第3話
さなは恐怖で目を瞑った。
耳に響く銃声。怖くて目を開けられなかった。
「ほーう。なかなかの反射神経だな。やはり君が。やっぱり君がそうなのかな?」
さなは目を開けた。そこには飛び散った血があったが、凌真の姿は見えないなかった。
血はロッカーの裏に続いている。
どうやらロッカーの裏に飛び込んだようだ。
さなが一瞬ほっとしたのもつかの間、弾丸がロッカーに向けて放たれた。
ガキィンという鈍い音が響く。
凌真はロッカーの裏で体制を整える。血が滲む肩を抱え込む。
「くそっ右肩に力が入らないねぇぞ。 出て行けば間違いなく射殺されて終わりだ。」
ここはなんとか凌ぐしかないな。そう決意した時、話し声が聞こえてきた。
男が誰かと電話しているようだ。
[おい、いつまで寝てたんだ!ガキ1人に何してんだよ。とっとと戻ってこい。]
まずい、まずすぎる。
この状況で。
上で倒した大男が階段から降りてくれば挟み撃ちにされてしまう。
時間はない、行くしかない、どうせ顔を見てしまったんだ。口封じに殺されてしまう。それに目的はどうやら自分らしい。悪い大人に殺される覚えはないのだが。
「やるしかねぇか、、このまま死ぬくらいなら
一か八かだやってやる。」
男がまた、ロッカーに向けて銃を撃つ。
バンバン!!
激しい音が凌真の鼓膜を叩く。
「お前の力を見せてくれよ。やっぱり見当違いだったか?ほらよ、優点を解放しろよ。」
何を言っているのだろう。凌真がアビリティーが使えると思っているのだろうか。優点?そんな言葉に聞き覚えはない。
威嚇するためだろう。何発か撃って、鳴り止んだかと思うと、またすぐに発砲してくる。
出て行くタイミングを見誤れば、すぐに蜂の巣にされる。その時間は何秒にも何分にも感じられた。意を決して飛び込むことを決意し、タイミングを見計らう。
銃が一瞬鳴り止んだその瞬間、凌真は飛び出した。
大きく一歩を踏み出し全力で飛びかかる。
「なっ!このガキぃ!」
素早く銃を構える。
しかし、弾が出ない。
弾の補充はかなり早くできる方だが、その一瞬を突かれてしまった。
「弾数を数えていたのか!」
(いける、、右でなくとも、左手でも十分だ!)
凌真は拳を握る。確実にヒットさせることができると思った。
「うおおおお!」
その時だった。男は手を前にかざすーー。と同時に
ボッと手が光った。それは《炎》にしか見えなかった。ライターから出たものでも、マッチを使ったのでもない。真っ赤な炎。それがなんの前触れもなく現れた。
アビリティー。東の人間だけが保有する力。
「まさか!なんで!?」
しかし、もう体は男に襲いかかっている。引き返すことはできない。
「これだけは使いたくなかったんだがなぁ!」
炎が手から伸びてくる。間違いなく東の力、アビリティーの四大元素の一つだ。
ただの西の学生になんとかできる術はない。
「くそっ!そんなんありかよ!」
立ち止まることも出来ない。力任せに飛びかかる。
しかし、自分が燃えることも、男を殴り飛ばすこともなかった。拳は空をきり、前に倒れこむ。
不思議に思って目を開けると、男は壁に叩きつけられ、ぐったりとしている。
何が起こった?
ふらふらと立ち上がり男を見つめる。手の炎は消えており、完全に気を失っている。
訳もわからず困惑していると、その時、上からゲンコツをくらった。唐突にかなりの威力で。
「いてぇ!っえ?」
そこには、凌真達の担任、松原先生がいた。
「無事か?ってそんなわけないか。」
救急車の音が聞こえてくる。
他にも野次馬のように生徒が集まってくる。どうやら、事態は収拾したらしい。警察が校内を調べるため中に入って来た。
階段を降りてきた大男も、壁に叩きつけられた男も警察に捕らえられた。
「危なかったなぁ、ぎりぎりだったぞ?たまたま私が職員室で寝ていたら銃声が聞こえたんだ。駆けつけたら白崎が捕らえられていた。隙を見てなんとかしようとしていたところを、お前が飛びかかってきてな。そこで、回し蹴りを食らわせたんだ。」
やれやれと頭をかく。
「それにしても、無茶にもほどがあるぞ。」
凌真は言葉が見つからなかったが、感謝を伝えることにした。
「先生、、なんていうか、ありがとうございます。」
そして、付け足すように言った。
「、、、なんで寝てたんですか?この非常時に。」
ピクッと松原先生の方が動く。
「え?いやーその、なんだぁ、あはははは、、」
その時、校長先生が駆け寄ってきた。
「君、大丈夫かね?肩から出血しとるじゃないか!
