攫われた王女
旅路を進む……いや、進撃する勇者達。一行が向かった先は、ヴォシム王国だった。
ローゼ程ではないがそこそこ広く、そして豪華な城下町が広がっている国だった。
「ここか……
「うむ。」
「お、アレがここのアカデミーか。」
三人は辺りを見ながら歩き回る。自分達が育った王国とどう違うのか、見比べているのだ。
「さぁ、じゃあまずは一通り歩いてみようか。」
「ああ、その方がいいな。」
ジェットとローレンスはそう言うが、ジョーが嫌そうな顔をした。
「めんどくせぇな……夏祭りじゃねェんだからよ……」
「そう言うな……これが最期の買い物になるかも知れないのだぞ?」
「フン。」
つまらなさそうにするジョーを、ローレンスが引っ張る。三人はそのまま城下町を歩き回った……
一通り歩き回った所で、三人は買い物をした。ちなみに、金には困っていない。なんたってシクスパークの闘技場の賞金があるもんね。
「とりあえず、必要な食料、薬草、傷薬は手に入ったぞ。」
ジェットは、袋を広げてローレンスの買ったものも入れる。
「シクスパークの時に飲んだ霊水も、そこらの商人から買ってきた……値段は張ったが、まぁ問題ない。」
道具袋はいっぱいになるどころか、何も変化を見せなかった。ジョーは、不思議そうに道具袋をつっつく。
「ジェットの道具袋、何でも入るな……」
「ああ、特別製だからな。」
盗賊王から貰った道具袋は、幾らでも入る便利道具袋だった。何処ぞの、旅立ちの少年にかけそばも食えないような額の金渡すような王より良い。
あ、でも俺は剣貰ったから何とも言えないんだよね。
「そこの君達、止まりなさい。」
急に、この国の兵士に呼び止められた。ちなみに、まだ何も悪い事はしていない。
とりあえず、ジェットが応接することになった。
「はい、何ですか?」
「見ない顔だが……旅の方達か?」
「あ、はい。」
「うーむ……」
兵士は、ジェットの格好を物色する。ちなみに、ジェットはいつも通りタンクトップと短パン姿だ。腰には剣をぶら下げてる。
「……そんな丸腰で、鋼の剣でここまで?」
「はい。」
「むむむ……」
兵士が次に目を向けたのは、ローレンスだった。まず、仮面に目をつける。
「その仮面、見えるのか?」
「問題ない。」
「ここまで、素手で来たのか?」
「魔法も使える。」
「何魔法だ?」
「斬撃。」
「え……むむむむ……」
次に、ジョーに目をつけた。胴着の上からでも分かる筋肉に、驚きを隠せずにいるようだ。
「……君も、素手でここまで?」
「まァな……」
「魔法は?」
「使えるっちゃ使えるが……残念だが俺は、魔法よりゃぶん殴る方が好きだ。」
「ぶん殴る……素手喧嘩で、魔物と殴り合ってここまで……」
「いや……魔物との戦いだと、俺が一方的にブン殴って終わりだ。」
「な、なんと……!」
兵士は一通り三人を物色した後、ジェットの前にきて咳をついた。
「旅の一行様、どうかここは黙って私めについて来てくれませんか?」
「えぇ……」
いきなりの提案に、ジェットは困惑してしまう。いきなり職質みたいな事されて、黙ってついて来てくれって……
「いや……」
ローレンスの洞察力は、半端ではない。
兵士の態度を見るに、何か問題に困らされているようだ。それも、ものすごく大きな問題に。それこそ、勇者の力を借りねばならぬ事態が起きているようだ……
「ジェット、ここは勇者として応じなければならぬ所では無いか?」
「んん?何か困り事でもあるのか?」
ローレンスの提案を聞いて、兵士に質問してみる。予想通り、兵士はゆっくり頷いた。
「……ここではうっかり市民の耳に入って、余計な混乱を招く恐れがあるので……王宮の方へ来てくれると有難いです。」
ここで、ジョーがクスクスと笑った。そして、面白そうな玩具を見つけた時の幼児のような顔をした。
「面白そうじゃねェか……行ってみようぜ。」
「ジェットよ、ジョーの言う面白そうは、たいていただ事ではない大事件だ……」
「ああ、なら行くしかねぇ。ついて行くぜ。」
「ありがとうございます!」
