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とりあえず普通に暮らしたい。  作者: 輝木吉人
プロローグ 星が降った日
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第0話

「お兄ちゃん何かくるよ、流れ星かな。」


問いかけに対し、兄は無言で弟を抱き抱える。





「大丈夫だよ。きっと。」

その声は自分に言い聞かせるように聞こえた。兄はしっかりと弟を抱きしめる。


















ー防衛省本部にてー


「作戦開始。目標約100キロメートル!」


ある施設にはかなり大型の一機のミサイルがあった。

これは、戦争に使うものではない。あくまで防衛に使うのだ。地球の防衛に。




防衛省が、レーダーで飛来物を探知してから、大至急制作されたものにしては、かなりの出来だ。今できる最高の技術をつぎ込んだミサイル。





これは、日本人の〈一条〉という科学者が作り上げ、彼の研究所の施設から打ち上げることになった。




「いいか、しくじるなよ。俺の計算通りなら、間違いなく成功する。俺を信じろ。」





白衣を着た男、一条博士がモニターを睨みつけながら、部下の肩に手を置く。



各国の首脳、いや、全人類はこの瞬間を固唾を飲んで見守る。これが落ちれば日本だけではなく、地球の深層まで到達し、地球滅亡もあり得る。




「よし、カウントを始めろ。」


10、9、8、7と機械音声がカウントを始める。




そして、静まり返った室内に響き渡る。




〈発射〉




粉塵を巻き上げながらそのミサイルは、発射された。

その爆音は遠くにいた人にも遅れて耳に届く。



音なんて比にならない速度で落下物へ直進する。




直後、轟音が鳴り響き辺りに光が降り注ぐ。住民は頑丈な建物の内部にいたが、窓からの光に目を背ける。






しばらくの間、轟音が響き続け、地上に光を浴びせ続けた。























研究員は、ゆっくりと目を開ける。そして、モニターを見つめて、ガッツポーズする。


「、、、、目標消滅しました、、、跡形もありません!!」



わっと舞い上がる自衛隊。皆が成功を喜び、歓喜の声を上げる。


「お疲れ様。ほとんど君の手柄だ感謝しているよ。」


総理大臣は、一条博士に握手を求めた。


「ありがとうございます、鈴木総理大臣。僕の計算に間違いはありません。わかっていた結果ですよ。」


仕事を終えると、一条博士はすぐに研究所を出ようとする。


「どこへ行くんだね?」


鈴木総理大臣は、質問する。


すると、一条博士は嬉しそうに微笑んだ。


「息子の誕生日なんです。今年こそは地球存続の祝いも兼ねて、祝ってやろうかと思いましてね。」



一条博士は、歓声の鳴り止まぬ研究所を後にした。













親に連絡する者。

ホッと胸をなでおろす者。

青空をぼんやりと眺める者。

誰もが涙をこぼしていた。



これで、被害はゼロだ。人類は、ここまで来たのだ。

ついに、宇宙規模の問題も解決できる。


人類の勝利だと、科学はここまで進歩したと。





しかし、ここからが本当の始まりだった。


















「終わったか?」



ある廃墟に影を隠していた小柄な少年は顔を出し、辺りを見回す。



「じーた。りーの。もう出てきてもいいぞ。」



廃墟の物陰から二人顔を出す。


長い黒髪に整った顔立ちの少女、佐藤彩利乃(さとうさりの)と、平均的な身長に、茶色がかった髪色の梶田京介(かじたきょうすけ)だ。



この3人は同じ制服を着ていた。



京介は、まだ恐れながら言う。


「だからやめようって言ったのに。俺本当に怖かったんだからな!ばか翔太!」


「ははっ。情けねーやつ。こんな時に避難なんてしてられるかよ。俺はバッチリこの目で見たもんね。めちゃくちゃかっこよかったぜ。」


翔太は二人にVサインを送る。


「まったく、男の子って本当にわかんない。」


やれやれと




安全を確認しに行った小柄な少年は、鈴木翔太。彼は独特なあだ名を人につけるのを一種の趣味としており、梶田京介をじーた。佐藤彩利乃をりーのと呼んでいる。




飛来物を近くでみようと、街から離れた山の上にある廃墟まで来る事を提案したのは翔太だ。彩利乃は一人じゃ危ないからついて行くと言い出したため。しぶしぶ京介もついて行った。




