意外な結末
人魚海賊団の船長であるボニーを、ローレンスが倒した。たちまち、人魚達は統制が取れずに連携できなくなっていた。
「おらぁあっ!」
「死ねぇっ!魔物ぉおっ!」
もはや、一般の船員ですら対処できるようだ。
「やるじゃねぇか、鬼畜のローレンス……!あのボニーを、ぶっ倒しやがった……!」
ジェイドは人魚達と交戦しながら、向こうの海賊船を見る。
ローレンスは一人、腕を押さえながら跪いていた。
「……ぐッッ!!」
止血しているとはいえ、ドクドクと血が出ている。喰われた肩に至っては何もしていないのでさぁ大変だ。このままでは失血死してしまう……!
「よ、よくも船長を……!」
「今の貴様ならば、倒せる!」
海賊船に、ボニー直属の戦闘員が戻ってくる。みんな、明らかな殺意をローレンスに向けていた。
「ぐっ……!こんなときに……!!」
フラフラになりながらも構え、敵の群れを見据える。敵の方も、一斉に襲いかかってきた。
「はぁあっ!だっ!せぇいっ!やぁあっ!」
四方から迫る人魚達を切っては投げ、切っては投げと無双する。しかし、いきなり足に激痛が走った。
「ぐぁあっ!?」
サーベルが、刺さっていた。あの戦闘の疲労で、背後に気が回らなくなっていたのだ。
「だぁあっ!」
「死ねぇっ!」
激しくなりゆく敵の猛攻に、満身創痍のローレンスは防戦一方になってしまう。しかし、その顔には何処か余裕があった。
「あらよっと!」
「おっらぁあっ!!」
予想通り、ジョーとジェットの増援が来た。二人はローレンスを取り囲む人魚達を斬ったり叩き潰したりして、片付ける。
「遅かったじゃないか……」
「ヘッ。」
ジョーは戦いの片手間に、泉の水が入ったビンと仮面を手渡す。
「すまない。」
仮面を装備して、水を飲み干す。体の傷が、全回復した。
「オラオラオラァ!どうしたどうした!さっさと倒さねぇと、三枚にオロすぞ!」
ジェットが剣を振り回し、人魚達を切り裂いていく。
「潰れ死ねッ!!」
ジョーはパンチと蹴りを乱打して、人魚達を叩き潰していった。
「今度はこちらの番だ!」
ローレンスの魔法が炸裂し、人魚達は細切れになりながらなぎ倒される。
三人は大暴れで大量の人魚の死体が海に投げ出される。そして、遂にこの海賊船を乗っ取ることに成功した。
「おっしゃあーっ!!船をゲットぉーっ!!」
「ヒャハハハ!」
「いや……」
ローレンスは喜ぶ二人を抑え、冷静に船を見回した。
「まだ、内部に人魚が退避してる可能性がある。そこを潰すぞ。」
「ああ……」
「よっしゃあオラァ!!生き残ってる奴は出てこい!!」
ジョーを先頭に、三人は船の中に乗り込む。中はなかなかに入り組んでおり、何処に敵が避難しているかもわからない状態だった。この状況を見て、即座にジェットは二人に向く。
「はい、三人に解散っ!」
「おおっ!」
「ふむ……」
三人は手分けして、本格的な船の制圧にかかった……
戦闘が起こらないまま、ジェットは階の一番下にまで降りていた。一体ぐらいどこかしらから襲いかかってきても不思議では無いのだが、不自然なほどに戦闘が起こらない。遂に、未探索の所はここだけになってしまった。
「……」
階段を降り終わったと思ったら、フロアの前に鉄製の壁があった。それも、南京錠で固く閉ざされている。その南京錠を剣でぶった切り、扉を開けた……
「……うっ!?」
まず、鼻に不快な匂いがついた。魚を腐らせたような匂いと、ノーヴェムの宿屋の匂いが混ざったような腐臭だ。思わず顔をしかめ、扉を閉めてから携帯を出した。
ローレンスと、通話した。
「あ、もしもしローレンス?探索終わった?」
「ああ、敵影は無しだ。何かあったのか?」
「あー、ちょっとジョーと合流してから下まで来てくれる?一番下まで。」