そういう訳で、急ではあるがヴォシム王国の王宮へお邪魔する事になった。果たして、何を頼まれてしまうのだろうか……
城下町とはうってかわって、王宮には兵士達が臨戦態勢をとれるような感じで並んでいる。たとえゴ〇ラが来ても対応出来そうな程の、厳戒態勢だった。
「……なんだってんだ……」
「じきに分かります。」
一行は、兵士に案内されるがままに進み続ける。
せいぜい何か適当な応接室に呼び出されるのかと思ったら、一気に王の間にまで招かれてしまった。
兵士に聞いてみれば、王は腕の立つ戦士を探しているらしい。
「おお、お主達が例の勇者か!」
王はローゼの王とは違って、かっぷくの良い中年だった。自慢の白い髭を伸ばし、王冠を被り、赤いローブに身をまとった、まさに『ザ・王様』という感じの王だった。
「こんちは。ローゼから参りました、ジェットと申します。」
「同じくローゼ出身、ローレンスです。」
「同じくローゼ出身、ジョーだ。」
「おお、ローゼの勇者と来たか!それならば、ワシの頼みも……!」
やはり、何かあるようだ。ローレンスが、真っ先に察した。
外面では明るく振舞ってはいるが……その目には、焦りのような感情が見える。間違いない、何かあった。
前置きは無く、話は早速本題へと入った。
「それで、何かあったんですか?こんな俺ら呼び出してまで……」
「うむ……実は、ワシの娘……言えば、この国の王女が魔物達に攫われてしまったのじゃ。」
「……!」
来た。いや、来てしまった。
勇者の物語には欠かせないであろう、攫われたお姫様イベント!
「そう、アレは少し前の夜じゃった……この城に巨大なドラゴンが飛んできたのじゃ。そのドラゴンは我々が寝ているスキに襲撃し、兵士たちの準備も整う前に最低限暴れて姫をさらっていったのじゃ。」
「やけに知的だな……」
と、ローレンス。
野生のドラゴンならば、わざわざそんな行動をするとは思えない……話を聞くに、何者かに従属していると考える方が自然だろう。
「その姫は、どちらへ?」
「分からぬ……うーむ……」
王は、難しそうな顔をした。
「兵士の一人が機械魔術で発信機を当てたのじゃが……姫ではなく、ドラゴンに当たってしまったのじゃ。」
「うわ、無能なんだか有能なんだか……」
「むぅ……仕方ないとは思うが……」
「そっちでいい。何処に居ンだ?」
ジョーの言う通り、姫はおそらくドラゴンの近くには居るはずである。何も無ければの話ではあるが。
「うむ……ドラゴンは、サーバマウンテンじゃな。」
サーバマウンテン……シクスパークの北にある、緑の山だ。
「やっぱり山登りするハメになるのか……」
「別荘にするには丁度良いのだろう?土地の下見でもしたらどうだ?」
「ケッ……とにかくサーバマウンテンに行って勇者らしくドラゴンぶっ飛ばして、お姫様連れ戻せばいいんだろ。簡単じゃねぇか。」
とにかく、王からの依頼は以下の通りだ。
お姫様がサーバマウンテンのドラゴンに攫われたから、ドラゴンを倒して姫を連れ戻して欲しい。
「……姫が攫われたという国の一大事、国民には伝わっているのか?」
ローレンスの問に、王は首を横に振った。
「いや、伝えておらぬ。ワシらも情報を整理し切れておらぬ故に、下手に言えば国民の混乱を招く可能性がある。」
「それで、俺ら以外の戦士達は?」
「……行かせたはいいものの、近頃の勇者というのは口だけで実力が伴っておらん。みーんな返り討ちにされて帰ってきおった。」
「へぇ〜……」
ジェットは、苦笑いする。
頑張らなきゃ。
「あ、ちなみに先程もうひと組のグループにも同じ依頼をしたのじゃ。」
「俺以外の、勇者グループ……?」
「その通りじゃ。勇者、武道家、魔法使い、僧侶で編成されたバランスの良いパーティじゃ。よかったら、協力してやれぬか?」
「ああ、じゃあ余裕があったら。」
「まぁ、我らについて行けるかという問題があるがな……」
「そりゃあ、会ってみねぇと分からねェな。」
少しの期待と不安を抱きながらも、三人は頷いた。王も頷き、ジェット達の前に来た。
「それでは……姫を連れ戻したその暁には、相応の褒美をやろう!では、頑張っておくれ!」
