第4話
凌真が目覚めた時、真っ白な天井が見えた。体を起こすと、何度か見たことのある部屋にいた。
「病院、か。」
どうやら、眠っている間に運ばれたらしい。
ただでさえ寝不足で教室で寝ていたのにあんなことがあっては寝てしまうのも無理はない。
しかし、病院というものは独特の匂いがする。
少し落ち着かない。
時計を見ると正午を過ぎていた。
一度時計を確認したせいで、時計の音が耳に入ってきた。いつもなら、少しいらいらするこの音も心地よく感じられた。
「腹減ったな、、朝ごはんもろくに食べてないし。」
凌真はお腹をさする。
その時、病室の扉が開きメガネをかけた女性が入ってきた。凌真の母、四条真奈である。
「凌真、あなたまた入院?母さん他の仕事してたから詳しいことはわかんないんだけど。」
「実は、、、」
凌真は自分の身に起こったことを簡単に話した。
「大丈夫?肩痛くないの?」
心配そうに巻かれた包帯の上から様子を見る。
「あぁ、痛みはほとんどないよ。痛くないって言ったら嘘になるけど、大丈夫心配ない。」
凌真はなるべく心配をかけたくなかった。
「そう、あと2日後には退院できるんだって。」
「そもそも、入院て必要なのか?」
「傷口もそこまで深くないし、確かにもう心配はないけど、一様よ。」
ポンポンと頭を叩きながら言う。
「そういや、白崎はどうなった?」
「あの子なら気絶しただけだからすぐにお家に返したよ。明日お見舞いに来てくれるそうよ。」
「そうか、、、白崎には悪いことしたなぁ俺が一人にしたばっかりに。」
あの時目先のことしか考えないで白崎を一人にしたことを後悔していた。
「ん?なんか言った?」
「あー、いや何でもない何でも。先生が助けに来てくれてよかったなぁーって。」
「あー!いっけない!先生にお礼をするのを忘れてたぁ。仕事もあるし、凌真!安静にしておきなさいよ。」
そう言い残して母は病室から出て行った後、別の看護師さんが、昼食を運んで来てくれた。
病院のご飯はやはり質素である。そんなに美味しいものではない。ハンバーグもすごく硬い。
「今度、優樹菜のやつにハンバーグ作ってもらおう。」
昼食を終えた後、ニュースをチェックしようとテレビの電源を入れる。
ニュースでの説明はこうなっていた。
(大阪市にある風通高校に二人の男が侵入し、避難に遅れた学生二人が襲われましたが、教師により犯人は取り押さえられ、事態は収拾がつきました。二人の学生のうち一人が軽傷を負ったものの命に別状はありません)
(犯人の動機について、調べています)
「やっぱり動機は分かってない、か。」
「それにしても、あれだけ大胆な行動をするのにあの人員じゃあ限界がある。他にも見張りや、逃走車の運転手とかはいたらしいけど、、それにしても少ない。」
凌真は仰向けになって腕枕を作り、天井を見上げて考えるが答えは出ない。
「そんなこと俺が知るはずないか。」
《アビリティー》隕石によってばら撒かれた粒子が原因で、生まれた力。本来イーストにしかない力。そして、自分達ウェストのには無縁の力。考えても仕方ない。
特にすることもないので再び眠りにつくことにした。
一方その頃、白崎は家で自分の家にいた。学校は事件の後、普通通りに授業があるはずがなく、
各自帰宅ということになったらしい。救急車で搬送され、病室で目覚めて、医者からの質問に答えた後、親と一緒に家に帰った。
「ご馳走さまでした。」
「しかし、本当に良かった。気絶してただけで。
頭でも打ったのかと思って心配したんだから。」
「ごめん、心配かけて。本当に怖くてしょうがなくて、銃声がした後の記憶がないの。」
さなは母と二人暮らしをしている。
昼食を食べ終わり、することがなくなったら、ついこのことを考えてしまう。
「四条君大丈夫かな、、、お母さん、やっぱりお見舞いに行っちゃ駄目?」
「今日のところはやめておきなさい。彼も疲れてるんでしょう。明日、四条君と一緒に事情聴取があるんだから、整理しておきなさい。」
「うん。」
