強襲、魔物盗賊団!
サルバとの実戦訓練は上手く行き、しっかりと強くなれた。
サルバもジェットも強くなれて、これからの戦いはスムーズに進みそうな予感がする。
その後、ジェットは宿に戻ってしばらくしてから眠った。
そして、翌朝……
「……」
用意された宿で、目が覚める。
携帯の時計は、朝の9時を表示していた。
旅を始めて2日になるが、寝起きの特有の怠さだけは治せそうにない。
「……ふぁあ……」
ジェットは、大きく欠伸をしてから身を起こす。
そして、ふとテーブルを見た。
そこには、手紙が置いてあった。
「……?」
それを手に取り、内容を確認する。
『我が屋敷へと来い。盗賊王』という内容だった。
盗賊王が俺に、何か話があるようだ……
考えられるのは、魔物盗賊団との激突が近いとかそこら辺の話だろう。
さっさと身支度して、とりあえずは盗賊王の所に行かねば。
「……」
ジェットはいつもの格好になって、盗賊王の屋敷へと向かった……
屋敷にはあっさりと通らされ、ジェットは客間のソファで盗賊王と向かい合っていた。
「ふむ、昨晩は良い修行が出来たようだな。」
「優秀な修行相手のお陰です。」
盗賊王はふふっと笑ってから、話の本題に切り出した。
「さて、勇者ジェットよ。昨日の依頼、覚えているな?」
「忘れるわけがない……魔物盗賊団を倒そうっていうアレだったな。作戦が固まったんですか?」
「うむ……」
盗賊王はここ周辺の地図を広げ、バツ印がある所を指す。
「ここに敵のアジトがある。我らはザルバを筆頭に真正面から敵に激突し、敵を引きつける。汝には背後から奇襲を頼んだ。」
「へぇ、分かりやすくていいじゃねぇか……」
要するに、正面から軍団で敵を引き付けて、守りの薄い裏からズドンッという作戦になるわけだ。
しかし、敵もそこまで馬鹿じゃないだろう。
裏には少数精鋭の兵士を置いて、守りを固めているはずだ。
「当然、この作戦の死亡率が高いのは汝である……受けてくれるか?」
「どっちにしろ、誰かが行かなきゃなんねぇんだ。俺が行く。」
「うむ、感謝する。」
「それで、作戦の開始はいつになるんだ?」
「ああ……今日のーー」
そこまで言った時だった。
急に、門番の女盗賊がこの部屋に飛び込んできた。
「うおっ!?」
「盗賊王様、大変ですっ!」
「何事だっ!?」
「この街に、魔物達が強襲してきました!それも、今までに無いほどの大軍で!」
「何ぃ……!?」
「なんだとっ!?」
俺も盗賊王も戦闘準備をして、外に出た。
街では、魔物と人間が入り交じって大乱戦していた。
「おおお、なんという事だ……!まさか、先に仕掛けられるとは……!」
「……!!」
ジェットは異様なエネルギーを感じて、上空を見上げた。
「へぇ、よく気付いたな……」
視線に気付き、降りてきた強大なエネルギーを持つ魔物……
間違いなく、四魔姫のハルピュイアだった。
「は、ハルピュイア……!!」
「ふむ、奴が四魔姫とかいう者か。」
「御託は結構……私は、狙った獲物は逃さない性でね……今日こそお前をひっ捕らえて、ブチ殺してやる……」
ハルピュイアは、ジェットに歩み寄る。
「ぐ……!!」
「……」
「……がぁあっ!!」
ハルピュイアは、猛禽類の爪でジェットに斬りかかった。
しかしその一撃を、盗賊王の鎌が受け止める。
「……なにっ!?」
「盗賊王さんっ!」
「作戦だ!我はここで奴を食い止める……!!」
盗賊王は、エネルギーを解放する。
「……っ!!?」
盗賊王の周囲に黒い霧が立ち込め、体に悪寒と冷気が駆け巡った。
「さぁ、行けいっ!!」
「あ、ああっ!!」
ジェットは走り、戦乱の最中の街に突っ込んだ。
「ぐっ!!」
ハルピュイアは盗賊王から離れ、構える。
「……」
盗賊王は鎌を両手持ちして構え、ハルピュイアに向いた。
「……邪魔をするんなら、年寄り相手だろうと殺す。覚悟しろ……」
「ふん……!」
そのまんま両者は、激しくぶつかり合った!