王は、ただの旅人に信頼と誠意を込めて頭を下げた。それに応じるよう、三人も真剣になる。
「はい!」
「分かりました。」
「ああ。」
三人は王に元気よく返事をして、王の間から出た……
「いやァ〜、ついにらしくなってきたぞぉっ!!」
ジェットが、ウキウキ気分で言った。
「攫われた姫に、巨大なドラゴン!とうとう、剣と魔法のファンタジーっぽくなってきたぜぇ!」
「ああ……今まで拳と暴力の血なまぐさい物語だったからな。」
「フン……」
そんな事を話しながら、城下町を歩く。すると……
「さて、王様から依頼を貰ったんだ!真の勇者を目指して、頑張るぞっ!」
「おーっ!」
如何にもな感じの勇者グループが、ジェットの前で意気込みを入れていた。
勇者と武道家と魔法使いと僧侶だ。ちなみに魔法使いと僧侶は女性のようだ。
皆、自分達と同い年に見える……という事は、志を同じにした勇者なのだろうか。
「ジェット、どうする?協力するか?」
「ああ、協力者は一人でも多い方がいい。おーい、すみませーん!」
ジェットは、勇者一行に声をかけた。
「ん?何ですか?」
「いやぁ、すみません。この辺に王様に依頼を受けたって勇者一行が居ると聞いて、是非協力させてくれませんか?」
ジェットの頼みを聞いて、勇者は微妙な顔をした。
「別にいいけど……あんた、そんな装備で戦えるのか?」
「あ、ああ。ギリギリ。」
……勇者とジェットの格好には、大分違いがあった。
勇者は鎧やら立派な剣やらを装備しているが、ジェットは剣と布の服だけだ。見た目のらしさでは、とうてい勇者に勝てるものではない。
「大丈夫だって、俺だって死にゃしないから!」
「……そうか!協力者が一人でも居るのなら、心強い!」
そう言う勇者の目には、あまり期待の光は無かった。何かの役には立ちそうだから、とりあえず加入させておけ……そんな意思が、僅かながらに見える。
「僕の名はアラン。よろしく!」
「俺はジェット。そこの仮面のがローレンスで、あっちの黒い胴着の筋肉男がジョーだ。」
「誰が筋肉男だ。」
「よろしくお願いします。」
ジェット達と、アラン達が並ぶ。
アラン達の武道家と魔法使いと僧侶も、自己紹介した。
「武道家、金龍だ。よろしく。」
「魔法使い、アシェルですっ!よろしくお願いします!」
「僧侶、マナミよ……よろしくね。」
一通り自己紹介を終えた二組は、並んで歩いた。アシェルとマナミが、ジェット達を見る。
「ねぇ、あの人達鎧も着ずにここら辺を冒険してるのかな……」
「さぁ……まぁ仮にそれで戦い抜いたとしても、アランや金龍よりも活躍出来るのかしら……見ものね。」
マナミはクスクス笑う。ジェット達が逃げ惑いながらアランの足を引っ張るのを想像し、笑っているのだ。
「……無駄な筋肉だな。」
いきなり金龍が、ジョーにそう言った。
「……」
「理合など掴もうとせず、力だけが強ければいいという最も下らぬ筋肉だ。」
言い続ける金龍を前に、ジョーは意外な反応を見せる。皆さんご察しの通り、挑発に弱いタイプのジョーなのだが……この時は、無表情をキープしていた。ローレンスも、これには意外そうな表情をしていた。
「そのような筋肉では、敵一人を倒しただけで息切れを起こしてしまう……理を握るのだ。」
「理……ねェ。考えた事もねェや。見ての通り、馬鹿力だけがトリエでよォ。ま、大目に見てくれや。ヒャハハっ!」
「……良いでしょう、ではこの戦いで私が武での戦い方というものを教授しよう。」
「ヒャハハハハハ!期待してるぜ!ヒャハハハハハハハハ!」
そう会話しながらも、二組は城下町を出た。
「アランっ!」
「アシェルっ!ああ!」
アランとアシェルが腕を組んで、ラブラブしながら早足で歩き出す。
「私達も……ね?」
「うむ。」
金龍とマナミも手を繋ぎ、二人に続いた。そんなカップル二組を見る、童貞三人組こと、ジェット一行。
「うるせェぞナレーション。」
「まぁまぁ、否定は出来ないんだから……」
「我らも行こう。」
三人も、アラン一行に続く形で歩き出した……




