1.1
「は、ぬいぐるみ!?」
「そうよ、人形。」
参田は目の前にいる女の言葉で自分の耳を疑った。鏡に映っている俺の体がぬいぐるみということなのか、確かに重傷患者を手術した跡ののように至る所に糸で縫い合わされている。
「俺は意識を失っている間に何が起きたんだ」
女はベットの裏から立ち上がり、螺旋階段の方に歩いて行く。
「あなたは私たちに似た勢力に消されたのよ、体の部品をバラバラにされて、そして人形不足だった我が主人に体を拾われたのよ。あなたは現実世界にはいるけど、この国の社会からは死んだ事にされているわ。」
その女の話によると、参田は一般社会では大量の睡眠薬を飲んで自殺したとの事。だったらこの縫われた跡は誰が
「あなた、誰が体を治したのか知りたそうね」
「あんたの主人様が治したんじゃないの」
「いいえ、治したのは他の人物よ、私もよくは知らないわ。あなたの体を拾ったのがローズブレイド様ってことは変わりないけど。」
ーーーーコンコン、コンコン、コンコン
螺旋階段の上から一定のリズムでノックされる。
「あなたさっさと着替えなさい。いくら人形だからって、主様の前では、人しての最低限のマナーを守って上の階に上がって来なさい。ローズブレイド様が待っているわ。」
女は部屋から去っていった。
参田は、ベット横にある椅子にかけられたシャツとパンツ、スラックスを手に取り服に着替える。姿見の鏡を見ると、このシャツの胸ポケットに特殊な赤と黒の刃物と歯車のような刺繍が施されていて、みたことのないマークから察するにオーダーメイドのシャツだ。シャツから気品が満ち溢れてすぎていて参田には似合わないと感じながら部屋をあとにする。
部屋を出ると廊下を赤い絨毯が覆い、窓は1つもなく天井に吊り下げられた電球のようなもので廊下を照らす。ここがとこだか分からないが階段がありそうなところまで歩いて行く。
少し歩くと、廊下の脇から一人の細身で長身の男が出て来てこちらを向く。
背の高い髪が赤と緑で分けられた奇抜な髪型、耳にはいくつものピアス、真っ二つに分けるように荒々しいジッパーのようなものが顔の中央に縫い付けてある男がこちらに向かって歩いてくる。
「あら、参田そんな格好で主人に会うの?」
どうやらオカマのようだ。
話し方と声の高さの不釣り合いさから、彼からオネェの風を感じる。
「あぁ、使用人に呼ばれて主人様に会いに行くそうだ。」
「ダメねぇ、あんた。ローズブレイド様の前でそんな髪型を見せたら。」
ちょっと私に任せなさいと言われ、男の部屋に連れて行かれシャワールームの洗面台に連れて行かれる。
男の部屋は凄く片付いていて、少し散らかっているとしたら部屋の隅にある化粧台だけだった。
そして、洗面台の前に座らせられると鋏を取り出し襟足や髪の少し多い部分を梳いたりして髪型を整える。
そしてこの男も鏡ごしに目を見ると、左目があの女のように深い深紅の色を輝かせていた。
ほんの1分間の間にカットと変な薬品を髪に吹きかけセットもしてくれた。
「あんた、見違えたわね。さっきまで、ザ・フツメンだったのに」
手際のいい作業を鏡ごしに髪型がだんだんよくなるのを感じていたので参田もこいつにはなんか、好奇心や感謝の念が湧いてくる。
「サンキューな。あんたの名前をきかせてよ。」
「あたし、デガロット・C・T・Rよ」
男の名前を聞いたとたん俺の身体中に冷や汗をかいた感覚が全身に回る。
「あんたが、ここの主人か」
俺はとっさに男の顔色を伺ってしまう。
「はいはい、あんた少し勘違いしてるわ。私は主人じゃないわよ。Rって名前に反応して、そう思っても無理はないわね。ここに住んでいる者はみんな名前にRがついているのよ。主人様が決めたことだからね。
あんたさっさと上の階に行かないと主人様がお待ちしておりますわ。」
少し、考えていたがそうだ参田は会う約束などしていないやつを待たせていることをオカマの忠告で思い出した。
「ありがとうな、デガロットさん」
急いで上の階に行くために、部屋出ようとする。
「どういたしまして、次からはデストって呼んで。みんな私のことをそう呼ぶから」
「デストさんまた後でな」
部屋を飛び出しドアの閉まる音が廊下中に響き渡った。