「……」
ジェットは一瞬だけ振り返り、そして走った。
何故だか知らないが、あの盗賊王は負ける気がしない……
そもそも、あいつと盗賊王では格が違う。
そんな風に感じて、安心してこの街を走り出したのだ。
「ヒャハッ!!」
「邪魔っ!!」
飛びかかってくるゴブリンを、切り伏せる。
「へぇ、やるじゃない!」
「しかし、私達相手ならばどうだ!?」
目の前に立ったのは、二人のデーモンだった。
昨日、そこそこ苦戦して最終的に盗賊王が首切った奴と同じ程度の実力のようだ。
「はぁああっ!!」
ジェットはエネルギーを解放して、フルパワーになる。
そして高速移動して、消えた。
「な……!?」
「うりゃあああっ!!」
片手で剣を思いっきり振り下ろし、凄まじい衝撃と共にデーモンを真っ二つにした。
「なにっ!?」
「おらぁあっ!!」
そのまんま剣を横一文字に振り、もう一体のデーモンの腹をぶった斬る。
「がはぁあっ!?」
斬られた所から血が噴き出し、白眼を剥くデーモン。
「だぁあっ!!」
ジェットは、勢いよくその顔面を蹴る。
すると、デーモンの上半身が千切れてぶっ飛んだ。
「……ふっ!」
そこそこ苦戦したデーモンも、今では雑魚同然だ。
こんな奴らに構ってる場合ではない。
早く作戦を進めなければ……
魔物と人間が乱闘し合う最中、ジェットは走って街を出た……
「えーっと。」
走りながら、携帯を見る。
予めメモしておいた、地図の画像を映した。
そこには進むべきルートが記されており、そのルートを辿れば敵のアジトの背後に回り込めるというものだ。
「……!!」
「ヒャッハーっ!!」
「捕らえろっ!!絶対に逃がすなっ!!」
メスゴブリン達が、バイクに乗って現れた。
向こうが持っている武器は、銃、バズーカ、鎖、剣、バット、鉄パイプ、ロケットランチャー……
どうやら、殺る気まんまんガチ子さんのようだ。
「やべぇ……!!」
待て。
一人の少年相手に、バイクで追いかけ回す大人の女が居るか。
魔物ってのは、品性の欠片もねぇのか。
「問答するだけ無駄だから、しないけど……!!」
「死ねぇえっ!!」
一体がアクセルを全開にして、こっちに突っ込んできた。
バイクと激突する寸前に、ジェットは消えた。
「なにっ!?」
メスゴブリンはスピードを落とし、銃を持って周囲を見る。
その背後に、ジェットが現れた。
「けぇいっ!!」
メスゴブリンの頭を掴んで、その首を180度曲げる。
「貰うぜ。はぁっ!!」
そして銃をひったくり、その体を蹴り飛ばしてバイクに乗った。
「よ、よしっ!免許もクソも持ってないけど、何とかするぞっ!!」
そう言いながらギアを回し、スピードを上げた。
「うぉおおっ!?」
ノーヘル、無免許、しかも片手運転。
今は戦うことより、恐怖に慣れることに集中せねば。
「なぁにボサッとしてんだいっ!?」
「!!」
メスゴブリンの一体が真横に来て、こちらにマシンガンを向けた。
「がぁあっ!!」
ジェットの目が鋭くなる。
次の瞬間、マシンガンが吹っ飛んだ。
「な……!?何をした!?」
「気合で吹っ飛ばした!」
そう言いながら、メスゴブリンの頭を銃撃した。
「よ、よしっ!」
「吹っ飛びなぁ!!」
間髪入れずに、背後からバズーカが放たれた。
「うわぉおおっ!!?」
バズーカは避けたものの、咄嗟にハンドルを切ったせいでバイクがGに耐えきれず、横転してしまう。
「死ねぇっ!!」
別のメスゴブリンが、そこにロケットランチャーを砲撃した!
