流星一閃
「だぁあああーっ!!!」
ジェットは光の勇者としての力を存分に解放し、リリムに突進する。拳を振りかぶり、渾身の力に乗せて打ち出す。
「ふんっ!」
しかし、それは掌で受け止められた。二人を中心に衝撃波が発生し、彼女の方が少し後退りする。
「……む、流石は勇者。」
「どぁだぁああーーーっ!!!」
回し蹴りを放つ。とてつもない威力で放たれたソレは、またしても悪魔の掌により受け止められた。
遅れて、蹴りの圧がとてつもない衝撃となり、周囲を爆破した。
「な……!!?」
「それでは、少しばかり……!」
彼女はジェットの目の前に手を出す。それで、デコピンが飛んできた。
「!!!」
刹那、それの威力が炸裂する。デコピンに当たった光の勇者は、とてつもない威力で殴り飛ばされたかのように吹き飛ぶ。猛スピードで水平に飛び、民家を何棟も薙ぎ倒した。
「なんだと……!!?」
ローレンスは、ジェットの方を向いて唖然とする。しかし、ジョーは笑って突撃した。
「それが、どうしたぁあああッッッ!!!」
走りの踏み込みの度に、地雷でも踏んだかのように爆発が巻き起こる。その爆炎から、燃え盛るような紅蓮の変異を果たした彼が飛び出した。
「へぇ。」
「オラオラオラァ!!!」
眼前まで来るなり、超連続で攻撃を繰り出した。力任せながら、とてつもない速さで繰り出される攻撃の乱舞。喩えるならば、黒鉄混じりの炎の旋風。
「遅いぞ、餓鬼。」
しかしその両腕をリリムはアッサリと捉え、掴む。旋風は電源を切られたかのように止んだ。
「にっ!?」
「それっ!」
そのまま彼を引き寄せ、腹に膝蹴りした。
「ぐはぁあっ……!!」
吐血し、目を見開く。しかし歯を食いしばって意識を保ち、頭を振り上げる。
「そぉら!」
その顔面に、蹴りを入れた。為す術なく、彼は蹴り飛ばされた。しかしそれと入れ替わるように、ローレンスが来た。
「はぁああっ!」
青い神力を、両手の手刀に集中させる。それで、リリムに斬りかかった。
「少し遊んでやろうか。」
彼女は指にエネルギーを纏い、ローレンスに突撃する。
「せいやぁあっ!」
彼は手刀を振るい、猛攻した。
青い風が奔る。風は光となって、邪悪を断ちにかかった。
「くす……」
しかし、指がローレンスの猛攻を防いだ。
邪悪は逆に、光を切り落とした。
「ふんっ!はぁっ!だぁあっ!せぇいっ!」
「よっ、ほっ、おっと、ほれほれ。」
斬撃を何度も放つ。それは放たれる度にリリムの指に切り落とされ、代わりに反撃となって返ってくる。それを受け流し、また攻め込む。
「しゃあっ!!」
ローレンスが真っ直ぐに、貫手する。しかしそれは避けられ、リリムは背後に回り込んだ。
「そこだ。」
エネルギーを纏った指を振り下ろす。しかし、彼はそちらは見ずにガードした。
「せぇいっ!」
振り向きざまに手刀を薙ぎ払う。
「むぅ、二刀の心得があるか。」
そんな事を言いながらスウェイバックし、軽々しくそれを避ける。
「こっちだ!!」
その先に、ジェットが居た。
「っ!?」
「くらえーーーッッッ!!!」
ゼロ距離で渾身のブレイブキャノンを放ち、全エネルギーをぶつける。技は直撃し、リリムはエネルギー波に飲まれた。
「ほぉらっ!」
しかし、彼女はそこから飛び出して来た。
「なにっ!?」
「ふんっ!」
呆気に取られるジェットの顔面に、肘打ちする。それで彼は鼻血を噴きながらぶっ飛んだ。
「ぐはぁあっ……!?」
壁に叩きつけられ、地に落ちてしまう。
「そ、そりゃあねぇだろ……!!」
今出せる限りの自分の最高の技が、全く通用しなかった。当たった本人は、パンパンとホコリを払いながら余裕の表情でこちらを見ている。
「何かと思ったら、生暖かいだけの技か……その程度じゃ、私は倒せんぞ?」
「く……!」
「こいつを受けて、そう言えるか……!!?」
ジョーが、拳を振りかぶって力を込める。その拳にとてつもない熱が纏われた。
「吹っ飛べェエッ!!!」
拳を突き出す。そこから一本の光線が伸び、リリムに直撃した。そこを中心にドーム状に爆炎が巻き起こり、大爆発が巻き起こる。
「どうだ……!!?」
濃い爆煙が、立ち込める。しかし、その中に立っている影が一つ。
