魔王軍直属魔導師、アデリア
西の魔物達の溜まり場で、激戦するジェット。
遂に、その最奥部へと踏み入ろうとしていた。
「だらぁあっ!!」
扉を蹴り破り、剣を構える。
広い部屋に、出た。
部屋の周囲には、怪しげにランタンが光っている。
そして、部屋の中心に目を向けてみた。
「ほう……?ここまで来るとはな……」
ジェットの目線の奥……
赤髪の魔導師風の女が、座っていた。
「お前はっ!?」
ジェットはそいつに剣を向け、睨みつける。
しかし女はクスクス笑いながら、ジェットを見た。
「私はアデリア。サキュバスだ。」
「サキュバス……?」
サキュバス……
悪魔というカテゴリの中の一種で、相手を眠らせてから襲うのを得意とする魔物だ。
魔法に長けた者が多いが、武術に長けた者も居るという。
本来ならば中級モンスターなのだが、こいつは何か違った。
何か、異様な力を感じるのだ。
しかし、これで確信が一つ出来た。
こいつを潰せば、チイ村の男達も解放できる……
「デュラハーンを倒したって聞いたぞ。やるじゃないか。」
「そりゃどうも……」
「クスクス……あのモンスターは、大きめの魔工生体に人間の男の力を注ぎ込んで、それに鎧を着せただけのモンスター……君ぐらいの実力者相手じゃ、歯も立たないだろう……」
アデリアはそう言いながら立ち上がり、杖を持つ。
そして、魔力を解放させた。
ドシュウッとオーラが吹き出し、旋風する。
「……はぁあっ!!」
ジェットも魔力を解放し、闘志を爆発させた。
「……今までてめぇらがチイ村にやってきた、数々の非道……許す訳にはいかねぇ。」
「ならば、戦おうか……勇者クン。」
アデリアは杖を構え、戦闘態勢を取る。
「うぉおああっ!!」
ジェットは走り、アデリアに斬りかかった。
しかしアデリアは高速移動でジェットの背後に周り、背中を蹴り飛ばす。
「っ!?」
「ファイア!」
杖が光り、そこから火の玉がジェットに向かって飛んで行く。
「だっ!!」
ジェットは振り向き、火の玉を切り弾く。
既に、アデリアが迫っていた。
「はぁっ!!」
「くっ!!」
杖を腕でガードし、蹴りを放つ。
「ふっ!」
蹴りが足でガードされ、アデリアの蹴りが飛んでくる。
「ちっ!」
ジェットは離れ、バク転して距離を取る。
「逃がさんっ!」
アデリアは追い、杖でジェットに猛攻した。
「くそっ!!」
杖での猛攻を、剣で凌ぎ続けるジェット。
「しゃっ!!」
アデリアの足払いが決まり、ジェットは転ぶ。
「っだぁあっ!!」
ジェットもローキックを放ち、アデリアを転ばせた。
「なにっ!?」
「だぁあっ!!」
そのまんま、体を両断しようと剣を振り下ろす。
しかしアデリアは転がって避け、ジェットの眼前に杖を向ける。
「サンダー。」
「っ!!」
なんと、ジェットは至近距離で放たれた電撃を見切り、避けた。
「なに……!?」
アデリアの顔面に、足刀が叩きつけられる。
「がっ!?」
「しぇああっ!!」
次にジェットは後ろ回し蹴りで、アデリアの顔を蹴り抜いた。
「ぐはっ!?」
しかし、アデリアは倒れずに踏ん張った。
「だぁあっ!!」
ジェットは、まず剣を上に投げる。
次にアデリアの頭を掴んで、顔面に膝蹴りした。
「ぐぁあっ!」
剣が落ちてきて、それを取る。
そして、アデリアの腹を斬った。
「ぐっ!」
斬撃は浅く、致命傷にはなっていないようだ。
「だぁあっ!!」
ジェットの飛び蹴りが、アデリアの顔に飛んでくる。
「顔ばかり……」
アデリアはそう言いながら、ジェットの足を掴む。
それは凄い怪力で、ジェットの蹴りを止めていた。
「なっ!?」
「狙うなっ!!」
そして、床にジェットを叩きつけた。
「ぐっはぁあっ!?」
「このっ!!」
アデリアの足が、ジェットの顔面を踏みつける。
武術的なものではなく、怒りに任せた一撃だ。
ジェットの顔が、グリグリと踏みにじられる。
「ぐ……!!」
ジェットは剣を一旦手放し、アデリアの足を掴む。
「な……?」
「せぇえいっ!!」
そして転がりながらアデリアを倒し、足に足を絡ませる。
そして、関節技を決めた。
「いっ……!?」
「よっ!」
ジェットは立ち上がり、剣を取りに行く。
「だっ!」
アデリアは剣を蹴り飛ばし、遠くへ飛ばしてしまった。
「お前っ!?」