翔太はひょいひょいと、瓦礫を飛び越えて廃墟の外に出る。


京介と彩利乃も後に続く。



翔太は廃墟の外に出て、しばらく歩く、住民は屋内にいるため、街を見渡しても人は誰もいない様子だった。翔太は何度かキョロキョロと辺りを見回す。



「どうやら助かったようだな。ひとまず、街に戻ろう。思ったよりも被害はないようだぜ。」



二人が頷いて、外に出ようとした時だった。



ドゴン!と翔太の前の地面にヒビが入った。


バキバキと音を立てながら穴が深くなっていく。




京介が目をやると、その亀裂は街の方向から続いていた。


翔太の足元で大きく地面が開く。落とし穴とかのレベルではない、地面が割れたのだ。





「翔太危ない!」



京介の声を聞き、間一髪だったが、翔太は小さい体を捻って転がるようにして、その場から距離を置く。


「なんだこれ、いきなり地面が、なっ!」



突然だった。

あまりのことに息がつまる。


ふいにボワっと翔太の右手に炎が現れた。何もないところからいきなり発火した。翔太は驚きと恐怖で声を上げる。



「うわああああああああ!!!炎がぁ!」



京介は、火事現場もテレビでしか見たことはない。

せいぜい、料理や理科の実験の時に目にするくらいのものだ。


しかし、そんな彼でもわかる。普通の炎とはなにか()()



「うわぁぁぁ!火がぁぁ!」


翔太はブンブンと手を振り回すが、余計に炎が広がっていく。体にまとわりつくように炎はどんどん翔太を侵食していく。


京介はギラギラと顔の皮膚に照りつけているのがわかる。かなりの温度だ。


真っ赤な炎は翔太の叫び声に比例するかのように燃え上がる。



驚愕。混乱。京介は助けに行こうとしたが具体的にどうするかわからず踏みとどまる。横を見ると、彩利乃は上着を脱いでいた。




「今行くから!待ってて翔くん!」


「彩利乃!待って!危ないよ!」


上着を抱えて燃え盛る炎に向かって行く。


そんな方法ではなんの解決策にもならないことは分かっているが、それでも少女は進む。飛び散る火の粉を浴びながら、片目を閉じてただ真っ直ぐに進んでいく。


しかし、あまりの熱気に近づくことができない。

無理に進もうとした瞬間、彩利乃の上着は炎に飲まれた。


「きゃあ!」


彩利乃は勢いよく後ろに倒れる。






翔太は炎の中でもがくが、外に出ることはできない。


「なんなんだよ!これは!いつのまにか燃えてっ!」



京介は動けない。


一歩も。


人は本当に驚き、恐怖した時、こんなに体が硬直するとは思わなかった。意味がわからない。何が起きているのかをまず理解しようとして、身体が動かない。



京介はその場にうずくまる。そして、腕にある真っ赤なリストバンドを見つめる。


「春人…。」


一人の少年の名前が溢れる。みんなが困っていると必ず来てくれる。いつも彼が助けてくれる。今回も願う。彼の助けを。





「うわあああああああああ!!」


翔太は叫ぶ。



だめだ。自分達では何もできない。京介は涙を流す。目の前では大切な親友が、苦しんでいる。でも、何もできない。泣くことしかできない。もうだめだと、目をつむって、歯をくいしばる。





