第1話
能力者なのに、能力がない方の西の話かよと思うかもしれませんが、この話はダブル主人公です。
初めは面白くないと感じるかも知れませんが、
話が進むにつれて、面白くなっていくと思うので
、お願いします。
それでは、とりあえず普通に暮らしたいスタートです。
ここはウェストの平凡な街。
二年前にあった出来事なんて嘘だったような光景。
これは、東の梶田京介とは別の少年の物語。
今日は四月七日、私立風通高校の入学式である。
この日はポカポカ陽気、今年からこの高校に通う四条凌真も今日は気分がいい。
朝の光を窓から浴び一日の始まりを迎える。ベットから体を起こして、散乱するゲーム機を避けながら、呑気に口笛を吹き、キッチンへ向かう。
気分がよかったため、今日は、早めに家を出ようとしたのだが、、、
「パンをやいてけー。」
ポニーテールに前髪ぱっつんな凌真の妹からオーダーが入る。朝からだらけっぱなしの妹に喝を入れてやろうかと腕を組んでいると、足をがっちりともう一人の妹に掴まれる。
「さおりもー。あさごはんして!」
そこには、ツインテールにこれまた前髪ぱっつんな次女が凌真の服をくいくい引っ張っていた。
凌真は妹達の好みに合うようにパンをレンジに入れる。
ほんのり香るパンの匂い。いつも通りの朝。
長女の優樹菜は今年で中二、その下の妹、沙織は五歳である。
優樹菜は眠そうに目をこすりながら、朝の天気予報をボーッとみていて、沙織は寝そべって本を読んでいる。
8寺に出れば間に合う距離なので、自分もテレビを見ながら、いつものようにジャムを塗って、パンにかじりついた。
朝のニュースでは、なにやら物騒な事件や、テロ、世界情勢などが流れていた。
[今回のミサイル迎撃について、イーストがウェストの領地を守ったのは、東西条約の一部であり、、]
「世の中は物騒な事が多いな。海外からの鎖国も大変だなぁ。《戦争》にならないのはたぶん、日本、、いやイーストが強すぎるからなんだろうけどな。」
凌真は呟く。
どんなに優れた兵器を持ってしても、イーストのアビリティーを超えることはできない凌真は断言する。
「にいちゃん、にいちゃん。」
「ん?」
凌真は食パンを加えながら、次女の方に目を向ける。
次女の沙織が、耳元でささやく。
「いま、はちじはんだけどいいの?にいちゃん。」
へ?と思って時計とテレビを見比べる。
どうやら、少し時計の時間がずれていたらしい。
「や、やばい、、これやばいわ。」
凌真の家は共働きで、父親は海外にいて、たまにメールでやり取りをするが、家に帰ってくることはまずない。
母は、帰ってきて夕食を食べて、風呂に入って寝るぐらいの時間しか家にいない、朝も早く出るため、朝食は、いちよう凌真の担当なのだ。
「優樹菜、今日学校だろ!?大丈夫なのか?」
そういうと、凌真は残りのコーヒーを一気に流し込む。
「私は明日からだよー。」
当たり前のように返された。
考えてみれば高校と中学が始まる日が同じでなくてもなんの不思議もない。
急いで支度する。基本、寒がりなので制服の上着の中にパーカーを着る。これがいつものスタイルである。
鏡を見て適当に寝癖を整えて(自慢の寝癖は結局整っていない)残りのパンをコーヒーで流し込むと、家を飛び出る。
いまから2年前、日本の東側に何かが落下した。
ミサイルによる迎撃によって、直接的な被害は出なかったが、東日本には、謎の粒子が原因でアビリティーと言われる能力を発現する人が現れ、西日本と東日本は別々の道を歩むことになった。
新しい国、ウェストとイーストとして。
とは言っても、ウェストではいつもと変わらない日常が送られている。野良猫は呑気に日向ぼっこしているし、老夫婦は仲良く散歩している。
ポカポカ陽気も関係ない、真夏のように汗だくになりながら、とにかく自転車をこぐ。
信号に引っかかってハラハラしていると、野太い声が耳に入った。
「おはよう、おや今日も元気だねぇ。」
頭に毛のない、頭がつるりと光る近所のお爺さんに声をかけられた。いつもの事である。このお爺さんは、佐々木権蔵。この辺では一番年齢が高い、こんなに元気なのに102歳だなんて誰も思わないだろう。しかし、もうまぶたがだいぶ降りてきており、目が開いているかどうかわからない。
