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地上伝奇譚  作者: 橋口 紅葉
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暗殺には何時の世も美女が潜む

玉津屋五兵衛は退屈な日常に飽き飽きとしていた。


身売りの少女を甚振るのも、花街で女を買い意識がなくなるまで犯すのも、マンネリズムとなり最近になって何処か物足りなく感じてしまうのだ。


(なにか新しい遊びがないものか…)


狸のような腹を撫でながら思考していると、縁側の方から跫音が聴こえてきた。


「五兵衛様、御夕飯をお持ち致しました」


何時もの上女中の声と違い、若々しく凛々しい女の声に五兵衛は首を傾げるが些細な事だと沈思せずに切り捨てる。


「入れ」


「失礼します」


上女中は洗礼された仕草で襖を開けて入室したが、五兵衛は彼女の美貌に惚けた顔をみせた。


年齢は二十歳を過ぎた頃であろうか。


成熟した肉体に蠱惑的な美貌を持つ彼女は何処の良家にお嫁に出しても恥ずかしくないほどに顔が整っている。


彼女を見て五兵衛はニヤリと悪どい笑みを浮かべたが、御膳を目の前に置く上女中は気付いた様子はない。


「おい、お前」


「はい、如何なさいましたか?」


「見知らぬ顔だが、名前は?」


「お登勢と申します」


「そうかそうか。して、前の上女中のお夏は如何した?」


「お夏さんは、体調が優れないとの事で」


「ほう。まあ、良い。して、お前は近頃婚約する予定があるのか?」


「はい、正確な日程は決まっておりませんが」


「ふふふ、もっと近う寄れ」


お登勢の腕を強引に引き寄せ、男を魅了する彼女の芳香に酔いしれ、五兵衛はみっともない顔をするが、彼は気づかなかった。


お登勢は片腕を自身の懐に入れていた短刀を鞘から引き抜いていたことに。


「いけません、そうでないと私…」


「貴方を殺してしまいますから」


直後、五兵衛は腹に違和感を感じた。


目を落とすと、其処には銀色に輝く刃が己を突き刺している。


「んぐっ!?」


大声を上げようとしたが何時の間にか彼の口に布が放り込まれており、苦悶の声を洩らす事しか出来ず、終に白目を剥いて息絶えた。


「いつの世も暗殺の影に美女が潜む、ってね〜」


先程の妖艶で男を拐かす魅惑な雰囲気は何処へやら、童女のような天真爛漫な笑みを浮かべて、尸となった五兵衛を見下ろしつつ、直ぐ様天井に視線を向けた。


「それで君は何時まで其処で隠れている気なのかな?」


「気づいていたか」


天井裏から秋夜の声がした直後、目にも留まらぬ速さで何が上から降ってきた。


それは五兵衛を暗殺しに隠密していた秋夜であった。


「これでも、甲賀が誇る女忍者ですからね!」


外見から察するに年齢は秋夜の二つ上だろうか、無邪気に笑う彼女は成熟した肉体とは裏腹に似合わない。


「それで君は如何して其処で隠れてたの?」


「………」


「ありゃ、黙りか。まあ、私と同じで其処で転がってる狸の暗殺だろうけど」


「………」


「もう!そんなに警戒しなくても大丈夫だって!取って食いはしないよ!」


「名は何と言う?」


「ふふん!聴いて驚きなさい!甲賀流頭領が孫娘、甲賀 彩花とは私の事よ!」


無言の時が流れ、憎たらしい笑みで此方の様子を伺う彼女に秋夜は現在置かれている状況の打開策を見いだそうと必死に脳を働かせていた。


(不味い状況だな。暗殺対象を他の者に殺され、自分の存在もバレてしまった。あまつさえ、女ときたか。玉津屋五兵衛のような悪人を殺す覚悟は出来ていたが、彼女のような罪のなき人は殺せぬ。周辺の者は全員眠らせたから心配する必要はないとはいえ、このまま膠着状態は芳しくない)


