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日が落ち始め、世間一般からはおやつの時間に俺は目覚める。
夕焼けがこの部屋には最低限のベットやクローゼット机しかない客室のような部屋、殺風景な部屋だが割と俺は気に入っている。
体をベットから起こし、個室のシャワールームに入り、寝汗を流し落とす。
温かいシャワーを浴びていると、ふと無意識に昨日の一件のことを思い出す。
黒いスーツの男の言っていた理想の人間とは、俺はあの場で本当に美容師に任せて逃げて良かったのだろうか。
そんなの俺1人で考えてもなんの意味もない。
昨日の会議のあと、デストは【肉体を縫う者】のコンタクトが測れるまで、館で療養することになる。
両手は白い包帯で包まれ、安静な状態らしい。本人は冗談や、肘で何か芸が出来ないか詮索するまで元気だ。
そして、シャワールームを出て下着をつけたままクローゼットの方で着替えようとした。
そして、部屋に戻ると1人の見たことのない女の人が勝手に上がり込んでいることに気がつき、その女性もこちらの存在に目を向ける
「あら、返事がないから勝手に上がり込ませてもらったわ。」
声から察するに主人だと分かる。
今日の服装は裸足で白の水色や黄緑を意識した花柄のワンピース姿をしていた。
見た目からして30代くらいの女性の印象を受ける。
「うわぁぁぁ」
パンツ一丁の自分の格好に羞恥心が込みあげ、頬の体温が上がることを感じた。
「ふふふふ、あなた一々反応が面白いのね」
なんだか、少年少女の印象が強かった主人に大人な対応をされなんだか、慌てた自分が情けなく感じる。
ん、そうか、友達のお母さんに偶々(たまたま)見られたと考えれば不思議と恥ずかしくないぞ、俺は年も分からない女性の前で自分に自己暗示をかける。
主人が部屋を見回すと、やっぱり地味だわ、と言った感じで俺の手を掴み、無言で笑みを浮かべ俺に紙幣を渡そうとする。
「参田、あなた今日は買い物にでも行ってらっしゃい。これは私からの引っ越し祝いだと思ってちゃんと自分のために使いなさい。」
主人から1万ベニー札を25枚渡される。
(1ベニー=1円)
生まれてから、いきなり現金で25万も貰ったことがないので、金額に驚きを隠せず唖然としてしまう。
やはり、主人といっても裏社会の会社の社長ってことだから金銭感覚もそれなりに違うんだろう。
主人は金を渡すと仕事に戻ると言って、部屋を去っていった。
「そうだ、今日の使用人とのヴァイオリンのレッスンはお休みよ。ゆっくり買い物を楽しんで来なさい。」
そうして、財布も持っていない俺は紙幣を机の上に置き、比較的に重い木のクローゼットから、何枚も掛けてある標準的な家紋入ったの白いシャツと、黒いスラックスを取り出し着替える。
シャツとスーツ姿で買い物に行くのも、なんとなく気分が乗らないな。
俺は早速、家の住人達に誰か一緒に買い物に行く誘いをしようとする。
まずは男だし比較的に誘いやすそうな乗送迎人にしよう。
乗送迎人を探し、中庭のベンチでタバコを片手に足を伸ばし座っている彼を見つけ、買い物に誘うと「生憎、俺は今日、車と銃のメンテしないといけねぇから」と言われ、断られる。
そして、しらみ潰しに1人1人買い物に誘うと、
庭師は庭仕事がまだあるとのこと。
美容師は療養中で誘えない。
計算機は居留守を使い、部屋から出てこない。
料理人からは、塩や山椒など調味料の買い出しを頼まれ、
使用人からは、洗剤の買い出しを頼まれる。
機械はお菓子を買ってこいの一言を言われる。
つまり、結局俺は一人でサイフォジオの駅で買い物をすることになる。
ここの住人を誘っただけで買う物が増えることを学んだ。
そして、あの館のワープできる非常階段を使い、とある茶色と橙の住宅マンションの非常階段に繋がる。
この階段を使うとまず、どこの階段に繋がっているか分からない。
マンションを出て確認すると大きなサイフォジオのシンボルの電波塔が東に見えることからサイフォジオの街には無事に着いたことが分かった。