「最近物騒なことが多いから気をつけるんだぞう。」
顎のヒゲをさすりながら、笑っている。
「は、はい。」
頭の中で今日の朝のニュースについて考える。
一番最初に思いついたのは、アビリティーを使用しイーストがウェストの領土の分も、防衛したというニュースだが、こんなことは自分達ウェストには無縁だ。
「えーとヤクザの一味がこの辺の地域で民家に侵入したとかでしたっけ?」
最後の方に流れたニュースを思い出した。ほとんど内容は覚えていないのだが、こんな感じだった気がする。
「まぁ君なら心配は要らんだろうな。でも昔から事件に巻き込まれやすい子だ、夜道とかには気をつけなさいよ。ほっほっほ。」
「はい、わかりました。気をつけます。」
この町の町内会の会長でもある、佐々木さんに適当に手を振りつつ、信号が変わったのでペダルに勢いよく体重をかける。
「嘘だろ、、、。入学式で遅刻って目立っちゃうよね!?変に!急がないとおれの学園生活がぁ!」
学校まで徒歩20分程度の道のり、本気でこげば、五分程度で着く距離だ。
朝食のパンをくわえて、坂道を駆け下りる。
「パンくわえながらリアルに登校するなんて、、、
この速度で女の子とぶつかったりなんかしたら
確実にやばいな、、」
残りのパンを飲み込むと、少し速度を落とした。
「やったぞ!ここを曲がれば、、、!」
その時、前から可愛らしい少女、、、ではなく赤いジャージ姿で、、長い髪の毛の大人のお姉さん?とぶつかった。
速度はそこまで出ておらず、直前でブレーキを踏んだので、ぶつかったというよりは、当たったという感じだ。恐る恐る顔を上げる。
「す、すみません、急いでて、、」
「うちの学校は、自転車通学を許してたかなぁ?
私は風通高校の教師の松原だ。その制服、新入生の子だな?」
凌真は冷や汗をかいて、こっそり立ち去ろうとした。
その時。
「ちょっと一緒に来てくれるかな?えーと、、」
「あ、新入生の四条です、、、よ、よろしくお願いします、、。」
とりあえず挨拶をして、そのまま自転車に乗り、逃げようとした瞬間、ガシッとパーカーのフードを掴まれた。
「で、ですよねーー。ていうか、痛い!首が閉まる!」
松原先生は悶絶する凌真などおかまいなしに、ぐいぐいと引っ張る
この後、、指導室に呼び出され、自転車を預かられて、入学式の途中に列に入り込むという、散々な結果になってしまった。
校長の話が長い、当たり前のことだ。だが、内容は数年前に比べて全く違う。
[イーストのアビリティー研究のような突出したものは、ここにはない。しかし、勉学に励むことで将来的に関わることが出来るかもしれない。ウェストの発展は君たちにかかっている。]
こんなことを言われたって僕達、私達には関係ありません。東で勝手にやっていろ。そんな風にみんな話を聞く気がない。
だって、ウェストではなんら変わりのない日常を過ごしているのだ。ウェストの人にとってテレビ越しの夢の国みたいな場所なのだ。
入学式が終わり、各自、自分たちのクラスの教室に
むかう。もうこの段階で仲良くなっている連中もいる。そんな最近の高校生(自分もそうなのだが)に驚きつつ、期待に胸を踊らせ、教室の扉を開く。
座席は出席番号かと思いきや、席の指定がなく、生徒達は適当な席に着く。
だいぶ昔に設立された割には綺麗な教室だ。
バーーン!扉が勢いよく開く。
そこに目をやり、凌真は肩を落とす。
まさか、初日で担任に目をつけられてしまうとは。
赤いジャージに長く伸びた髪。そこには見知った顔があったのだ。
「担任の松原だ。今から席替え、、いや、席決めを
行う。ちなみにこれからさき席替えをする気は無いから一年間の席になる。その方が運命を感じるだろー?」
松原先生はお手製のくじ引きボックスを取り出した。
しかし、明らかにお手製だ。ビールの箱をガムテープでぐるぐる巻きにしてある。
(くじ引きかぁ、、、学校生活で初めにありかなり重要な行事と言っても過言では無い、隣に座る子いい子かなーーだぞ?)