その時、風が吹き荒れた。


風で粒状の涙が、宙を舞う。京介はしばらく目を大きく開けたまま、じっとそれを見つめていた。










京介は翔太に目がいっていたため気づかなかったが、いつのまにか、砂埃をあげながら竜巻が近づいてきていたのだ。


風は竜巻状に凄まじい威力で翔太を包み込み、炎は小さな火の粉となって周りに飛び散る。激しい風圧に、気を抜けば吹き飛ばされかねない。


京介は必死に二本の足で堪え、彩利乃は地面に伏せて、なんとかその場にとどまる。




「翔太!おい!返事してくれ!」


京介は炎と風に包まれている友達に呼びかける。だが、その声すらもかき消す翔太の絶叫が痛いほど鼓膜を叩く。


竜巻は空高く続いており、雲の形がそれを中心にぐにゃりと曲がっている。





竜巻は炎をかき消して一気に消滅した。



突然の静寂。








京介の顔は、涙に砂埃が混じってどろどろになっていた。



次第に、砂埃が収まるまで見えなかった顔がぼんやりと現れる。中にいた翔太ではない誰かがゆっくりと近づいてくる。



京介は彩利乃を庇うように身構える、まるでSF映画のように現れたシルエットを見つめる。


「大丈夫か、お前ら。」











そこには、気絶した翔太を担いだ、よく知る顔があった。ズタズタになった制服に、さらさらとした髪、その額からは血が流れていた。



「春人!」




京介は叫ばずにはいられなかった。あれだけ引きつっていた京介の顔は、安堵の表情を浮かべている。いつだって助けてくれたヒーローだから。また来てくれた。



春人は翔太を抱えていつもとは違う険しい表情で近づいてくる。



180センチくらいの身長は、いつもよりも大きく見えた。その服は汚れて、皮膚にもところどころに傷がある。



春人はポンと京介の肩に手を置く。




「いいか、今、、。説明は後だ。とにかく、街はとんでもないことになっている。俺は今から暴走している人達を止めてくる。京介、彩利乃。翔太が目覚めたら、興奮させないように落ち着かせろ。いいな、お前達もだ。俺がもう一度過去に戻ってくるまで絶対にここから離れるな。」



翔太を地面に寝かせ、自分の上着を被せる。


春人は目を下にやると、さっき入った大きく裂かれた地面がずっと、街の方まで続いていた。


「この地面の亀裂。この先か、、、悪い、後で説明する。今は、とにかく時間がない。」



春人は京介と彩利乃の間を抜けて走り出す。



「え?待ってよ春人!」


「悪い!すぐ戻る!」



京介が振り返って手を伸ばそうとした瞬間、春人は突風とともに勢いよく舞い上がる。


「ぐっ!」


京介はとっさに両手で顔を覆う。




そして、春人はすぐにどこかへ飛び去っていった。昔見たアニメのヒーローの様に。




残された京介はポツリとだけ呟いた。


「と、、飛んだ。」


京介はその場にぺたりと膝をつく。



彩利乃は京介の肩を叩いて翔太の方を指差す。



「待って!?なんで、翔くん燃えてないの?」






制服は右手側を中心にほとんど全焼するように燃えていたが、肌には火傷一つなかった。



「翔太!しっかりしろ!」


京介と彩利乃は翔太の元へと駆け寄る。



普通なら肉体がほとんど残っていなくても不思議ではない。なのに、翔太は何事もなかったかのように眠りについている。



この時、京介はまだ知らなかった。

この時、色んな人が傷ついていた。

この時、日本は、いや世界は新しい方向へと進んでいた。



これは京介がまだ中学生だった頃の話である。















事態が収拾したのは半年ほど経った頃であった。



田んぼは焼け、建物は崩壊していた。だが、それは飛来物による被害でもミサイルによる被害でもない。


火災、暴風、地震、津波。


これを並べると、自然災害だと思うだろう。しかし、これは人為的なものであった。人間が火を放ち、水を呼び寄せ、地面を震わせ、風を吹き荒らした。


これは明らかに従来の人の成し得ることではない。








事件から一年後政府はこのように発表した。








「私たち東日本の人間の若い世代に限って、特殊な能力を発症するものが続出している。我々はこれをアビリティーと名付け、国民を海外の化学者から守るため、鎖国を始めることとする。なお、西日本とは別々の政策をとり、協力関係という形で繋がって行きたいと思う。」

東日本 大統領 鈴木 匠









これから始まるのは(イースト)の少年、梶田京介と西(ウェスト)のある少年の話である。


事件から二年の月日が流れていた。


では、まず。


西の少年の話を。


ウェストの家では、一人の高校生が心地よく朝を迎えていた。ジリリリという、古いタイプの目覚まし時計が鳴り響く。


イーストがどんどん発展していくのもウェストには関係ないと言わんばかりに日本の西側では、なんら変わりない日々が続いていた。





「兄ちゃん!!早く起きて、朝ごはん!」




ゆっくりと少年、四条凌真は目を開けた。



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