「了解した。」
そこで通話を切り、しばらく待つ。
しばらくしてから、ローレンスとジョーが降りてきた。
「待たせてすまない。」
「何かあったのか?」
「ああ……このフロアなんだけどさ……」
ジェットは、扉を開ける。薄暗いフロアから、あの腐臭が漂ってきた。
「うっ……」
「酷い匂いだ……死臭か?」
「ああ……」
三人は入り込み、携帯のライトで探索を始めた。ここが何なのか判明するには、時間を要さなかった。
「……こいつぁ……!」
「うむ……」
「……」
錆びた鉄の檻の牢屋が、何部屋も立ち並んでいた。三人は、牢屋を覗き込む。
「……あ。」
その中に居たのは、ボロ雑巾のような人魚だった。肌も下半身の魚部分も干からびており、今にも死ぬ寸前のようだ。そう、死ぬ寸前のようだ……
「生きてんのかっ!?」
「おいゴラァ!!」
ジョーが檻を蹴り、大きい金属音を部屋中に響かせた。それで人魚はピクンと動き、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「……ぁ……おと……こ……?」
「喋れるようだな……いや。」
先程のジョーがあげた音で、周りがザワついている。それが気になったローレンスは、別の檻を覗き込んだ。ボロボロではあるが、比較的元気な人魚と目が合った。
「男……まさか、勇者一行なの……!?」
「勇者一行!?」
「魔物を信用出来ないのを承知でお願いします!私達を、助けて下さい!」
辺りの檻から、必死な声が上がる。懇願の声が響き渡る室内で、三人は顔を見合わせた。
「……ジェットよ、どうする?」
「助けを求められたんなら、勇者として放っておくわけにはいかねぇ。」
「ハッ、甘い事だ……オラァ!!」
ジョーが早速、そこらに蹴りを放つ。凄まじい威力の蹴りは、鉄の檻を棒切れのように折っていった。
「ホラ、出な。」
「あ、ありがとうございます……!」
人魚はフラフラになりながら、檻から這い出る。
「……甘いのは、どっちなのか。」
「俺らもやろうぜ。」
ジェットとローレンスも、檻を壊しにかかった。檻の鍵を剣で斬って開け放ったり、手刀で直接檻を斬ったりして、次々に救出した。
三人の救出作業は、しばらく続いた……
「……船長。」
望遠鏡を覗いてボニーの海賊船を見ていた船員が、ジェイドを呼んで望遠鏡を渡す。それを受け取って、見てみた。
「……あぁ?」
海賊船には、たくさんの人魚が居た。しかしそのナリは海賊というより、非戦闘員のそれだった。その誰もが飢餓や渇きで飢えており、今ジェットがタライに海水を汲んで代表らしい人魚に飲ませていた。皆殺しにする作戦のはずが、なんと助けているのだ。
「……ぷはぁっ、ありがとうございます。お陰で、生き返りました……」
「うん。」
二人の背後でジョーが、船内にあった一番でかいタライに海水を汲んで他の人魚達に飲ませていた。
「ほら、次。」
ローレンスが、また大きいタライをジョーに渡す。それを見て、彼は嫌そうな顔をする。
「ちっとはてめぇが汲んでこい!」
「ボニーを倒したのは我だ。」
その言葉で、「ぐぬぬ」と言いながら船から飛び降り、海水を汲んでから船を駆け上がった。
ジェットは座って、少し笑顔を浮かべる。
「あ、ごめん。仲間があんなガ○ジ共で。」
「い、いえいえ……」
話は、早速本題に入った。
「……じゃあ、聞かせてもらおうかな。何であんな所に閉じ込められてたんだ?」
「はい。実は私達は戦争反対派の魔物なのです。」
「反対派……ダークエルフ以外に居たのかッ
!?」
「はい……実は全ての魔物の約四分の一は、この星と人間と共存する、または戦わない道を決意しております。私達やダークエルフは、その中の一部でしかございません。」
「……」