では、まず初めはそこのお前的な順番で次々にくじを引いていく。
凌真は窓際で一番後ろという、一番の席(凌真さん的に)をゲットした。ここなら暖かい日光を浴びる事ができるし、何より先生からも離れている。
席に座ると真っ先に男子に話しかける、のがベストなのはわかっている。
しかし、そんな勇気はない。
近くの男子生徒を見ると、明るい茶色い髪に、上着を肘のあたりまでめくっているモテオーラ全開の彼は別の生徒と話しているようだ。
その時、何かを感じた。この少年には初めて会ったはずなのに、親近感が湧いた。だが、同時に近寄りがたいものを感じた。
不思議に思い、彼を見ていると、視線に気づいたのか、振り返って目が合ってしまった。その時、なぜか彼は微笑んでいた。初対面の人にする愛想笑いとは違うが、親しい友人に会った時の笑みでもない。どこか、不気味だった。
話しかけられるのかと思ったが、彼は凌真に背を向ける形でぐるりと体を回すと、友達と一緒に話を始めた。
今のはなんだったのだろう。
凌真は顎に手をあてる。
「どっかであったことあるの、、か?」
「ねぇ、、」
(座席表を見たところ、知らない名前だな。)
「ねぇ、、!」
(三条健か、何だあの感じは、前にどこかで会ったことあるのか?)
「ねぇってば!」
後ろの席から話しかけて、二度無視されたからか、声を上げて呼びかけられる。
「え?あ、はい!何でしょう!」
驚きのあまり敬語になってしまった。
そこには、肩までくらいの明るい髪の色をした女の子がぷくーっと頰を膨らませて、こちらを見ている。
返答がない。
(んーー。呼びかけたという事は向こうから話しかけてくるのが普通だよな?)
凌真が気まずそうに待っているのを見て、少女は口をパクパクさせながら言う。
「私、白崎さな。よ、よ、よろしく!」
かなり動揺している。自分から話しかけて来たのに。
「あ、あぁよろしく、。」
さなは手を前に出す。握手の要求をしているようにしか、見えない手を、しばらく眺める。
グイッとさらに伸ばしてきたので、少し戸惑ったが、ゆっくりと握る。
柔らかくて暖かい感触。今まで握手をしたことなんてあっただろうか。猛烈に恥ずかしくなってきたので、パッと手を離す。
「四条君だよね、いきなりだけど中学校の時さ、何部だった?」
「き、帰宅部。」
「私、、部活に入ろうと思ってるんだけど、、一緒になんか入ってくれないかな?」
「え?それは何部だよ。」
入る気はさらさらないが、とりあえず聞いてみた。
「へ?あ、ああ。き、決めてない、、」
「はぁ?決めてないのに人誘うんかい!」
初対面の女子にビシッと突っ込みを入れる。
「とにかく!今日の放課後に、何か部活に入るから、
一緒に入って!」
「んな、馬鹿な、、なんで俺なんだよ。」
「せっかく人が勇気を出して話しかけて、無視したんだから!それぐらいいいでしょう?」
「確かに、、無視したのは悪かったよ?俺たちみたいな人見知り、というか、コミュしょ、、っ」
言いかけたところで口を封じられる。
「私は人見知りなの!?コミュ、コミュ障ではないんだから!?」
かなりあたふたした様子で否定する。初対面の奴にいきなり握手を要求するなんて、とんでもなく勇気のいることだ。彼女も高校デビューがしたいのだろう。
そろそろ息が苦しい。
