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とりあえず普通に暮らしたい。  作者: 輝木吉人
西の少年
7/24

第6話

「俺がいない間にそんなことが、、、」



凌真が一通りの話を聞き一通りのリアクションをとったところで崎岡は本題に入る。



「おっちゃん達に入っている情報は、あの組織の人間はおそらくもういないということと、、、、動機が全くもってわからないということだ。」


崎岡はファイルの中からいくつかの資料を取り出す。


「ちなみに、学校に確かな盗難品はない。金銭目的ではなかったんだろう。優樹菜の方だが、あの女は特殊な金属を使ってピッキングを行ったらしい。鍵穴に傷一つつけずにドアを開けるなんてな。原始的な方法とは言ってもあの技術だ開けることは容易だったんだろう。」


凌真は一通りの話を聞いても、病室で考えていた事の答えはわからずじまいだ。



「何が目的だったのかは結局わからずじまいかぁ。」



凌真の脳裏にあの瞬間がよぎる。間違いなく、あれは炎だった。アビリティーはテレビでしか見たことはないが、それ以外に考えられない。


(となると、イーストの方の組織が?でも、なぜ?)



凌真の顔が深刻になると、さなが慌てて言う。


「で、でももう安全なんですよね!なら、いいじゃないですか!」


さなは重苦しい雰囲気に耐えきれなくなっていた。


崎岡と助手は目を合わせると、ゆっくりと立ち上がった。


「ほんじゃ、まぁおっちゃん達は忙しいからこの辺で、、、あいつらが吐くとは思えないが一様事情聴取は続ける。また何か分かったら報告する。じゃあまたな。」


ガチャンと重たいドアが閉まる。


しばらく静寂が続き、廊下から聞こえるコツコツという音だけが、耳に入ってくる。







静寂を切り裂いて、優樹菜はパン!と手を叩いた。


「そうだ!白崎さんご飯まだですよね。よかったら一緒に食べませんか?兄ちゃんも、もう退院していいんだよね。」





「あぁ。一様様子見でもう少し入院を勧められたんだけど、病院はやっぱり暇だからな。もう退院することにしたよ。」



優樹菜はうんうんと頷く。



「白崎さん。どうです?」


「え?でも悪いよ、、。そんないきなり家に上がるなんて。」


さなは、両手を前にして軽く振って遠慮がちに断る。


しかし、優樹菜は逃すまいと、その手を両手で握り、グイッと顔を近づける。



「まぁまぁいいんですよ。遠慮なさらずとも。母親はすぐに仕事に行きますし、父親はどこにいるかもわからないので。私が手料理をご馳走します。」



ぐいぐいさなの背中を押して部屋から出る。


「ちょ、ちょっとー。優樹菜ちゃーん。」


凌真はその姿を見て心底思う。


「普段料理しないくせに、、俺より断然上手いんだから作ってくれてもいいのに。」




ぶつぶつ文句を言いながら凌真も部屋を出る。







昨日の騒ぎが嘘のようにいつも通りの街の様子だった。公園では小学生がサッカーをしていて、ベンチには老夫婦が腰掛けている。たわいもない日常会話の中に昨日のニュースの話も入っているだろう。