急いで救急車に乗りなさい。担架が必要か。おーい。」
校長は救急隊員を呼んだ。
「しかし、松原先生よく生徒達を助けてくれましたなぁ、どうやって侵入したんです?正面以外の玄関はシャッターが降りていたのに、、」
「せ、生徒達のために突撃したんですよ!?いやーほんとうに危なかったなぁ。」
変な汗をかきながら先生は凌真に言った。
「白崎の奴は気絶してしまった。まぁ無理もない。さ、お前も早く行け」
松原は救急車を指差す。
救急隊員がやってきて、凌真は担架で横になる。
アドレナリンが抜けたのか、少し痛みがひどくなってきた。
見物に来ていた生徒達が道を開ける。
(あーあ、大注目だよ。俺の平凡な学生生活がぁ)
本当に散々である。
昨日の佐々木さんの言ってた通り事件に巻き込まれてしまった。
(佐々木さん、、あんたは本当に予言者ですか?)
そんなことを思いながら考える。
どうして、あんなやつらがこの風通高校に侵入してきたのか。それがいまだにわからない。
あれだけの射撃スキルがあったのだ、そこら辺の犯罪者とは訳が違う。以前、中学の時、拳銃を笑顔で構えられたことがあったから避けられた様なものだ。人生で二度も発砲されるなんて思わなかった。
不気味に笑いながらこちらに拳銃をこちらに向ける
また、あいつの顔を思い出して、首を勢いよく振る。
「くそっなんであいつの顔がでてくるんだ。まさか関係あるのか、あいつと、灰川爽と。」
凌真は救急車に運び込まれた。
事態はとにかく収まった。一人だけ肩を撃たれた怪我人こそいたものの、死者がゼロだったことは不幸中の幸いであると言えるだろう。
肩に手を当てる。
(優樹菜や沙織は心配するだろうな。また今度、うまいものでも食わせに行ってやろう。)
救急車は病院に向かって走り出した。
この騒動に紛れて1人、職員室に向かう者がいた。
彼の名は一条誠也。この学校の生徒会長。
彼は学校の防犯カメラのパスワードを入力する。
いつもやっているように安易に開けることができた。
「えーと、このカメラかな、、、本当に簡単なセキュリティだな。最近のテレビゲームの謎解きのほうがまだよく出来ている。」
キーボードを叩き、マウスを動かして、目的のデータにたどり着く。
映像を再生する。
すると、そこには銃を向けられている少年の姿があった。
そして発砲。少年がロッカーに飛び込んだーー。
誠也は少し巻き戻す。そして、男の銃を拡大する。
「この銃、口径から見るに恐らく普通の拳銃よりも速い。音速は軽くこえているな。」
銃を拡大して、誠也は確信する。
「四条という名前、、やはりこいつはあの四条家の男だったか。この距離で普通の人間が避けられるはずがない。」
誠也は少し嬉しそうに微笑む。
「四条凌真、、やはり君が。」
発砲の瞬間、凌真の目が、赤くなっている。
「間違いない!間違いなく彼だ!目の優点!」
笑いが止まらない。
「いやぁ、こんなところで会えるなんてね。これが血の因縁というやつなのかな。」
職員室で履歴が残らないようにデータを削除しているとき、ピタリと手を止めた。侵入者の手、確かに炎が灯っている。
「間違いない。これは炎のアビリティー。こちら側で使う事は大きな罪になる。追い込まれたから、使わざるを得なかったようだ。四条凌真。君は《優点》の保持者だ。イーストの裏組織から狙われる身にあることを、まったく理解していないだろうな。」
今まで楽しそうにしていた顔が引き締まる。
「本当に俺たちは、平穏だけが望みなのにな。」
凌真は救急車の中で思う切実に思う。
入学早々こんな体験をするなんてただごとではない。小さな声で呟いた。
「とりあえず、、普通に暮らしたい、、、。」
その切実な願いとは裏腹に、真逆の方向へと事態は加速していく。
奇妙な事件をきっかけに、物語は動き出す。
古くからの因縁が絡み合った奇妙な運命が。