首無し巨人と勇者
チイ村にて、魔物達を追い詰めたジェット。
しかし魔物達は樽花火を打ち上げてから、逃げていった。
しかし、戦いは終わっていない。
兵士達が集まり、戦闘態勢を整えたのだ。
異様な雰囲気が、チイの村の西側を包んだのであった……
「く、くるぞ……」
「魔法部隊、銃部隊、準備っ!!」
「おうっ!!」
どうやら、相当にヤバいのが来るらしい。
ジェットは、首を鳴らしながら兵士達の見る先を向いていた。
「い、いったい何が来るってんだよ……!!」
「少年、まだいたのか!逃げるんだ!もうすぐ……」
兵士達の一人が、そう言いかけた時だった。
別の兵士が、何かを発見したようだ。
「き……来たぞーーーっ!!!」
「!!!」
ジェットも他の兵士達も、その方向に向く。
彼らの目線の先……
そこには、遠くからゆっくりとこちらに歩いてくる人影が見えた。
ただの人影ではない。
その人影は頭が無く、巨大な斧を持っているようだ。
それに、何より大きさが違った。
「な、なんだありゃ……!!?10mはあるぞ!?」
そう言って、ジェットはその人影をまじまじと見る。
どうやら、あいつが例のデュラハーンとかいう奴らしい。
首無いし、鎧着てるし。
「くっ!戦闘準備急げっ!!銃部隊と魔法部隊は範囲に入ったら即攻撃!攻撃隊は奴の背中につけるように準備しておけ!」
「はいっ!!」
兵士達が準備を進め、戦闘態勢が整う。
それと同時に、デュラハーンもこちらの制空圏に入った。
「てーーーっ!!!」
兵士達の銃や魔法が、一斉に放たれた。
ものすごい火力がデュラハーンに集中砲火され、凄まじい爆発が連続する。
「うぉおおおおっ!!」
「撃てっ!!撃てっ!!撃ちまくれっ!!」
爆発は続き、爆煙と爆炎が舞う。
しかし……
「……お、おい!?」
爆煙の中から、無傷のデュラハーンがぬっと現れた。
それは斧を振りかぶり、こちらへと突っ込んでくる。
「そ、そんな……!!?」
「ふせろーーーっ!!」
次の瞬間、デュラハーンの大斧が兵士達を薙ぎ払った。
「うわぁああっ!!?」
「ぐはぁああああーっ!!」
強烈ななぎ払いが、大規模な破壊をもたらす。
さっきの斧の衝撃だけで、民家が何軒か吹っ飛んだようだ。
「お、おぉお……!!?」
ジェットはちゃっかりと安全地帯に逃げており、それを見ていた。
そして、デュラハーンの動きを観察する。
「くそぅ!これでもくらえぇっ!!」
兵士の一体がそう言って構えたのは、ロケットランチャーだった。
すぐにトリガーを引き、見事にデュラハーンの胸へと直撃させた。
爆発が巻き起こり、煙が立ち込める……
「……なっ!?」
やはりデュラハーンは無傷で、胸を指で掻いていた。
そして体をその兵士の方へ向ける。
「な……!!?」
斧が兵士に叩きつけられる……寸前の事だった。
ガキンッという音とともに、斧が止まった。
「ぐ……!!」
「え……」
ジェットが、デュラハーンの大斧を止めたのだ。
「よっしゃ、ここは俺に任せてくれ!兵士さん達は民間人を!」
「え、え!?え!?わ、わかっ、分かった!」
兵士は何が何だか分からないまんま、あたふたと立ち上がる。
そして、隊長らしき人の元へと走った。
「……だらぁあっ!!」
ジェットはそれを確認した後、デュラハーンの斧を弾き返した。
デュラハーンは後退し、斧を構え直す。
「おいおい、どう考えても冒険序盤で倒す敵じゃねぇーだろ……」
遠くから見てもデカかったのに、近くで見ると更にデカい。
おそらく、15mちょっとぐらいだろう。
それに鎧の全身には微かに傷跡が見えていて、どんだけ戦ったのかが目に見えた。
「……」
ジェットの目の前で、デュラハーンは体を震わせる。
そして、大きく、ゆっくりと腕を開き……
「ギリリリリリリリリリィイィイイイイィイィィィイイィイィイイイイィッッ!!!!」
咆哮した。
動物の咆哮というよりは、金属が擦れ合った時の不協和音だ。
喧しく、けたたましく、それが響き終わる。
どうやら、これが開戦の合図らしい。
「来るかっ!!」
ジェットは剣を構え、デュラハーンに突進した。
デュラハーンも突進し、ジェットに斧を振り下ろす。
斧が当たる寸前に、ジェットは消えた。
デュラハーンも目標を見失い、体をきょろきょろさせている。
しかし、すぐに何かに気付いたようだ。
「おらぁ!!」
ジェットの蹴りが、デュラハーンを後退させた。
「……」
デュラハーンの大斧の斧筋から、煙が出ていた。
どうやら、寸前でガードしたらしい。
「なにっ!?」
「ギ……ギ……!!」
デュラハーンは振りかぶり、斧を薙ぎ払った。
「うぉおっ!?」
ジェットは斧の刃を剣でいなし、その上を転がる。
「ちっ……!!」
着地して、デュラハーンを見る。
既にデュラハーンは振りかぶっており、見るからに「振り下ろしますよ」って感じのポーズをとっていた。
「やっば!!」
ジェットが反応するより先に、デュラハーンの斧が叩きつけられた。
衝撃が辺りに波動し、地響きが轟く。
「うっぐぐぐぐ……!!!」
ジェットは、なんとか斧を剣で受け止めていた。
「あ、あぶね……!!」
筋トレしてなかったら、即死……?