「……そんなアホな。」
ジョーがそう言いながら、苦笑いする。立っていたのは、無傷のリリムだ。
「今度は、ホコリを巻き起こすだけか。大差ないではないか。」
ケホケホと咳き込みながら、彼女は爆煙から出る。姿を確認出来た瞬間、既にそれは残像になった。
「なっ!?」
「ちょいちょい。」
ジョーの背中が、指で鋭打される。遅れて衝撃が巻き起こり、彼はぶっ飛ばされた。
「ぐぁああああーーーッッ!!!」
「はぁあっ!!」
彼女は間髪入れず、その場で回し蹴りを放つ。
「!!?」
それは背後から迫っていたローレンスを捉え、蹴り飛ばした。
「ずぁあっ!!」
ジェットが、彼女の頭上から踵落とししにかかってくる。
「あまい。」
悪魔的な反応速度で彼は捉えられ、踵落としが形になる前にその体が抱え込まれた。
「ちょっ!?」
「そりゃ。」
そのまま足を掴まれ、力任せに地面に叩きつけられた。ジェットを叩きつけられた地面は穿たれ、小さいクレーターを刻む。
「ぐっはぁあ……!!」
「ふん。」
ダメージに揺らいでる最中のその顔面を、真っ直ぐに蹴った。彼はぶっ飛んで、地に伏してしまう。
「く、ぐぅうう……!!」
ジェットは立ち上がり、息を切らしながら構え直す。
「な、なんという強さだ……!!」
ジョーはそう言いながらも、しっかりと立ってリリムを見据える。
「しかし、我らは負けられん……!!」
ローレンスは口から血を吐きながら、構えた。
「ほほう、これだけ圧倒的な差を見せつけられてまだ立ち上がるというのか……くくく、面白いなぁ、人間よ……!」
「ほざけぇええっ!!!」
三人は突進し、リリムに猛攻した……
「……ぐ……!!」
サルバは陰に隠れて、好機を伺っていた。その足に、魔力を込めながら。
「……」
今から放つ技は、この命につき一回きりの大技。外せば、世界は終わるが……こんなクソみたいな命一つと世界が救われるなら、安いものだ。
彼の体から、とてつもない魔力が噴き上げる。神の力にも等しいそれは際限なく強大になり、辺りにとてつもない力の奔流が流れ出た。
「……!」
「なんだっ!?」
これには、戦っていた皆が気付いた。そして、彼の溢れ出るエネルギーの大きさに気付いた。
「……む、アレは不味いか。」
リリムはそこに手を向け、衝撃波を放つ。しかしその前にジェットが立ち、衝撃波を弾き飛ばした。
「ぐぁああ……!!!」
腕が、千切れ飛びそうになる。そんな激痛を、歯を食いしばって我慢した。
「ジェット!!」
サルバは動揺し、気の膨張を止めてしまう。そんな彼に、ジェットは親指を立てた。
「……ッ……!」
それを見て、再び気の膨張を始める。
「あの盗賊、何を……!!」
「何か、大きな事をしようとはしている……!!ならば、それに応えるだけ!!」
ジョーとローレンスの猛攻が、鋭くなる。リリムはそれを次々に捌いた。
「無駄だ無駄だ……!そんなもの私の力の前では無意味だ……!」
「だまれぇえええッッッ!!!」
「せぇえええいっ!!」
ジョーは、全力でパンチを放つ。ローレンスは、本気で蹴りを放つ。赤と青の一撃は、彼女の親指と小指によって止められた。
「んな……!!?」
「くっ!?」
「小賢しい……!」
彼女の目が、紅く光る。次の瞬間、とてつもない速さで二人に攻撃が連打された。
「ぐぁああああっ!!?」
「ぐはぁあっ……!!」
何をされたのかすら理解出来ない程の超連続攻撃。二人はぶっ飛ばされ、地に倒れた。
「消えろ……!!」
リリムは、二人に手を向ける。まさに必殺のエネルギーが放たれる寸前に、ジェットが目の前に現れた。
「ブレイブキャノンッッッ!!」
現れるなり、渾身の技を放つ。
「無駄な事──」
それを弾き飛ばそうと、腕を振るう。次の瞬間、ブレイブキャノンはスピードを跳ね上げてリリムに直撃した。
「ッッ!!?」
爆発し、ぶっ飛ばされる。何とか足を地に踏ん張り彼の方を見直した。
「……何だ、今のは……!?」
明らかに、先程のジェットとは何かが違う一撃。確かに与えられたダメージと、その証拠の僅かな吐血──
「……ッ!!」
「いくぞ。」
彼はそう言いながら拳を構え、リリムの懐に入った。その拳は、既に残像。今までの旅で、あらゆる相手の反射神経を凌駕した神速の拳を放った。
