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ジェットのぼうけん  作者: ジョーカー
プロローグ:捨てた栄光
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勇者誕生

時間通り、ジェットは城へと辿り着くことが出来た。

「うぃーっす。」

「うむ、例の勇者志望か。通れ。」

城を守る兵士達にも、話が通っているようだ。

ジェットは軽く兵士達に会釈して、門を通った。

そのまんま、王の間へとまっすぐに向かう。

寄り道はせずに、すぐに王の間へと着いたのだった。

「おお、よくぞ来た!」

玉座には王様が座っており、ジェットを歓迎した。

「さぁさぁ、遠慮せずに!おい、この者に椅子を用意しろ!」

「はっ!」

王様が命令すると、兵士達は返事をして動く。

ジェットの横に椅子を持ってきて、置いた。

「さぁ、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

ジェットは椅子に座って、王様と向かい合う。

「ほっほっほ、君があのアカデミーで成績トップに輝いたジェット君か。初めまして、私はこの国の王であるローゼ三世だ。」

ローゼ三世……

この国の王にして、世界一の魔導師とも言われている。

老人とは思えないほどの眼光、未だに衰えぬ潜在魔力……

何より、この国を束ねるだけのカリスマを持ち得た文句の付け所のない王であった。

「ジェットと申します……それで、今から旅立ちの儀を?」

「おお、そうだ……それにしても、懐かしいのぅ……旅立ちの儀をやるのは久方ぶりか……」

「そりゃそうでしょ……頭がいいだけであんな安易な道を選べるんなら、みんなそうするさ……よっぽどの酔狂じゃなきゃな。」

「ほう、自らを酔狂と?」

「ああ……俺は自由に生きるために、安定を捨てたんだ……蝕まれつつあるこの世界で、誰よりも自由に、誰よりも面白おかしく生きるためにな。」

ローゼ王はそれを聞いて優しく微笑み、立ち上がる。

「ふふ、確かに酔狂だな……私の若い頃を思い出す……」

「王様の若い頃……って事は、王様も勇者だったのか?」

「いや、上半身裸で街中を暴れ回っておった。」

「ただの変態じゃねぇか。」

ジェットの突っ込みに、衛兵達がザワッとする。

しかし王は吹き出して、笑った。

「はっはっは!王に突っ込みとは!やはり君には素質がある!その調子であれば、何があっても負ける事は無かろう!」

「ははは……そりゃどうも。」

ジェットも軽く笑いながら、ローゼ王に頭を下げた。

「そうかしこまるな……では、勇者の儀を始めよう。」

こうして、勇者になる儀式が始まった。

勇者としての心得と、長ったらしい祝詞を聞きながら、ジェットは気だるそうにする。

これも、勇者になるための儀式だ。

この長ったらしい話が終わったら、自由に生きれる。

「……では、これを。」

ローゼ王は、ジェットに派手なバッジを渡す。

これが、勇者の証らしい。

「そして、これは旅立ちの物資だ。」

そう言って渡されたのは、鋼の剣と、230ゴールドだった。

「えぇ……ちょっと、王様!?旅立ちの物資として剣はまだいいものの、こんなはした金でどうしろって言うんだ!?かけそばも食えねーよ!」

「し、仕方なかろう!剣は最上級のものを用意した故、資金には余裕が無かったのだ!」

「……」

とりあえず、剣を鞘から抜いて、持ってみる。

それは見事なまでに鍛え上げられた剣で、刃が綺麗に輝いていた。

その上重くなく、振り回すには不自由しなさそうだ。

「……はぁっ!せぇいっ!らぁっ!あらよっと!」

見事に剣を振るい、スタイリッシュに構える。

衛兵達はそれを見て、「おおっ」と唸った。

「……」

ジェットは剣をしまい、腰にホルダーした。

「……見事だな。剣術でもやっていたのか?」

「いいえ、独学だ……」

ジェットは、渡された230ゴールドをヂャラヂャラと手の中で掻き回しながら、王様の方へ向かい直す。

「……すまない。碌に用意出来たのがそれしか無くて。しかし……今は魔物との戦争で、ここも他の国も手が回らない状況だ。何とかそれで耐え忍んでほしい。」

「まぁ、何とかなると思うぜ。旅立たねぇ限りは、何が起きるか分からねぇからな。」

「そうか……それでは勇者ジェットよ!君の旅に栄光があらん事を!」

「栄光があらん事を!!」

王様に続き、衛兵達もジェットを祝福する。

ジェットは祝福を背に受けながら、城から出ていくのであった……


「……はぁ。」

長い上に、ダルかった。

ポケットの中の230ゴールドをヂャラヂャラ掻きながら、城を出る。

ゴールド……

この世界の通貨で、Gと記されることが多い。