「ギ……!!」
「っくそったれぇ!!」
ジェットは斧を弾き飛ばし、走る。
「らぁあっ!!」
そして、デュラハーンの足に一閃した。
超スピードの一閃が、デュラハーンの足に入る。
「ぐ……!!?」
剣がビリビリする。
振り返って確認すると、デュラハーンの足の鎧に傷跡がついているだけだった。
デュラハーンは、斧をジェットの方へ振る。
「か、かてぇぞあの鎧!?」
斧を避けながら、ジェットは後退する。
デカい上に、侮れぬスピード。
強い上に、めちゃくちゃ堅いときた。
さぁ、どうするか……
「……!!」
デュラハーンは拳を握り、ジェットに振り下ろしてきた。
「あぶねぇ!!」
それをバク転で避け、もう一回デュラハーンに向く。
既に、斧がなぎ払われていた。
「っ!!」
ジェットは倒れるようにそれを避け、起き上がる。
「おいおい、これじゃ埒が開かねぇぞ……ん?」
足元に、何か当たる。
見ると、スティンガーミサイルだった。
「なんでこんな物騒なモンが……」
おそらくは、兵士か誰かが逃げる時に捨てたものだろう。
ジェットはそれを拾い、動作確認する。
「……そう言えば……」
奴は、ロケットランチャーが胸に当たった時はその胸を指で掻いていた。
痒くはあった、という事だ。
全身の傷跡だって、そうの筈だ。
あんなボロボロの装甲、そんなにはもたないだろう。
「……よし!!」
「ギギギィ……!!」
デュラハーンが、鎧を軋ませながらこちらに走ってくる。
そして、斧を振り上げた。
「くらえぇっ!!」
その瞬間、ジェットは引き金を引く。
ミサイルが一直線にデュラハーンの胸へと飛んで、直撃した。
爆発で、デュラハーンはよろめく。
「おぉ!?」
タイミングが良かったみたいで、何とかデュラハーンを揺るがす事に成功させた。
胸には、更に大きな傷跡が刻まれていた。
「よし……!」
ジェットは、そのスティンガーミサイルを捨てる。
そして次はグレネードランチャーを持った。
「これなら、いくらでも発射できそうだ……」
ジェットは構え直し、体制を整える。
「っしゃ、行くぞ!!」
そして、勇敢にデュラハーンの所へ突っ込んだ。
「ギリギギリギギィ……!!」
デュラハーンは、ジェットに斧を振り下ろす。
ジェットはそれを避けて、デュラハーンの足に向かった。
「うぉおっ!!」
「ギィ……!!」
デュラハーンの鎧が、軋む。
次の瞬間、ジェットの脳天に拳が振り下ろされた。
「ッッ!!」
なんと、ジェットは拳を受け止めていた。
「ふっ!」
更に手の甲に飛び乗り、斬撃しながら腕を駆け上がった。
「ギィィ……!!」
もう一方の腕で、ジェットを叩き潰そうとする。
しかしジェットは、大きく跳んだ。
「くらえ……!!」
グレネードランチャーを向けて、引き金を引く。
ポンッという音が鳴り、デュラハーンの腕が爆撃された。
デュラハーンは揺らぎ、よろめく。
「っそこだぁっ!!」
ジェットは大きく剣を振りかぶり、デュラハーンの腕に斬撃した。
それは見事にクリティカルヒットし、デュラハーンの腕を切り落とした。
「ギィィッ!!!」
切断面から、血が吹き出す。
どうやら中身は生体のようだ。
「よし!!」
ならば、胸のど真ん中をブチ抜いてやれば倒せる筈だ。
やる事は、一つに絞られた。
「ギリ……ギリ……!!」
「だぁあっ!!」
デュラハーンは、片手で斧を振り回した。
「うぉおっ!?」
めちゃくちゃな振り回しで、辺りが掻き回される。
「ぉおおっ!!」
ジェットは斧にしがみつき、体制を整える。
「この……!!」
そしてタイヤのように回転しながら、斧を伝っていった。
回転と共に斬撃も拡散し、デュラハーンの斧が切り刻まれる。
「だっ!!」
大きく跳んで、またもや腕をグレネードランチャーで爆撃した。
「おらぁっ!!」