大爆発が起きて、バイクは完全に吹っ飛ぶ。
「へへへ、これであの忌々しい勇者も粉々だな……!」
ロケットランチャーを撃ったメスゴブリンはそう言い、笑いながらアクセルを回してアジトへ向かう。
「そうだな、これでハルピュイアから癇癪が飛ばなくなるな……」
ジェットは、そのバイクの後部に乗りながらメスゴブリンの背中に抱きついていた。
「ああっ!それにしても、あの鳥女、こんな事の為に私達を……えっ!?」
メスゴブリンが振り向いた瞬間、その眉間に銃撃された。
その体を引きずり落とし、ジェットはバイクに乗る。
「なんだとっ!?」
「あの勇者めっ!!」
「手加減せずにやってしまえ!」
こちらに向かって、銃撃が集中砲火される。
「うわわわわわわっ!ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!」
ジェットは道をジグザグに走り、銃弾の雨を避ける。
「ヒャハッ!!これでもくらえぇっ!!」
メスゴブリンの一体が、ジェットに鎖を振り下ろしてきた。
「ちっ!!」
ジェットは銃を持った手をハンドルに添え、剣を抜いて鎖を防御する。
「ははっ!!かかったな!」
鎖が剣に巻きついて、引っ張られた。
しかしジェットは動じずに、剣に魔力を宿して鎖を伝わせる。
「ひぎゃあああっ!!?」
次の瞬間、鎖を介した魔力がメスゴブリンに炸裂して、氷漬けになってしまった。
「お疲れ!」
鎖を切り払い、運転に集中する。
多分、ルート通りに行けている。
「うふふ……」
横から、バズーカを構えたメスゴブリンが来た。
「死ね……!!」
「よっ。」
バズーカの砲口に、銃撃する。
すると、バズーカの砲身が爆発して、メスゴブリンが吹き飛んだ。
「こんの死に損ないがぁああっ!!」
「撃てーっ!!」
また、ジェットに銃の集中砲火が迫る。
「くそ……こうなったら!」
ジェットはアクセルを回し、バイクに魔力を纏わせる。
「氷河の大地っ!!」
次の瞬間、ジェットの半径100mの地面が、一瞬で凍りついた。
「きゃぁあっ!?」
「た、タイヤが滑っ……うわぁあっ!!」
氷の大地で、次々にスリップするメスゴブリン達。
「……最初から、こうすりゃよかった。」
ジェットはそう言いながら、バイクを走らせる。
すると、遂に目的地のアジトの裏門が見えてきた。
アジトは大きな屋敷のように見えて、生意気に整備してある。
裏側からだからあまり分からないが、まぁ豪勢なんだろうな。
ジェットは目を凝らし、裏門の様子を見る。
強そうなデーモンが二体、立っていた。
「……よしっ!」
ジェットはアクセルを全開にして、バイクをフルスピードで走らせる。
「……!?」
「なんだっ!?」
二人に迫ったもの……
それは、無人のバイクだった。
無人のバイクが、こちらにフルスピードで突っ込んできたのだ。
「くそっ!!」
二人は避けるが、裏門に激突したバイクが爆発して、開け放たれた。
「て、敵しゅ……」
次の瞬間、そこまで言いかけたデーモンの背中に剣が刺さり、心臓を貫通した。
ジェットがバイクから降りて、バイクを裏門に激突させ、デーモンの注意を引く。
そのスキに、背後から心臓を貫いたのだ。
「がはっ……!!?」
「そんな……!?」
「だぁあっ!!」
ジェットは剣をしまって、デーモンを思いっきりぶん殴った。
ジェットの拳はデーモンの顔面を粉砕し、ぶっ飛ばした。
「……っふぅ!」
ようやく、本丸に到着したジェット。
しかし、これで戦いは終わりではない。
ここからが、本番だ。
「よし、行くぞ!!」
ジェットは一人、魔物盗賊のアジトへと進撃したのだった……