日はもう赤く染まり始め、夏の夕焼けが街を照らし、夜の始まりを告げる。
行き交う人たちは様々で、これから1日が始まる人、1日が終わる人、まだ1日が続く人が都市の夕景色に色をつける。
俺も、これから1日が始まると考えると普通の生活には戻れないことを感じ、しみじみとした気持ちで近くの駅に向かう。
駅にたどり着くと、大きな有名な場所で多くの店が駅の中、駅の外にたくさん並んだり、そびえ立っている。
俺は、もらった紙幣から小銭が出てポケットの中身がとんでもないことになる前に、目に付いたアクセサリー屋に入り、長持ちしそうな茶色の長財布を購入する。
これで、お金をチャラチャラ鳴らさずに買い物ができる。
残りのお金はまだま沢山ある、とりあえず服、洗剤、調味料、お菓子の順で買い物をすることにしよう。
迷いながらも自分の物、頼まれた品を順調に買うことができた。
どの店も以前から買いに行く店ばかりだった、服は結局、元の家に持っていたような服だけをチョイスして買った。
少しばかり、オシャレに挑戦しようと思ったが、やはり普段着でこれからも買い物しやすいような服を買うことにした。
もう気がつけば、空は暗く街が明るく光り出し、交通量、人、声が次第に多くなって行く。
中心街の駅なので、店を出て通りを見ると100人以上は常にいるような光景だ。
俺は男だからあまり荷物を持って買い物に行きたくはないのだが、両手とも買い物袋や手提げ袋でいっぱいになっていた。
少し休憩がてら、駅の正面入り口近くのベンチに座り一休みする、駅前で路上ライブをする男性の声が気持ちく感じるくらい疲れていたのだろう。
もう4時間くらい立ちっぱなしなので、座った途端に脚が喜ぶように脚を
ぐーっと伸ばした。
「参田、遅いから迎えに来てやったぞ」
声のする方向を観ると乗送迎人が、少し大人びた私服姿で突然、迎えに来てくれた。
「細かい話は後だ、さっさと俺の車に来い。」
乗送迎人は、俺と目が合うとすぐに背を向け自分の車の方へ歩き出し、それについて行く。
黒いセダンの車は駅に少し離れた道沿いに駐車してあった。
それに俺たちは乗り込み、乗送迎人は、夜会が始まるから迎えに来たことを告げる。
「そういえば、ここからどうやって、館まで戻るんですか?」
「まぁ、正規のルートなら車で4時間くらいかかるが、お前が来た非常階段と同じ方法で帰る。」
キーを回し、エンジンが車を温め始め、夜の都市街を走り出す。
都市の流れる風景を横目に乗送迎人と今日の買い物のたわいもない話すると、人気の少ない高速道路真下の不思議な先の見えないトンネルの前までやってくる。
このトンネルの不思議な所は、高速道路を横切るトンネルは普通8車線くらいの幅しか距離がないのに、このトンネルの先は暗くて何も見えない。
「参田、よーく見てろ、お前も察しがついてるだろうが、これが車で都市に向かう方法だ。」
車のライトを消しトンネルの中へと車を発進させる。
暗いトンネルなのに、乗送迎人はハンドルをほぼ真っ直ぐに固定したまま暗いトンネル内に車を走らせる。
そして1分くらい車を走らせたとき、トンネルの先に月明かりと一本の電灯が見え始める。
トンネルを抜けるとそこは、月明かりに照らされた花畑だった。
青い月明かりだけじゃなくここでは星の光でさえも花達に色を与えていた。
花畑には一本の道が長く伸びており先には、外観のまだ見慣れないワインレッド色のローズブレイド館がぽつんと建っている。
館に近づくにつれて、ビニールハウスや畑が見えてきて庭師の手が丁寧に加えられていることが分かる。
車は小さな白い門を潜り、館の玄関前に車を止める。
「ほらよ」
乗送迎人は、先に車から降りるように支持し、俺が降りると車を車庫の方へと運ぶ。
そして、荷物を自室に置き、食堂に向かう。
食堂に初めは俺と乗送迎人しか居なかったが次第に住人たちが集まりだし最後に主人が食堂に入る。
「皆、集まったようね。昨日の件、計算機が調査したのでその報告をしてもらうわ。」
主人が今日の夜会の議題を簡単に話すと計算機が席を立ち、この前とは違うノートパソコンを操作しながら調査の結果を主人の方を向いて報告する。