「んーわがっだがら口を押ざっえる、、な」
その後ホームルームが始まり、松原先生が言う。
「いまから、委員会のメンバーを決める!みんなどこかには、入るように!」
読書は結構好きで、というより楽そうだという点で
迷いもせず図書委員に手をあげようとする。しかし、凌真が手をあげる前に眼鏡をかけた少女がゆっくりと手を挙げた。
(おっと、ジャンケンしてまでやりたい奴の邪魔をするのは良くないな。)
凌真は挙げかけた手を下ろす。
少女の席の前を見ると、さっきの男子がいた。
三条健。本当に不気味な奴だ。さっきは明るくクラスメイトと話していたのに、今は自分の携帯を眺めて、深刻な顔をしている。
改めて横の席を見ると、メガネをかけたショートカットの女の子だった。
こうして彼女、山田照美が図書委員になった。彼女は凄く美味しいものを食べた様な満たされた顔をしている。
とは言っても、委員の選択肢が一つ消えてしまった。
「やばいぞ、ここで最悪なのを選ばないようにしないとな。」
さっきの後ろの席の白崎に話しかける。
「う、、うん。」
続々と委員会は決まっていく。
結局、さなと凌真は保健委員をやることになった。
「かなりいいんじゃないかな。体育委員や風紀委員にならずに済んで。」
凌真に向かって微笑みかけるが、凌真は頭を抱えていた。
「あのなー白崎。確かに体調が悪い人を保健室に連れて行く間は授業を抜けれる。でもな、大して仲が良くない奴と誰もいない廊下を歩くって、、気まずすぎだろうが。」
「た、確かに。」
白崎も頭を抱える。
凌真は目立たずに、普通に高校生活を送ることを目的にこの学校に来た。
ケンカばかりだった中学校だったため、平穏にすごく憧れていた。
だが、当時の記憶があまりない、たった一人頭の中にこびりついている人間のことは忘れることができない、そいつのせいで他に記憶が薄れているのかもしれない。
深い闇。闇そのものの様な人間がいた。そいつを思い出してしまった。すごく笑顔で明るい男の子の笑みが。
「僕は今ね。死体に興味があるんだ。ねぇ、僕のモルモットになってよ凌真。いいでしょ、僕もうすぐ誕生日だから、プレゼントってことで、どう?どう?」
笑顔でどこからともなく拳銃を取り出して、二、三回くるくると回した後、銃口をこちらに向ける。
あいつ、灰川爽の事を思い出すと、身の毛がよだつ。
「灰川、、、、」
吐き出すように名前を出す。
「四条君?どうしたの?ボーッとして。」
「あっいや何でもねぇよ。何でも…な。」
彼のような異常者と関わりたくはない。
友達と仲良くしゃべったり、行事を楽しんだりする普通の学校生活に憧れた。
松原先生はもう眠いのか、大きくあくびをした。
「えーと、これでもう今日は終わりだ。部活動見学するもよし、すでに決まっているものは即入部してくれてもいいぞ。では、解散!」
起立、礼の挨拶もなしに先生は扉から出て行く。
「さーて、帰るか。」
席から立ってカバンを持ち、早急に帰ろうとしたが、
白崎に袖を引っ張られた。
「ぶ、部活見学に行こってさっき言ったじゃん!」
妹達にご飯を作ってやらねばならないのだが、少し時間がある。
せっかく話しかけてくれたのだ、部活見学くらい行ってもいいかなと思った。
「わかった。運動部か、文化部どっちから見て回る?」
普通を求める少年の学園生活が始まった。