一応、全世界共通でこの通貨は使われている。

しかし230G程度では、せいぜいアイス一本買えるのがいいトコだ。

「はぁ……冒険しながら金になるモン売って、食いつなぐしかねぇか……」

そう言いながらようやくサイフを取り出し、230Gを入れる。

そして、城下町から出た。

その瞬間だった。

「おい、待ちな!」

ジェットの前に、ヤンキー5人組がぞろぞろと立ちはだかる。

その中には、マスクを付けたさっきのヤンキー男と鼻にガーゼを当てたあのヤンキー女が居た。

「あぁ?どちらさん?」

「てめぇ、もう忘れたのか!?」

マスクを付けたヤンキー男の声を聞いて、ようやくジェットはハッとした。

「あ〜、はいはいはい、朝俺にカツアゲしてきたヤンキーくんとヤンキーちゃんね。それで、何の用?」

「何の用もクソッタレもあるかボケ!!今度はぜってぇ負けねぇ!!」

「まぐれで先輩に勝てたからって、調子こいてんじゃねーぞゴラァ!」

「ぶっ殺してやる!!」

「あははっ!」

「……」

男三人と女二人のヤンキーが、ジェットに絡んできた。

全員が武器を持って、ジェットに向ける。

ナイフ、鉄パイプ、バット、角材、メリケンサックが、ジェットに向いていた。

「……なるほどね。数を増やせば、勝てるって算段か……それにしても、名前の無い一般人がこんなにゾロゾロ登場されても困るんだよね。ヤンキーAとかいう表示にしないと、読みづらくなっちゃうから。」

「なぁにワケ分かんねぇ事ほざいてんだ!!」

マスクを付けたヤンキー……ヤンキーAは怒号を飛ばし、足元の小石をジェットの顔面目掛けて蹴り飛ばす。

ジェットは、顔色一つ変えずにそれを避けた。

「……」

ヤンキーAはナイフ、ヤンキーBは鉄パイプ、ヤンキーCはバット、女ヤンキーAは角材、女ヤンキーBはメリケンサックか。

よし、戦況把握。

断然に、俺の方が有利だ。

「一応、忠告はしておこうと思う……まずは光りモン仕舞いな。ただの喧嘩じゃ無くなるぜ。」

「あぁん!?誰がそんな事聞くかボケぇ!!」

「ちょっとマグレで喧嘩に勝ったからって、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

どうやら、聞く気もないし、本気でジェットを殺そうとしているようだ。

「……殺しにかかるって事は、殺される覚悟があって向かってるって見なすけど、後悔しない?」

「ごちゃごちゃうるせぇーんだよ!!」

ヤンキーBが、鉄パイプをジェットに振り下ろす。

ジェットは鉄パイプを手で受け止めて奪い、合気でヤンキーBを地面に叩きつけた。

「うぐぁっ!?」

「だぁあっ!!」

鉄パイプで、ヤンキーBの股間をぶっ叩く。

「ぁああああーーーッッッ!!!?」

肉が潰れる音が鳴り、ヤンキーBはそこを押さえて転がり回った。

「いでぇええええっ!!!いでぇよぉおおおっ!!!」

「安心しろ、一個残してある……さて。」

鉄パイプを肩に乗せ、ヤンキー達を睨む。

「ぐっ……!?」

「ひ、ひっ……!!」

「ちょっ、ちょっ……!!?」

「強い……!?」

「どうした?喧嘩は買ってやったぞ。とっとと来いよ。」

ジェットは鉄パイプをぽんぽん叩きながら、じりじりと距離を詰める。

「来ないんなら……!!」

高速移動でヤンキーCの懐に詰め、左拳で顎を打ち抜く。

「がっ……!!?」

「どらぁあっ!!」

そのまんま勢いよく蹴り飛ばし、ヤンキーCはぶっ飛んで、バットが宙に舞う。

「よっしゃあっ!!」

宙を舞ったバットに、蹴りを合わせる。

バットは見事に水平に飛んで、ヤンキーCの顔面に激突した。

「ぐはぁあっ!!」

「くそぉっ!!」

「こ、この……!!」

ヤンキーAと女ヤンキーAが、同時にかかってくる。

「二人同時か。」

ジェットは二人の攻撃を避けて、鉄パイプの端と端を持つ。

「せぇいっ!!」

その真ん中に膝蹴りをして、真っ二つにする。

真っ二つになった鉄パイプで、二人の腹を突いた。

「あぐっ!?」

「おぅうっ!!」

そのまんま二人の足を踏み、まずは逃げられなくする。

「魔法、使うぜ……」

ジェットの手からエネルギーが光り、鉄パイプに伝わる。

水の奔流が流れ、それは冷気へと変化し……

「……はぁあっ!!」

氷の鎖が、鉄パイプを繋いだ。

折れた鉄パイプを氷で繋ぎ、ヌンチャクを作り出したのだ。

「……!!」

「そ、その魔法……!!」

「ホァタァッ!!」

口を開きかけたヤンキー女Aの顔面を、ヌンチャクで打つ。

「アタァッ!!」

ついでに、ヤンキー男の方も打っておく。

「ぎゃ……!!」

「がっ……!!」

「ハァアアアーーーッ!!!」

そのまんま巧みにヌンチャクを振り回し、二人の身体中に打撃を連打した!