携帯の電話番号なんて聞いていないため、電話することもできない。学校は土日を挟んで、月曜からということになっている。
「四条君には、聞きたいことが山ほどあるんだから。」
その頃、優樹菜と沙織は凌真が朝寝坊したため昼食がない状況だった。始業式だったので、午前中に学校が終わりお腹を空かせて帰ってきて、(悪い、ご飯作ってる時間がなかった。)という置き手紙を見て肩を落とす。
「しょうがない、インスタントラーメンでも食べよう。今日はちょっとお高いやつにしよう。」
沙織はラーメン、ラーメン!とはしゃいでいる。
袖をまくって、料理の準備をする。普段、あまり料理をしないためインスタントラーメン一つ作るのも立派な料理である。
四条家は三階建てで、二階にキッチンとリビングがある。とにかく、そこそこ広い家だ。優樹菜はやかんにお湯を入れ、沸騰するのを待つ間、携帯でネットニュースを見ていた。
「げっ池照輝が不倫だって、相手は女子高生!?今話題のイケメン俳優らしいけど、どうでもいいや。うわーこれは終わりましたな?芸能界恐ろしす。」
ニュースをささっと確認する。
「何かアニメとかのニュースとかはないかなー。」
いつものように、さっさっと下にスクロールしていく。
「ん?」
どこにでもある普通の高校のニュースに目が止まる。
「ん?風通高校?」
ニュースをタップして、下にスクロールしていく。
「侵入者?朝のニュースでギャングの一部がどうとか言ってたけど、、、」
何枚か写真が載っている。
パトカーが何台か止まっていて、救急車も一台あった。そして誰かが運び込まれている。
「え?これって、、まさか!」
写真を拡大して、確信する。顔はぼかされていたが、上着の下に白いパーカーを着ていて、少し髪の毛に寝癖がついている。見間違えるはずがない。
「に、兄ちゃん!?」
沙織は突然、姉が大声を出したことにポカン
と口を開けている。
「ど、どうしたのお姉ちゃん?」
その下の記事に(肩を負傷したが命に別状はない。)
と言う記事を見る余裕もなく、すぐに兄の携帯に電話をかける。
しかし、何度かけても出ない。電源は入っていて、呼び出し音が鳴っている。しかし、いくら待っても出ない。もちろん凌真は病院でぐーすか寝ている。
しかし、そんなことは知る由もない。
優樹菜は焦る。かなり重症なのではないか。
おそらく運ばれた病院はお母さんの職場だ。
しかし、母にかけても出ない。仕事中は控え室に携帯を置いているのだろう。
「母さん知ってるのかな。兄ちゃんが運ばれたこと。ていうか、本当に母さんの病院なのかな、、。」
心配だ。
部屋着の上から上着を羽織る。
いてもたってもいられなくなった優樹菜は、様子を見に行くことを決意した。
「沙織!姉ちゃんちょっと出かけてくるから。待ってて!」
「え?う、うん、、」
そうこうしている間にお湯が沸騰していたため、あわてて火を止める。
階段を降りて、玄関に向かおうとしたその瞬間、
カチャリとドアが開いた。
開ける音が、あまりに静かだった。
嫌な予感がする。優樹菜はゴクリと唾を飲み込む
下を覗くと、知らない女の人だった。黒髪で長髪の女性。こちらを見てニヤリと笑った。背筋がゾクっとした。
「え?ど、泥棒?嘘っ」
覗き込んでいた顔を上げた瞬間、何かが女の手で光る。その直後、銃弾が飛んできた。
体を後ろに倒して床に倒れる形で避ける。
「嘘でしょ!?」
すぐにその場から離れようとしたが、
女は階段をゆっくりと登ってきた。
コツコツとブーツの音が聞こえてくる。
「流石に避けるわよね。これが避けられないようじゃ、あなたに用はないもの。あのポンコツ2人の情報が正しければ、べつにあいつの妹でもいいわけだしね。」
コツコツとわざと足音を大きく踏んでいるように思えた。
「沙織、かくれなさい!」
優樹菜は振り向かずに言う。
「え?なに?」
沙織はこっちへ近づいてくる。
「いいから早く!」
いつにもなく真剣な声で叫んだので、沙織は急いで隠れる。
優樹菜はジリジリと後ろに後退する。
