第7話
「美味しいー!美味しいよこれ。今まで食べたハンバーグの中で一番美味しい。」
「はい、腕によりをかけて作りましたから。」
かなり空腹だったのですぐに食べ終えた。沙織は食べた後すぐに寝てしまった。
さなは思った。時間がない。明日までにやるべきことがあるのだ。
「じゃあ私そろそろ帰るね。」
「えー。食後のデザートもあるのに。」
凌真は優樹菜の肩に手を置く。
「まぁ色々用事があるんだろ。また今度にしておけ。」
「ありがとう。美味しかったよ。じゃあまたね四条君優樹菜ちゃん。」
白崎はぺこりとお辞儀した。
「家は徒歩で大丈夫か?」
「うん。ありがとう。また学校でねー。」
さなは四条家からでるなり、小走りで家へ向かう。
時間がないのだ。
さなが見えなくなって、凌真は家の扉を閉める。
「宿題頑張れよ。白崎。」
凌真はゆっくりと扉を閉めた。自分の残りの宿題に取り掛かるべく、部屋に戻る。
一方、警察では事情聴取が行われていた。
背の高い男と大柄な男、それに長髪の女だ。
ガタイのいい筋肉質の男が大声でまくし立てる。
「お前らの動機はなんだ!とっとと吐けばカツ丼でもなんでも食わしてやる。」
ばん!と机を叩くがその後にまた静寂に包まれる。
背の高い男が静寂を破った。
「何度も言ってるだろ。俺たちはあの高校の金庫や高校のデータが欲しかったんだ。こんな女は知らん俺の仲間は、こいつだけだ。」
親指で大柄の男を指す。
「ほんとだよ、私はこんな男達とつるんだ記憶はないわ。」
女はネイルをつけた爪をいじりながら適当に答える。
「お前らなぁ、、!」
崎岡は顔をピクピクさせる。
「崎岡さん時間です。こいつらを牢屋に戻します。なにをそんなにムキになってるんです!こいつらは既に自白してるじゃないですか。」
「違うんだ、こんな動機じゃないはずなんだ!」
部屋から出て屋上でタバコに火をつける。
「駒沢、お前も何かおかしいとは思わんのか。」
崎岡は自分の助手に問いかける。
「まぁ確かに、リスクを考えると動機が不十分ですよね。金銭目当てなら、他にもやり方はあったと思います。わざわざ、平日の学校に侵入する意味もわかりません。」
「そーなんだよな。」
ふーっと息を吐く。
「この胸にあるモヤモヤを解決しないと気が済まんが、道場の方の仕事もある。そろそろ行くかな。」
外の風景をぼーっと眺める。ここからなら、あの学校も優樹菜の家も見える。
「俺の勘違いであってほしいものだな。優樹菜の目か、まさかな。」
駒沢は意味のわからない上司の発言に混乱していた。
次の日、朝の学校は騒がしかった。この街で事件が起きて、さらに自分たちの学校なのだ。それに加えて今日は転校生が来るらしい。クラスの雰囲気が明るくなるのは当然だろう。
かなりハイテンションなムードで押しつぶされそうだ。意外に凌真達に人だかりができる事はなく、みんなあちらこちらでこそこそと話している。
凌真を蹴落として図書委員になった。山田照美は凌真たちには目もくれず、読書している。
「四条君。これ私達のことだよね?」
「おそらくそうだろうな。普通ならバーっと人が集まるもんだ。まだましだろ。」
凌真は、今日のレシピを考えるべく、ネットで情報を集めていた。
「四条君って、本当に料理作ってあげてるんだね。優樹菜ちゃんがあれだけ上手なんだもん、今度、四条君の料理も食べてみたいなぁ。」
昨日食べた味がまだ残っている。思い出しただけでお腹が空いてくる。
「あいつのほうが断然上手いよ。俺のはまずくない自信はあるけど、美味しい自信は無い。やっぱりあいつが作ってくれるのが一番いいんだけどな。」
そこに斜め前の先の少年が話しかけてきた。
入学式初日に横の席の人に座っていた、男前の少年、制服の中に赤い服を着ている。
「お前ら、ギャングの一味に巻き込まれたんだってな。災難だったな。そしてだ、そこのお前。」
凌真は指を指されて驚いた。なんなんだこいつは、いきなり知らない奴に話しかけられ指を指されたのだ。気も悪くするだろう。
「なんだよ。」
「お前流れ弾に当たって肩怪我したんだって?そいつはついてないなぁ。まぁ急所に当たってたかもしれないことを考えると運が良かったほうじゃないのか?しっかしダッセーな。」
小馬鹿にする笑い方だ。席の近くまで寄ってきて座り込む。
「でも、俺は実際そこにはいなかったから詳しい事は知らない。今言ったのは、あくまで学校に流れている噂だ。俺はこう思っている。お前は銃弾にあたってしまったのではなく。即死級だった銃弾を避けたんじゃないのか?」
「なに、、、!?」
「俺が聞いた中で分析したんだが放たれた銃弾は最初に1発、ロッカーに連発した55発。そして最後に打ち損ねた、1発。こんだけ打たれて無事って事は、1発めでロッカーに飛び込み、最後の1発は先生のおかげで助かったってところだろ?」
「何でそこまでわかる。なんなんだお前。」
凌真はまじまじと男の顔を見つめる。
「俺は君と同じクラスメイトの三条健だ。よろしくー!」
その時扉が開いた、担任の松原先生だ。凌真にとっては一様命の恩人でもある人である。
「お前ら。転校生を紹介するー。おーい三条、席につけ。」
「はいはーい。怒ると美人が台無しですよ。松原先生ー。じゃ、またな、四条凌真。」
彼はそそくさと席に戻る。
「じゃあまぁ転校生に入って着てもらう。おーい。入っていいぞ。」
凌真にとっては同じ部活仲間になる奴だ。白崎の友達らしいから悪いやつではないと思うのだが。
松原先生がわざと音をたてて扉を開けたかのように、静かに扉が開き整った顔立ちのショートカットの女の子が入ってきた。足音もない。
「えーと、私は六条真美と申します。みなさんこれからはよろしくお願いします。」
深々とお辞儀する。
クラスから拍手が起こる。
かなり可愛い子が来たぞと男子ははしゃいでいる。
確かに彼女の顔立ちは、美形だ。髪はピンク色で目が大きい可愛げのある少女なのだが、何か底知れぬオーラがある。
真美は、さなに手を振り、凌真のことをしばらく見つめる。そして、少し微笑んだ。