「ーーっ!!!」

「ぎゃあぁあーっ!!!」

連打するだけ連打し、跳んで二人を蹴り飛ばした!

「あ、あが……!!」

「ば、バケモノ……!!」

二人は倒れ、気絶してしまう。

ジェットはヌンチャクを巧みに振り、脇で挟んでヤンキー女Bに向いた。

「後はお前か?」

「……強い男ね……それにその魔法……」

「ああ、これか。」

首筋辺りに当たる、冷たい感覚……

魔法の氷の鎖で、折れた鉄パイプを繋いでいるのだから、当然の感覚だった。

魔法には少々特殊なケースがあり、その一つがこの『氷魔法』だ。

火と水と鉄と草は、極まると進化するのだ。

火は炎に、鉄は鋼に、草は木に……そして……

「水は氷に……ね。」

「……アカデミーの授業、マジメに受けてたタチだな。」

……どうやらこのヤンキー女、他の奴のような馬鹿じゃなさそうだ。

「私、こういうシチュエーションを待ってたのよ……こんなに強くて、しかも男の子と、遠慮なく戦えるなんて……」

ヤンキー女はメリケンサックを外し、魔力を手に纏わせてジェットに構えた。

「……卒業試験第32位、クロナ!!行きますっ!!」

「おおっ……!?」

クロナと名乗った女はジェットの懐に高速移動して、腹に正拳突きした。

それは見事に直撃し、思わずヌンチャクを手放してしまう。

「がはっ……!!?」

ジェットは仰け反るが、すぐに踏ん張る。

「やぁあっ!!」

「っちぃいっ!!」

上段回し蹴りがクロスし、辺りが揺らぐ。

この交差した一撃は喧嘩の終わりを告げ、戦闘の開始の合図となった……

「はぁあっ!!」

二人は離れ、ジェットは前を見る。

既にクロナは仕掛けていた。

「せいっ!!」

「くっ!」

飛んでくる後ろ回し蹴りを腕でガードし、クロナの胸ぐらを掴む。

そして手繰り寄せて、顔面に頭突きした。

「ぐっ!」

クロナはジェットに頭突きを返し、顎をハイキックで蹴り上げた。

「あぐっ……!!」

「やぁあっ!!」

そのまんま、ジェットの顔面目掛けてかかと落としが飛んでくる。

しかしジェットは腕をクロスしてそれをガードし、足払いした。

「きゃっ……!?」

「くっ!」

距離を取り、ジェットは構え直す。

「たぁあっ!!」

クロナはというと、暴風を巻き起こして天に舞い、ジェットにかかと落としを放った。

「うわっ!?」

バク転して、それを避けるジェット。

「やぁあっ!!」

クロナはその場で蹴りを放ち、カマイタチを飛ばしてきた。

「……っ!!」

ジェットはそれを避けながら、クロナに接近する。

「な……!?」

次の瞬間、クロナの顔面が掴まれた。

乱暴に振り上げられ、地面に叩きつけられる。

「ぐはぁ!」

「だっしゃーっ!!」

ジェットはクロナを蹴り飛ばし、走った。

「うわぁああっ……!!」

「へへっ!!」

追いついて、回り込む。

そして足を振りかぶり、クロナを思いっきり蹴り飛ばした!

「ぐはぁあ……!!!」

クロナは勢いよく宙を舞い、そして地面に倒れ伏した。

「み、見事……!!」

「……あ、勝ったっぽいな。」

ジェットは息を吐いて、座り込む。

「……やっぱり、本物だった……これで、あんな馬鹿なグループの一員だった事が報われたわ……」

クロナはそう言いながら体を起こし、ジェットを見る。

「そりゃ、どういう意味だ?」

「ずっと気になっていたのよ。アカデミー一の天才が、どんなに強いのか……それだけだったらまだ気になるだけだったのに、それが栄光を捨ててまで勇者への道を歩み始めた……それを聞いて、もう好奇心に収まりがつかなかったのよ。」

「……」

「それに、君もここから出ていくんでしょ?もうここを逃したらチャンスが無いって思って……ありがとうね、こんな事に付き合ってくれて。」

「ああ……いや、構わねぇさ。」

ジェットは立ち上がり、腰の骨を鳴らす。

そして背伸びをして、クロナに向いた。

「いい準備運動になった。ありがとう。」

「うん……勇者になっても頑張ってね、ジェット。」

「ああ……!」

クロナは倒れる不良達を抱え、城下町へと戻っていった。

ジェットも、これからいよいよ旅立つ時が来たのだ。

「よし、行くか。」

ジェットは、歩き出した。

この、果ての見えない旅に一歩を踏み出したのだ。

彼の向かう先は、果たして……

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