「そうか」


「むむっ、それで君の名前は?」


「望月 総明」


無表情で息を吸うように嘘を吐く秋夜に彩花は得意げな表情で見つめるが、彼女に懐疑の表情は伺えず、秋夜に対して好奇心旺盛な瞳を向けるだけだった。


「そうか、そうか。望月 総明かぁ〜」


納得するように、その名を脳内に刻むためか何度も頷くと、ふと秋夜の目を見つめて小首を傾げた。


「じゃあ、お命頂戴?」


刹那、相手が油断したと感じたのか先程までの陽気な少女とは打って変わり、殺気に満ちた瞳で秋夜の急所めがけて数本の苦無を投げつけ、懐に接近する。


(取った!)


タイミング、間合い、速さ、全てが完璧であり、己の経験上から相手の死を確信した彩花は微動だに動かない少年にほくそ笑む。


秋夜は飛来する苦無を迎撃することもせず、冷めた瞳で接近する彩花の腕を睥睨していた。


苦無が秋夜に命中し、続け様に彩花は腰に帯刀していた脇差を閃かせた!


「えっ!?」


彩花は驚愕した。


肉を切り裂く感触と音はせず、金属同士を衝突させた鋭く耳を突き刺す音が鳴り響いたのだ。


己の手に目を向けると、二つの刃が交差している。


(い、何時の間に抜いたの!?いや、それ以前に苦無は!?)


尋常ならざる抜刀技で脇差の直撃を回避した秋夜は、力で押し返しては彩花の体勢が崩れたのを見て脇差を手刀で叩き落とし、動揺した彼女を投げ飛ばして拘束した。


「痛っ!?」


「今すぐ此処を去れ、いいな?」


秋夜の発言に苦痛で顔を歪めていた彩花は驚愕で目を丸くすると、徐々に口の端を吊り上げて嘲笑った。


その瞳には情けをかけられた事に対する憤怒が垣間見える。


「へぇ〜、君は私を殺さないんだ」


「あぁ、罪なき者を殺す趣味はない。それに」


「旦那様!今の音は何で御座いますか!?」


襖の外から狼狽した男の声が聴こえ、屋敷内からは先程の戦闘音が響き渡っていたのか、慌てふためく多数の跫が響いていた。


「少々、暴れすぎたらしい」


「…………」


既に秋夜は拘束していた手を放しており、彩花は秋夜を不倶戴天の敵と認識した。


「早く去れ」


「この借り必ず返すわ、甲賀の名にかけて」


己の誇りを傷つけられた彼女は後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、懐から煙玉を取り出して畳に投げつけた。


瞬く間に白煙は部屋を覆い尽くし、火薬の匂いが充満する。


煙で前も見えない状況だが、秋夜は血の匂いを辿り難なく五兵衛の首を断ち切ると麻袋の中に放り込んで天井裏から垂れた綱を掴んで登り始めた。


部屋に残されたのは首から上を失った玉津屋五兵衛の骸のみ。


程なくして家中の者が五兵衛のいる私室に向かうが、部屋から漏れ出す煙に驚き只事ではないと判断したのか、家主の許可を得ず乱雑に襖を開けた。


部屋に充満する煙が雪崩れ込むように廊下へ行き渡り、視界が良好になると今度は目を疑う光景を目の当たりにする。


「だ、旦那様!?」


悲痛な叫びが屋敷に轟く。


その日から、玉津屋の経営は傾き、何時しか人々から忘却されていった。


因みに甲賀彩花のイメージは戦国⚪︎双のく⚪︎一です。


戦国⚪︎双シリーズだと稲姫と半兵衛と真田兄弟が大好きですね。


あと、戦国⚪︎双IIIの真田幸村のストーリー終盤は本当に最高である!


以上、戦国⚪︎双シリーズが大好きな作者でした。

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