「フレアっ!」
ジェットの足元が光る。
次の瞬間、大爆発が巻き起こった。
「ふん……たわいもない……!」
アデリアはそう言いながら立ち上がり、構え直す。
「……あっぶねぇ……!」
「なにっ!?」
ジェットは、氷の球体の中に居た。
どうやら氷魔法でバリヤーを張って、爆発から身を守ったらしい。
バリヤーを解除し、構え直す。
「……氷魔法か。」
「ああ……」
アデリアはクスクスと笑い、棒立ちになった。
「っくっくっくっく……はははははっ!そうか、これが勇者か!剣しか振るえぬかと思いきや、意外と肉弾戦も得意のようだな!」
「……」
「いいだろう……私の真の力を見せてやろう。」
そう言いながらアデリアは、杖をジェットに投げた。
ジェットは杖を取り、構える。
「……はぁあっ!!」
アデリアが力を解放すると、魔導師のローブや帽子が吹っ飛んだ。
際どい下着姿になり、肌の露出が過激になる。
「どうだ?中々セクシーだろう?」
「お、おう……」
サキュバスだから、このぐらいは予想できてた。
しかし、次に起こることは予想出来なかった。
「はぁあああ……!!」
アデリアが力むと、辺りのランタンが揺らぐ。
その光が、アデリアの体に入り込んだ。
「……なにっ!?」
「っはぁあああっ!!」
体中に刺青のように光が刻まれ、程よく筋肉が張る。
悪魔の翼と角と尻尾が生え、魔力もパワーもグンと上がった。
「お前……ハイサキュバスだったのか!」
ハイサキュバス……
サキュバスの上位互換的な種族である。
圧倒的に戦闘力が上がったサキュバス、という感じだ。
だったら、魔王軍直属の奴だとしても何らおかしくない。
アデリアの体中の光が消え、エネルギーが収まる。
「……ふふ、ただのハイサキュバスじゃないぞ……人間の男達のエネルギーを、吸いに吸ったのだ……今の私は、四魔姫より強い!」
「よ、ヨンマキ……?なんだそりゃ……」
「お前が知る必要はない……ここで死ぬがいい!!」
アデリアは構え、ジェットに突進した。
「くそっ!」
ジェットは杖を取り、アデリアの攻撃をガードしようとする。
「だぁあっ!」
蹴りで杖が壊され、木片が舞った。
「ウッソだろ……!?」
「しゃあっ!!」
次に正拳突きが、ジェットの顔面目掛けて飛んでくる。
ジェットはそれを両手で受け止め、踏ん張った。
「ぐ……!!」
「ふははっ!!」
アデリアの蹴りが、ジェットのこめかみに飛んでくる。
しかし、ジェットは腕でガードした。
「なにっ!?」
「どらぁあっ!!」
ジェットのパンチが、アデリアの顔面を打ち抜いた。
「っほう……!?」
アデリアは拳を握り、踏み込む。
そして、ジェットの腹を思いっきり打った。
「がはぁあっ……!?」
吐血しながら、膝をつくジェット。
「はぁあっ!」
そのジェットにハイキックを放ち、上方向へ蹴り飛ばす。
「ぐはぁあっ!」
「はぁあーっ!!」
そして、ジェットの所へ飛んで、裏拳でぶっ飛ばした。
ジェットは床に叩きつけられ、その床も粉砕してしまう。
「はぁあーっ!!くらえくらえくらえぇえっ!!」
アデリアは容赦なく、ジェットにフルパワーのエネルギー弾を連射した。
爆発が連続し、衝撃が響き渡る。
「ふん……」
「……」
ジェットは、倒れていた。
口から血を垂らしながら、だらんと倒れていた。
「ふん……呆気ないものだな……」
アデリアは、ジェットに近寄る。
そして、その体を撫でた。
「よく見たら、中々いい体をしているな……ふふふっ、今になって殺すのが惜しくなった……」
次の瞬間だった。
ジェットは目を覚まして、アデリアの目を指でピッとなぞった。
「ふぁっ!?」
アデリアは目を抑え、よろける。
そのスキにジェットは立ち上がり、アデリアの背中に抱きつく。
「なっ!?」
「おらぁっ!!」
そして、バックドロップを決めて、脳天を床に叩きつけた。
「ぐはっ……!?」
次に手を掴んで、その手に足を絡ませる。
「はっ!」
そして、十字固めで関節をキメた。
「ぐぁあっ……!こ、この……!!」
反撃しようと、アデリアは体制を整えようとする。
「よっ!」
しかしジェットはアデリアの首に足を絡め直し、もう一回十字固めした。
「ぐぁあっ……!!」
「次っ!」
素早く体制を作り、アデリアにヘッドロックする形を取る。