「まず、スーツの男はまだ、確定はしていないが、
縫われた者という情報から、国の死亡者リストから探しましたが、特徴が一致するような男性は見つかりませんでした。
また、今日の22時21分に〇〇駅から徒歩10分ほど離れたコンビニの監視カメラから得た、この映像をご覧ください。」
と言って、机の上にある3Dプロジェクターで、とあるコンビニの監視カメラの映像を映し出す。
映像は、普通のカメラでレジを手前に、店全体を映している。
少し左奥に雑誌コーナーが配置してあり、奥に多少、コンビニ前の外が見える。
数秒映像を再生していると、1人の男性が外を歩き、コンビニの前を通過しようとする。
一台の車が彼の横を通ると、彼はコンビニの前で姿が消える。
どうやら、転んでしまったのか、その場で蹲る。
足元は見えないが彼の両足に何かがあったようだ。
「この後、店員が外のうめき声を聞いてすぐに両足の無くなった男性を見て、救急車を呼んだが、彼は救急車の中で息を引き取ったらしい。」
明らかにおかしかった、車にぶつかってもいないのに両足が一瞬で無くなるなんて。
この映像を見ている住人達も、そう思っただろう。
「この男の死に方が余りにも不自然だったので、幾つか駅の通りの監視カメラの映像を、前もって録画した映像を調べると、彼は1時間前に▲△大通りの歩行者信号を無視して、車通りの多いところを無理やり横断した。
そして、そのあと、スーツの男らしき男が男性に近づき接触していたことが分かりました。
つまり、このことから………」
「奴の能力には、執行猶予のようなものがあると…」
計算機の報告に料理人が口を挟む。
「御名答な表現だ。執行猶予なんて僕の用意していた言葉よりしっくりくるじゃないか。
そう、執行猶予のような能力があるからこそ、奴は今まで、奴は捕まらず、大抵の死人を事故死と見せかける事ができた。」
そして、計算機の報告はまだ続く。
「そして、この録画映像はもう2度とカメラからは取れなくなっていた。その男性が死んだ映像の部分だけ加工され移し替えられていた。
つまり、奴は複数人で行動していてその中に俺と同じ計算機が仲間にいることが考えられます。」
計算機の報告と仮説は妙に信用が高かった。これだけの少ない情報で、スーツの男の能力を1つ暴いてしまったことに俺は計算機に尊敬の念すら感じる情を抱いていた。
「なるほどねぇ」
機械は少し、上を向きながら言葉を漏らす。
そして、庭師が今回の報告から新たな情報を付け足し、スーツの男の能力をまとめる。
「……では、まとめると、男の能力は【触れた者を裁く能力】でよろしいですな。」
「いや、少し違う。」
俺は何を思ったのか庭師の言葉では満足行かず、これまで起こったこと、俺なりに整理をし住人達に告げる。
「あくまで、仮定ですが、スーツの男が裁けるのは【第三者】の時ではないでしょうか。」
この発言に、俺は住人達の目の色が若干変わったことを感じる。
特に主人からは、獲物を殺しに掛かる吸血鬼のような眼差しを感じた。
「もしも、【触れた者を裁く】能力ならば、主人様が奴の拳を蹴った時、あるいわ、肉弾戦をした時に暴行罪や襲撃罪のような罪にあたり、主人様の手足が吹き飛んでもおかしくなかったが、奴はそれをしなかった。
いや、できなかった。
以前までチンピラ達や美容師さんの手を溶かした時と、主人様との違い……それは、奴が【犯罪を他者として、見たかそうでないか】だと思います。
奴は主人様の襲撃の時は、奴自身が暴行罪を受けたので、能力が発動できなかったとすると奴の能力は…」
ここまで、自分が言っていることが正しいか間違っているはもう考えてはいなかった。
俺が導き出した奴の能力は、
「【第三者を裁く】能力」
空気が少し止まり、食堂に1つの小さな拍手が鳴り響く。
「見事よ、参田。
あなたの意見は真に近づいた気がするわ。
あなたのその発言する勇気は家族を救うわ。」
主人は1人微笑むと、夜会、もとい報告会の締めの宣言をする。
そして、料理人の24時の夜食の会が始まりゆっくりと住人達は食事を始めるのであった。