女の顔が現れる。
「こんにちは。初めまして、怯えないでー。別にお姉さんは強盗しにきたわけじゃないんだよ。」
「じゃあ何しにきたの?」
「まぁ、大人しくついてくれば、手荒な真似はしませんよ?お姉さんの言う通りにしてればね。もちろん、あなたの妹ちゃんも連れて行くわぁ。」
優樹菜はしっかりと身構える。
「お姉さんと正面からやり合うつもり?拳銃もった私に、大した自信じゃない?ゾクゾクしてきたわ。ふふ、私はこれ、使うの好きじゃないのよねー。」
銃をくるくる回して懐にしまう。
「あなたの目を傷つけないように、こっちの方が綺麗に殺せるんだもん!」
綺麗な顔立ちを豹変させて、舌を大きく出す。
「えっ私の目?」
「そうよ、あなたの優点貰い受けるわ!」
勢いよくナイフを取り出し襲いかかってくる。
首を狙って躊躇いのない攻撃が優樹菜を襲う。
体を反らしながら、距離を取る。
「うふふふ。はっははは!!」
女は攻撃の手を緩めることなく、襲いかかってくる。
とっさの判断で優樹菜はキッチンに目をやる。
「くらえ!」
優樹菜はキッチンのやかんを蹴り飛ばす。
沸騰しきったお湯が女に向かって飛び散る。
「うふふっ」
女は一歩下がって避ける
「いい運動神経してるじゃない!そのくらいじゃないと、価値がないものね!」
両手でナイフを数本取り出して投げつける。
かなり正確に優樹菜めがけてナイフは飛んで行く。
優樹菜は兄貴、凌真のように避ける、、のではく、
足を振り回してナイフを落として、その内の一本を右手で握る。
残りのナイフは避けたつもりだったが、優樹菜の顔のスレスレを通り頰から赤い血が垂れる。
優樹菜はナイフを前に突き出す。
「な、なによ、なんなのよ!ここまでとは聞いてないわ!目だけじゃないの?」
優樹菜は大きく一歩を踏み出した。
低い姿勢で、女に襲いかかる。
「な、なんて娘なの?くそっ」
一歩下がって懐の拳銃を取り出す。
「悪く思ってもらって結構よ。くたばっ、、!」
瞬間、左手のパンチが飛んできて、拳銃が宙を舞う。
「しまっ、、!!」
右手のナイフを放り投げ、女を押し倒す。すぐさま、後ろに回り込み手を女の首にまわす。完全に背後を取った。力一杯締め付ける。
「崎岡流……第2奥義…」
優樹菜は完全に女の死角に入る。
「や、やめっ」
女は必死に腕を振り払おうとするが、力が入らない。
「蛇がらみ!うぉぉお!落ちろおぉぉ!」
完全に首を締め付けられて、女は必死に抵抗する。
「あんたの目を!あんたの目をぉぉぉ!そうしないと!そうしなればならいのよぉ!!」
女は手探りで落ちてるナイフを拾うと、優樹菜の目に向かって思い切り突き刺そうとしたが、その前に、
意識を失った。
女の手からナイフがこぼれ落ちた。
「あ、危なかった、、、」
優樹菜は後ろに手をついて脱力する。とにかく、無事に終わって良かった。
「沙織!」
呼びかけると、クローゼットの中から優樹菜の携帯を持って出てきた。
「警察に電話しといたよ。大丈夫?お姉ちゃん。」
沙織は駆け寄って思い切り抱きつく。
本当に抜かりないなぁと我が妹を見て驚く。
「ありがとね。ご褒美を考えとかないとなぁ。」
頭を撫でられて、沙織は嬉しそうだった。
「私は、できる子なのです。」
えっへんと胸を張る。どうやら、具体的に何があったかは分かってないらしい。
「大丈夫だよ。」
そう言いつつ、倒れた女の顔を見る。
うつ伏せに倒れているため、よく見えないのだが。
それにしても、どういう意味だったのだろう。
「私の目?」
優樹菜は落ちてる拳銃を拾う。思ってるよりも重い。
本物の銃なんて初めて持ったのだ。
パトカーのサイレンが聞こえてくる。
カーテンを開けると、パトカーが二台止まっている。
今の警察の対応の早さに驚きつつ、優樹菜はカーテンを開けて顔を出した。
「すみませーん。たぶん鍵空いてるので上がってきてください。」
少女の手に拳銃があるのを見て警察は慌てて家に入ってきた。この時、優樹菜には兄貴のことなど頭になかった。