「ぎっ!?」
「おらぁっ!」
そして、その背中を思いっきり床に叩きつけた。
「ぐはぁっ!」
「ふぅっ!」
ジェットは距離を取って、したり顔で構え直す。
アデリアはそれを見て、歯ぎしりしながら腕を抑える。
「く、くそ!卑怯者めっ!!」
「喧嘩相手に兵隊ぶつけるお前の方がよっぽど卑怯だよ!」
ジェットは、アデリアの顔を蹴り抜く。
「だだだだっ!!」
体に蹴りを連続で叩き込み、脇腹に後ろ回し蹴りをする。
「あぐっ!?」
「おらおらぁっ!!」
更に顎を二段蹴りし、よろめかせた。
「お、おぅう……!!」
「どりゃあっ!!」
渾身の踵落としで、アデリアを跪かせる。
「〜っ!?」
「シャオラァッ!!」
ジェットは跳んで、体をギュルルッと回転させる。
そして回転が最高スピードになるタイミングで、アデリアの顔面に蹴りを炸裂させた。
「ぐはぁあっ!」
アデリアはぶっ飛んで、壁に叩きつけられた。
「ぐ……!」
アデリアの手に、何か当たる。
先程蹴飛ばした、ジェットの剣だった。
「うぉあぁあっ!!」
アデリアはそれを取り、ジェットに突進した。
「なっ!?」
ジェットは、素早くスウェイバックする。
胸に、軽く切り傷が入った。
「くそっ!!」
「はぁあっ!!」
兜割りが、ジェットに迫る。
「そいつをっ!!」
ここでジェットが白刃取りして、斬撃を止めた。
「なっ!?」
「待っていたぁ!!」
次の瞬間、ジェットの後ろ回し蹴りが、アデリアのこめかみを打ち抜いた。
「っぐぁあっ……!!?」
剣がその手から離れ、アデリアはゴロゴロと転がる。
「はぁ……はぁ……」
ジェットは剣を構え直し、アデリアに向く。
「はぁっ……はぁっ……!!」
アデリアは立ち上がり、構える。
そして高速移動で迫り、ジェットに頭突きした。
「っ!?」
「ふんっ!!」
更にジェットの頭を掴んで、もう一発頭突きをかます。
ジェットの額が裂け、血が吹き出た。
「このっ!!」
アデリアの腹を、剣の柄で叩く。
しかし、アデリアはまた頭突きをしようとしていた。
「はぁあっ!!」
「こなくそっ!!」
次の瞬間、衝撃が響き、二人の額から血が吹き出した。
「っがぁあっ!?」
「ぐぅおぉっ!!」
二人とも額を抑えて、互いを見直す。
先に動いたのは、やはりアデリアだった。
疾風のようなスピードで、ジェットに猛攻する。
「ぐっ!?」
明らかに、ラストスパートをかけに行っている。
勝負を決めるつもりか……!?
「はぁあああっ!!」
アデリアの蹴りが、ジェットの顔面にクリーンヒットした。
「ぐはぁあっ……!!」
ジェットは鼻血を出しながら、よろける。
アデリアは跳んで、後ろ回し蹴りでジェットの顎を蹴り抜いた。
「っがはぁっ……!!」
「はぁあああっ!!」
次にジェットの腹に、何度も拳が叩き込まれる。
「ぐっは……!!」
ジェットは吐血しながら押され、よろめく。
「だぁあっ!!」
アデリアの肘が、ジェットの頬を打った。
「っ……!!」
痛みが、気付けになる。
このまんまでは、やられてしまう。
「しゃああっ!!」
アデリアのアッパーが、ジェットの顎を打ち抜いた。
「っ……!!」
「はぁああーっ!!」
来る。
渾身の一撃が、俺の顔面に目掛けて。
明らかに、危機。
しかし、寸前に俺は、死中に活を見出した。
……勝機!!
「っ!!」
ジェットは目を見開き、歯を食いしばる。
そして、まずは拳を避けた。
「な……!!?」
アデリアの腹に、剣の刃が当たる。
次の瞬間、ジェットの抜き胴がアデリアを一閃した。
「……!!!」
目標が僅かに外れたが、ヘソから脇腹にかけての斬撃が通った。
次の瞬間、斬られた所から噴水のように血が吹き出した。
「っぐはぁああああーーーっ!!?」
アデリアは脇腹を抑えて、倒れる。
ジェットは剣の血を払い、納剣する。
なんとか、決着がついた。
これで、チイ村の男達も解放されて、チイ村の安全は保証されるだろう。
勇者は激戦の末に、邪な魔導師を倒したのだった……
「……やるではないか。勇者よ。」
「……っ!?」
「え……!!?」
ジェットの背後から、声が聞こえる。
ジェットもアデリアも、驚愕の表情を浮かべた。
「だ、誰だ……!!?」
「そ、そんな……貴女様は……!!」
突如現れた、謎の影。
その正体は……?