた。それは自分の人生を救ってくれた恩人に仕え、自分の罪を清算するために過ごすはずだった。しかし、その主人に仕える人生は男性に感情を与え、幸せを与え、生涯の友を与え、家族を与えた。それはすべて仕えた女性が与えてくれたものだった。
「お嬢様・・・」
男性の人生にはその女性がいた。その人を愛し、慕い、尊敬していた。その人は男性の全てだった。
「ごほっ!!はぁ、はぁ、はぁ・・・」
男性の口から血が流れており、左腕はなく、右腹には大きな穴が開いていた。男性の前には2000人以上の人が倒れており、その後ろには多くの人が肩を抱き合って涙を流していた。
ここはある国の重要機関の前。国の政権を乗っ取るテロ組織の活動が活発化し、警察や軍の出動も操作され大量の兵器が使用された。男性は後ろにある建物、その中の人達を護る為戦ったが、それでも最後に弾丸をくらってしまった。
遠くからやっと到着したであろう、軍や国際警察などが見え急いでやってきている。そして後ろにある建物の扉から一人の女性が走ってきており、その後ろからも何人も走ってくる。
「零っ!!」
「お、お嬢様・・・。こんな危ない場所においでになるなんて・・・」
この女性こそ男性の全てであり、仕えてきた主人である。
「零!!なんでこんな無茶を!!なんで!!左手まで失って!!」
女性は男性の胸に飛び込み、大粒の涙をこぼしながら叫んだ。
「お嬢様・・・。どうか泣かないでください・・・。ごほっ・・・」
「れ、零っ!!こんなに血が・・・。誰か!!今すぐ医者を!!」
「お嬢様・・・私は・・・」
「もう喋るな!!言い訳は後で聞く!!だから今は喋るな!!」
男性の左肩やお腹からは大量の血が流れており、いたるところから血が流れていた。それはだれが見ても致死量の流血であり、後ろからきた人達も顔をしかめている。
「お嬢様・・・私はもうすぐ死にます・・・」
「そんなことを言うな!!絶対に死なせんぞ!!早く医者を!!」
「私のことは・・・自分が一番よくわかります。私は死ぬ・・・。ですが今私は本当に幸せです・・・」
「っ!!」
ふと見ると太陽があり、それが地平線へと沈もうとしている。その夕日に照らされた女性を見て男性は笑った。
「私は今、世界で一番美しいものを見て死ねる・・・。お嬢様・・・あなた様はなによりも美しい・・・。何にも真っ直ぐで、少しドジでなによりも笑顔が素敵な方・・・」
「零!お願いだ!もう静かにしてくれ!後で聞かせてくれ!元気ないつもの声で・・・」
女性もわかっていた。わかってしまった。男性がもう死んでしまうと。もうこれが最後だと。
「お嬢様・・・私は多くの罪を犯した。ごほっ・・・。しかし、それを全てあなた様は受け入れて下さった・・・。過去を忘れるのではく・・・、過去を抱え生きてく道を教えてくださった・・・。私に光を与えて下さった・・・。私に色々なものを与えてくださった・・・。多くのことをして頂いた・・・。私はまだ全然返せていない・・・」
「そんなことないぞ!!お前がいるだけ私は幸せなんだ!!お前がいなくては駄目なんだ!!だから死ぬなあ゛!!」
女性の人生にはこの男性がいた。女性はその男性を愛していた。執事としてではなく一人の男性として。だが立場や周りにより想いは伝えられず、主人として接するしかなかった。それでも家族として接し、大切な人であった。
「お願いだ・・・。死なないでくれ・・・」
「私は幸せ者です・・・。私の人生は血塗られていた・・・。そんな人生の最後がこんな素晴らしい終わり方なんて・・・。ごほっ・・・。友に恵まれ、家族に恵まれ、主人に恵まれ・・・。本当に良かった・・・」
後ろから来た人達。彼が仕えた家の人達も涙をこぼしていた。
「奥様・・・旦那様・・・仕えさせていただき・・・ありがとうございました・・・」
「零っ!」「っ!」
「皆さまも・・・こんな私を受け入れて下さり・・・ありがとうございました・・・」
「うっ、うっ・・・」「くっ・・・」「っ!・・・」
「信・・・お前は俺の唯一無二の親友だ・・・。あとは任せた・・・」
「うっ!・・・おうっ・・・!」
そして男性は胸で泣いている女性に最後の言葉をかけた。
「お嬢様・・・」
「零ぃ・・・うっ・・・」
「私は幸せでした・・・。私の人生は素晴らしい人生でした・・・。それは全てあなた様のおかげです・・・。最後にあなた様を護り死ねる・・・こんな幸福なことはありません・・・」
「本当に・・・、ありがとう・・・ございました・・・。結衣様・・・。それでは・・・」
「うっ・・・うっ・・・、零ぃ・・・零ぃぃぃぃ!!」
遠くで太陽が地平線に沈み、暗くなった世界に多くの悲しみの声がこだましていった。