病院からの道はそこまで遠い距離ではない。凌真達はゆったりと歩いていた。



「んで、優樹菜、何作るんだ?」




「兄ちゃーん。問題でーす。優樹菜の手料理といえば何かな?ヒントー!兄ちゃんが大好きなものでーす。」


人差し指をピンと立てて鼻の穴を膨らましながら出題する。



「おっ!まさかあのなんとも言えない美味しさのあのハンバーグか?!」



「ピンポンピンポンピンポン!!実は材料は朝の間にパパっと買ってきたのです!いぇい!」



「そ、そそ、そんなに美味しいの?」



白崎は頭の中で想像する。肉汁たっぷりのジューシーなハンバーグを。



じゅるり、よだれがたれそうになってゴクリと飲み込む。


「白崎、美味しいなんてもんじゃないんだぞ!一度食べたら他のハンバーグなんてめじゃないぜ。」


さなはもう一度ゴクリと唾を飲んだ。もうとっくにいつものお昼ご飯の時間は過ぎている。お腹が空いているのも無理はない。















家の前に着くと、優樹菜は鍵を取り出して家の鍵を開ける。


「どうぞ、上がってください。」








二階まで上がって扉を開ける。


「ただいまー。もう仕事に行ってもいいよ。」


家には沙織とお母さんがいた。


「おかえりー。お姉ちゃん、お兄ちゃん。」


「あ、帰ってきた。じゃあ仕事に行ってくるから。あ、晩御飯作っといてーー。」




「別にもう安全だからいいって仕事に行ってって言ったのに。沙織だって一人で留守番できるもんね。」





「そうだよー。沙織はもう一人でも留守番できる子だもーん。」


「わかった、じゃあこれからは留守番よろしくね。」



真奈がリビングから、廊下に出ようとした時に見知らぬ女の子の顔があった。


「お、おじゃまします。えと、四条君の友達の、、あっえとそのクラスメイトの白崎と言いますっ!」


「えっ?あっどうぞどうぞ!!ゆっくりしていってねー。」


凌真達と入れ替わりでリビングから出る。

その時に凌真は肩を叩かれて耳元で、頑張れという謎のメッセージを受け取った。



廊下に出ると、くいくいと手をひねり、優樹菜を呼ぶ。


「あ、出来たら呼ぶんで兄ちゃんの部屋で待っていてください。」


「俺の部屋散らかってるぞ?いいよリビングで待ってるよ。」


「あれー?そんなにむふふな本を発見されるのが怖い?」


「ば、馬鹿!何言ってんだ!?わ、わかったよ俺の部屋で待ってるから早く作ってくれよー。」


優樹菜はさなを三階に上がらせると、母のもとに行く。


母は耳元で囁く。

「何?お友達?すごい可愛い子じゃん。この機会(チャンス)を逃すんじゃないわよ。優樹菜!」


「わかってるって。滅多にないもんね。白崎さんを私の姉ちゃんにしてみせますよ。」


「じゃあいってくるねー。しっかりと胃袋を掴むのよ。」



優樹菜はキッチンに戻ると、料理に取り掛かる。



沙織が近づいてくる。

「お姉ちゃんがお料理するの?見たーい。」


「見ときなさーい。私の料理スキルを!」

エプロンを装着して、お料理モードに入る。

得意げに腰に手を当て大きく胸を張る。








「悪いな狭い部屋で、まぁ座れよ。」


凌真の部屋は、ベッドと本とゲーム機が置いてある普通の高校生の部屋なのだろうが、男の子の部屋に入るのが初めてだったので、とても新鮮だった。




凌真は部屋に入るなり、部屋の写真立てを素早く手に取り、背中の後ろに回す。中学時代のクラスの集合写真だ。


「四条君。聞きたいことがあるんだけど。」


「ん?何だよ。」


見られたかな?と思ったが、どうやら違うらしい。



白崎は少しの間黙っていたが、真剣な表情になり、話し始めた。


「どうして、初めて会った時私が人見知りだってわかったの?私、初日に知らない男子に話しかけたんだよ?そこそこ、難易度の高い事だと思うけど。」



そんなことかと、安心した凌真は机の引き出しの中に写真を隠すと、その場に座り込む。


「いや、見たらわかるんだよ。あまり瞬きせずに、話してたし、口が僅かに震えてた。」


凌真はさなの顔を指差す。



「じゃあ、、、何で銃を構えられた時すぐに逃げずに撃たれる寸前に避けたの?」


これがさなにとって一番の疑問だった。


「先に回避行動をとると、動いた先に撃たれちまう。だから引き金を引く寸前に避けたんだ。」


目の前にいる少年はそんなことを当たり前のように言う。


「発砲される寸前に避けるなんてそんなこと、、」


「相手の指先を観察しとけば、いつ撃たれるかなんて明白だし、相手の銃口が少し右よりだったから、左に避けた。肩にダメージを受けたのは、思ったより銃が速かったからだ。」



何かある。もしかしたら、彼も六条真美と同じなのかも知れない。そう思ったさなは決意する。


「四条君。やっぱり、私達と同じ部活に入って。これはもうほぼ強制だから。」



そういえばそんな事を言われていたなと思い出す。忘れていた事を話せば確実に怒られるだろう。



「何部に入るか決めたのかと思えば作る?何部だ?てか、私、、達?」


白崎はこの学校に友達はいないのではなかったか。



「月曜日転校生が来るの。私のたった一人の親友の六条真美ちゃんが。そして、その子と一緒に部活を作るの。ミステリー研究会って言うのがベストなんだろうけど、既に風通高校にあるんだ。私達が作るのは、、、、」


こんなときに転校生がくるのも不思議だが、もともと手続きをしていたのなら理解できる。そう考えると、あの日ではなくて良かった。



「ていうか、俺に拒否権はないのかよ。」


さなは凌真に向かって指を指す。


「探偵部よ!」


「、、、、は?」



「アビリティーを調べるんだよ。あと、今回の()()の事とか。」


事件という言葉を聞いて探偵部というのはいいかもしれないと思った。




アビリティーという言葉にピクッと眉を動かす。



「わかった。入ろう。帰宅部は色々こき使われた

り、不良扱いされたりするし。」


もうあんな生活は、嫌だ。中学時代を思い返して

胸糞悪い事を思い出しそうになって、ブンブン首を振る。その時、視線に机の引き出しが目に入って、素早く目をそらした。


「本当に入ってくれるの!?ありがとう!」


小さくガッツポーズをとる白崎は本当に嬉しそうだった。


「それはそうと、俺宿題がまだなんだよ。白崎、写させてくれねーか?数学の証明がだるすぎて手をつけてないんだよ。」


「へ?」


間の抜けた声を出してしまった。また忘れていた。

あれほど、やろうやろうと思っていたのに。


「う、写すのは駄目だよー。じ、自分の力で解かないとー。」


明らかな棒読みでごまかそうとする。


変な静寂に包まれる。




その時下から、「お待たせしましたー!お二人のところ恐縮ですが、ご飯が出来ましたー!」


さなと凌真は一斉にお腹を鳴らした。

時計を見ると、三時を過ぎていた。
















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