そしてその肩に踵落としして、デュラハーンを揺るがした。
デュラハーンの肩が外れ、腕がだらんと下がる。
「よぉおっ!!」
氷魔法を発動し、両手を上げる。
そこに氷で出来た巨大な三角柱が出来て、デュラハーンの肩にぶん投げた。
それは、僅かにではあったが刺さった。
ジェットは、次の行動に出ようと走る。
しかしデュラハーンも黙ってはいなかった。
足を上げて、ジェットを踏み潰しにかかったのだ。
「それを待っていた!」
ジェットがそう言い、地面に手を付ける。
すると魔力が地面に伝わって、デュラハーンの足元が凍りついた。
デュラハーンは派手に吸っ転び、仰向けになってしまう。
「だぁあっ!!」
先程刺した氷三角錐に、ジェットが飛び込む。
そしてそれを掴み、鉄棒の大車輪のように回った。
「おらぁあああっ!!」
それはだんだんと加速し、とてつもないスピードで回転を続けた。
それはやがて鎧を削り貫き、見事にデュラハーンの肩を貫いていた。
「はいお疲れ!」
そして跳び上がり、グレネードランチャーで肩を爆撃する。
すると、その爆発でデュラハーンの腕が吹き飛んだ。
「……よっと!」
ジェットは着地して、デュラハーンに向かい直す。
「ギギギ……ギギギギギリギリギリ……!!」
デュラハーンは両腕が無いにも関わらず、自力で立ち上がった。
「マジかよこいつ……!!」
「ギギギギ……」
デュラハーンは、ジェットを踏み潰しにかかる。
しかしジェットはそれを避けて、ジャンプした。
「よっ!」
デュラハーンの膝に着地し、またジャンプする。
そして腹を駆け上がり、跳んだ。
「らぁっ!!」
胸にグレネードランチャーを撃ち込み、爆撃させる。
「……」
「ギリギリギリギリ……」
どうやら胸の装甲だけは、分厚くできているらしい。
しかし、僅かに傷がついているのは確かだ。
ジェットは民家の屋根に着地し、グレネードランチャーを構えた。
「くらえくらえくらえぇっ!!」
デュラハーンの胸に、三回ほど爆撃が決まった。
ジェットは引き金を引くも、もう弾切れのようだ。
「くそっ!」
グレネードランチャーを捨てて、剣を構える。
「ギリギギギギ……!!」
胸の装甲が赤白くなって、僅かに抉れている。
度重なるグレネードランチャーでの爆撃により、装甲が熱されて脆くなっているらしい。
「なら、ここしかねぇ!!」
ジェットは、剣をぶん投げた。
それは、超スピードでデュラハーンの胸に軽く刺さる。
「行くぞぉおっ!!」
ジェットは大きく跳んで、猛スピードでデュラハーンの胸に突っ込む。
そして、剣に両足蹴りした。
剣が更に深く刺さるが、まだ装甲は貫けそうに無い。
「……」
デュラハーンは慌てふためくが、両腕が無いのでどうしようも無い。
しかし、ジェットは無慈悲だった。
「ぁああああーーーっ!!」
その場で、コマのように猛スピードで回転し始めたのだ。
回転は更に加速し、火花が散る。
ジェットの回転と共に剣も回転して、それがドリルのように装甲を貫こうとしているのだ。
「はぁあああああーーーっ!!!」
ジェットが、一気に力を解放する。
すると次の瞬間、剣がデュラハーンの胸を突貫した。
「よぉおおっし!!」
貫通し、デュラハーンの背中から飛び出すジェット。
デュラハーンはと言うと、膝をついていた。
その全身の鎧に、亀裂が入る。
ジェットは民家の壁を蹴り、デュラハーンへと跳んだ。
「はぁあああっ!!!」
剣が、デュラハーンを一閃する。
ジェットは着地して、血を払って、剣を納める……
その次の瞬間、デュラハーンの体に縦1文字の斬撃が走り、見事に真っ二つになった。
両断された体が崩れ、デュラハーンは完全に沈黙した……
「……ふぅ。」
ジェットは、そんなデュラハーンを見て一息つく。
駆け出しの勇者は、なんと鎧の首無し巨人を真っ二つにしたのだった……