あの魔王がダークエルフにやった事を考えると、何となくこいつらが牢屋に入れられていた理由が分かる。自分に逆らう者は、とことん排除しようという思想の表れだな。
「オーケー、もうだいたい理由は察した。何であれ、お前達が牙を剥かねぇんならこっちにも戦う理由はねぇ。とりあえず、父ちゃんに報告だけさせて。」
「はい。」
ジェットは立って、ジェイドの方に向いた。そして、大きく息を吸う。
「父ちゃーんっ!!もう安全だから、こっち来てーっ!!」
「お、おう!?どういう事だーっ!?」
「いいから、来いやーっ!!」
そんなこんなで、二隻の海賊船が並んだ。船越しに、親子はあった事を話し合う。
「……ふむぅ、人魚に囚われていた人魚か……魔物らしいと言えば魔物らしいし、海賊らしいと言えば海賊らしいな……」
「ちょっと、大量に食いもんとかある?俺もこいつらも、何か食わなきゃ大陸越えは厳しいぜ。」
「いいえ。」
人魚は首を振り、遠慮した。
「戦闘員の人魚は食事を必要としますが、私たちのような人魚は海中のプランクトンを食べるだけで充分なのです。」
「あ、そう。」
「しかし、我ら人間はそうではない。喰わねば。」
「全てを癒す聖水でも、腹にはたまんねェからな。」
話していたら、ジェイドの海賊船から大きい木箱がぶん投げられた。それをジョーが片腕でキャッチし、置く。
「へぇ?」
「そいつでこの船の半分の食料だ!持っていきな!」
「サンキュー父ちゃん!」
礼を言ってから、ジェットは改めて父親の方へ向いた。
「……ありがとう、父ちゃん。お陰で、めちゃくちゃ助けられた。」
「そうか……俺は、お前の助けになれたのか。」
「これで、また俺達はしばらく会うことはねぇと思う。次に会う時は、魔王をぶっ倒した後だ!」
「ああ!頑張りな!また会った時は、頭でも撫でてやるからよォ!」
二人はそう言い交わし、進むべき方向へ向き直した。
「またな、我が息子……!舵をとれェエエエッ!!!」
「オォオオオーーーッ!!!」
父の船は、ディエチ港へ進んでいく。またあそこで準備でもしてから、トレジャーハントにでも行くのだろう。
ジェットは、進むべき方向を見たまま、動かなかった。
「……ジェットよ?」
「どうした?とっとと行こうぜ。」
ジェットは笑い、汗を垂らしながら二人に向いた。
「……船の動かし方、分かんねぇ。」
苦笑いしながら笑うジェットに、二人はずっこけた。
「なにぃっ!?」
「オイ、海賊王の息子ッ!!てめぇ動かせねぇのか!?」
「無理だよ!!俺、海賊になんかなろうと思ったこと無いし!!」
ギャーギャー喚き散らす三人に、おそるおそる人魚の一人が手を挙げた。
「あ、あの……私達、船の動かし方、分かります。」
「その、ここに捕らえられていた人魚達は、元海賊がほとんどです。なので、動かせますが……」
「……」
「……」
「……」
三人を中心に船は、しばらく沈黙してしまった……
船は、勢いよく西の大陸へ向かった。人魚達が、統制された動きで船を動かしている。
その船の先頭に、三人は立って海の向こうを見ていた。ローレンスが、先に口を開いた。
「さぁ、此より先は魑魅魍魎が蔓延る魔の大陸……大陸の魔物を蹴散らし、魔王城を落とし、我らの旅は終わりを迎える。」
「さぁ、いよいよ大詰めだ!四魔姫も魔王もぶっ飛ばして、自由に暮らしちゃおーっ!」
「さぁて、面白くなってきやがった……!!」
思い思いの言葉を言い交わし、進んでいく。
待ち受けるものは、だいたい予想がついてる。何より超強敵の四魔姫と、魔物の頂点に君臨する魔王。果たして、どのような闘いが待ち受けているのか。そして、その闘いに何を見るのか……
三人は、新たな戦場へと向かっていった……
前章ラストです。