ーー(なかなかやるじゃない、この顔を見て臆さないなんて。)
参田は一式しっかりとした格好で廊下に出て階段を見つける。
階段はビルにどこにでもありそうな質素な階段だった。
廊下までは凄く西洋のような造りや飾り、物なんかが沢山あったのに対してこの階段は、非常に現実味がありすぎる。
昇ろうとすると一気にさっきまでの空間が夢でこの階段の何も飾らない質素な階段が現実の世界に戻そうとする。
何階まで登るのだろう。小さな踊り場を五つほど通って来たが扉が一つもない。
階段には先ほど履いたスペクテイターシューズの響く音がカツンカツンと広がる。
参田は何階ぶんくらい昇ったのだろうか。やっと階段の天井が見え始めようやく一つの扉の前へ辿り着く。扉はとてもシュールな灰色のスチールドアが階段に馴染む雰囲気だ。
恐る恐るドアをそっとあけ、ドアの先を覗き見る。
参田は自分の目を疑った。縦に細長い80畳ほどの広さがあるだろう部屋。
床はツルツルに磨かれた光沢のある大理石が敷き詰められ、真ん中に赤い絨毯が奥の大きなガラス窓に伸びるように敷かれている。
部屋の端にはたくさんの本棚と本が並べられ奥には大きな茶色い机が置いてあり、机の上に誰かが腰掛けながらこちらに顔を向けている。
「御機嫌よう。参田結春。」
奥の机から1人の少女の幼そうな声が聞こえる。
「あなた、私をいつまで待たせるつもり。」
俺は少女に手を招かれ、机に腰をかける少女に近づく。
「あの、さっき使用人の方から少々話を聞きました。この度はありがとうございます。」
歩きながら、少女に近くに連れて、大きな窓から蒼い月明かりが照らされ少女の姿を確認する。
髪はストレートの長い金髪、赤と青の薔薇の髪飾り少し黒いベールが顔を隠す、身長は165cmくらいで西洋の高級そうな赤い丈の短いドレスに身を包む。
少女を後ろから照らす蒼月光は彼女の顔に影を落とす。
彼女の顔の影から不気味で妖美に輝く深紅二つの瞳が様々な表情を作り出す。
「ふふ、会って早々お礼なんて久しぶりにされたわね。」
少女は動く気配はない。
ただ机に腰をかけ、左手を左鎖骨のあたりに位置させ、少し笑った表情で体を少し揺らした。
「あなた、うちのDに聞いたと言っていたけど何かお望みはなくて」
「俺はこの世でもう死んだことになっているって聞きました。まだ、信じられない。」
俺は重い口に自分の浮き上がってくる疑問を彼女にぶつける。
「あなたは、なぜ俺を拾ったんだ。…そして、あなた達は何者ですか。…人形て何ですか。」
少女は俺の話を聞くと、手元にメイドを呼び飲み物を用意させる。
「いいわ、あなたの質問した順番に答えてあげるわ。」
少女の顔は少し冷静な顔つきになり、机から離れこちらに向かって歩いて来る。
そして俺の着ているシャツを引っ張り耳元に口を寄せる
「あなたを拾ったのは、ただの気まぐれ」
シャツを離し、胸を軽く押してまた机の方に向かい歩き出す。
「そして、私達はローズブレイド家、裏社会で闇の仕事をこなす、私のファミリーよ。」
「人形……」
俺は自分に置かれた状況の唯一の情報の意味を知るのに少し唾を飲み込む。
少女はこちらに振り返り、髪をたなびかせる。
「私たちのファミリーのことよ。
あなたの体と魂は【死】によって離れた。
しかし、あなたの魂は私が仮縫いをしているところなの
このままじゃあ、あなたはまた魂になり天国に送られるかも」
俺の頭はたった数単語の文章でも理解が追いつかなかった。
そして少女は突然、俺に右小指を差し出す。
「私の名を授かり、魂の契約を」
彼女の両目の輝きがまし、その小指に吸い込まれるように参田の手は少女の小指を優しく握る。
握った瞬間、周りの本棚、本、大理石、外の景色、月が淡く光を失いはじめ。
彼女の長い金色の髪の毛が大地に伸びる樹の根のように伸び、参田を包み込むように
咲き溢れる。
その美しい光景の中で参田は腹の奥底から浮かんでいた何かが大地に結びつけられ、
生きていては味わうことのできない安心感を感じた。
参田は片左目から自分では分からない涙を1つまた1つとゆっくり流し、金髪の少女の前で立ち尽くしていた。
「ミタ・ユイハル、あなたに新しい名前を授けるわ。【サンタ・Y・A・R】。」