「ちぃいっ!」
それを払い落とし、反撃する。しかしジェットもその一撃を払い、攻撃する。そして、互角の攻防を繰り広げた。
「こ、こいつ……!」
「ぐ……!!」
彼は自身の体に奔る魔力の回路に、限界以上の神力を流し込んでいた。額には青筋が浮かび、体は悲鳴を上げる。
「そこまでして……!!」
「ずぁあああっ!!」
一歩を踏み込み、彼女の腹にパンチする。その一撃は、確かに手応えのあるものだった。
「……っぐはぁあっ……!!?」
「ぐっぁああ……!!」
しかし、同時にそのパンチで終わりだった。腕の先からヒビが入り、身体中に広がるような感覚。そのダメージは彼の気力を砕き、聖なる鎧は光となって消えた。
「かはっ……!!」
彼は倒れ、地に伏せる。しかし、その表情はしたり顔でリリムを見ていた。
「ーっ!!!ーーーッッッ!!!!」
彼女は腹を押さえ、悶絶している。想定外の威力のダメージが、腹筋を貫通してきたのだ。
「こ、このガキ……!!このまま、踏み潰して──」
「せいやぁあっ!!」
彼女の背中に、ローレンスの無寸勁が入る。衝撃と魔力が、彼女の体で炸裂した。
「小賢しい……!」
しかし、彼女は大して効いた様子は無く、振り向きざまに彼を殴り掛かる。
「そんな事──」
その拳を間一髪で避け、距離をとる。そして、手を向けた。
「分かっていたァ!!」
その手を握った、次の瞬間だった。何かの術式が発動し、リリムの半径1m辺りがドーム状の結界に囲まれた。それは次第に小さくなり、彼女の全身に余すことなくピッチリとくっつく。
「こ、これ……は……!!?」
「ぐぅうっ!!この結界に包まれても、自我を保ちながら動くか!!」
ローレンスの腕から、血が噴き出す。
「き……さま……何を……し……た……!!?」
「一度決まった技だ。二度目は無いからよく聞いておけ!陰陽式・時間固定……!!空間を時間ごと固定し、対象を封印する最強の封印結界だ!それを、先の拳に込めた術式と掛け合わせ、これ以上とない程の結界を作った……!!完全に封印することは叶わなかったが、貴様にはこれで充分だ!」
「そん……な……だ、だ……が…….!!」
彼女はぎこちなく震えながら、動く。その度にローレンスの腕が悲鳴を上げ、血が噴き出した。
「き、きさ……ま……も、ただで……は……済む……まい……わたし……も……動ける……!!」
「フッ……貴様は、話を聞いていなかったのか?"これで充分だ"と、伝えたつもりなのだがな……!!」
「……!!?」
ジョーがジェットを抱え、その場を離れる。ローレンスも依然として腕に力を込めたまま、ジョーの横に来た。
「頼むぞ……!!」
「我の腕は黄金宝石で何とかなるからいいが、この結界はそう長くは保たない……!!故に、この腕が弾け飛ぶまで奴を封印しよう!頼んだぞ、盗賊!!」
ここで、サルバの気がとてつもない大きさに膨れ上がった。その気は天を衝き、地を揺らす。この星が、彼の気で震えているかのようだった。
「な……!!?あ、あん……な……ちか……ら……!!受け……た……ら……!!」
リリムは、逃げようとする。しかし、ローレンスの結界が全力で、その動きを邪魔した。
サルバは、静かに目を閉じて詠唱を始めた……
「遍く星々の聖なる主よ、我に力を貸し与えたまえ!この命を威力に、邪悪を穿つ一筋の流星を生み出すが良い!」
そう言い終わると、あの馬鹿でかいエネルギーが更に倍に膨れ上がった。そのとんでもないエネルギーが、彼の体にまるごと圧縮される。
「ありがとう、盗賊王。」
そんな事を呟いてから、目を見開く。圧縮していたエネルギーが全て解放された。
「うぉおおおおーーーッッッ!!!」
解放されるエネルギーのままに、飛び蹴りを放った。それは初速の時点で既に人智を超えており、尚も加速した。
「ああああああああーーーッッッ!!!!」
彼の体が崩壊する。腕が千切れ、空気による摩擦熱で体が炎に包まれる。それが光となって、彼は一筋の流星と化す。命と引き換えに星となった奇跡が今、ここに為された──
「!!!!!!」
それは、リリムの胸を貫いた。捨て身の代償の流星は、見事に邪悪を穿ったのだった。




