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地上伝奇譚  作者: 橋口 紅葉
3/13

外道達の会合

不城の一族には三ヶ月に一度、年長者達により一族の意向の確認や鍛錬内容の見直し、現当主が後先短い場合に次期当主を決定するなどの会合が行われてきた。


今回の議題は不城秋夜の次期当主として適任であるか否か、という議題から始まった。


本来、不城家当主は一族で最も優れた豪傑がなるのだが、秋夜は人を殺める事が出来ない事により過半数以上の者に反対され、その座についていないのだ。


もし、彼が殺人を忌避しない心の持ち主だったならば、十代の若さで一族を率いたのかもしれない。


閑話休題。


時刻は夜の11時を回った頃だろうか、現当主の昭孝を筆頭に六人の年長者達が円形となるよう座布団に座り、眉を寄せて渋い顔をしている。


「それで、皆はどう考える?」


昭孝は一同をゆっくりと見渡して問いかけた。


「どう考えるも何も、あのような腑抜けた若造に次期当主は務まらん!天賦の才を持っているとしても殺人を拒むなど笑止!」


開口一番、秋夜を責め立てる不城 藤次郎に周囲の者達は唸る。


この会談の中で一番最年少である藤次郎は以前、天賦の才を持ちながら殺人を拒む秋夜の態度に腹を立て、仕合を申し込んだ事があった。


不殺を条件とした仕合だったが、不城家一の鬼才と称される秋夜に為す術もなく敗れてしまい、己の培ってきた武術と自尊心を傷つけられ、くだんの出来事から秋夜を目の敵として見ていた。


「確かにのぉ」


「だが、どうする。彼奴に勝る若者は里にはおるまい」


「いっそのこと秋夜を越える才能を持つ子が生まれてくれれば」


「それじゃあ!」


藤次郎の吐露に歯が数本抜け白髪で老け込んだ翁は、怪鳥の如き声を上げた。


「喧しい喧しい。それで妙案が浮かんだのか?」


「ああ!秋夜に勝る才を持つ子を産ませるのじゃ!」


彼の提案に他の者達は呆れた顔をした。


「そんな簡単に言うて…それが出来たら苦労せんわい」


「昭孝よ、息子の嫁の体調は如何か?」


「不可能だろうな。佳奈を産んでから体調が悪くなる一方。もう一度孕ませたとしても、子を出産出来るかどうか」


事実、秋夜の母は元々体が弱く、二人の子を産んでしまったがために今では病に侵されてしまい寝たきりの状態であった。


仮に子を産んだとして、彼女は疲労で命を落とすだろう。


「そうか…」


「むう…」


「致し方なし。この議題は保留にしよう」


「いや、待てよ。奥方は駄目でも娘がおろう。のう、昭孝よ。主の孫娘は今幾つじゃ?」


「今年で十三だが。そうか、佳奈に子を孕ませるのか」


「ああ、その通りじゃ。彼の娘は叡智に富んでおるし、武術も女子の中で一番腕がいい。それに子を産んでも問題ない年齢であろう」


「だが、誰の子を孕ませる?秋夜か?」


「いや、不可能だろうな。奴は実の妹に手を出さないだろう。それに子は親に似る可能性もある。此処は我らが…」


「いや、どうせなら里の皆に協力してもらうのはどうだ?」


「それは妙案じゃ。では、次期当主は佳奈が産んだ子でよいか?」


「じゃが元服するまではどうする?それに生まれてきた子が秋夜を越える才を持ってくるとは限らん」


「次期当主については決めるには時期尚早だったのだろう。だが、備えあれば憂いなし。佳奈は保険として、一族の慰み者となって貰う。それに一族総出の男達の精を持ってすれば秋夜を越える才を持つ子が生まれてくる筈じゃ。もし、駄目だったならば駄目で諦めればよい」


科学的根拠のない理論だが彼等は自分の考えに誤りがあると一寸も思わず、一人の少女の人生より一族繁栄を重視する彼等は当時の人間としては世間一般的であるが、今回の件ばかりはあまりにも残酷である。


「そうじゃな。よし、其れで何時決行する?」


「明日の夜から毎晩すればよい。秋夜には悟られぬよう里から引き離す必要があるな」


「どうしてじゃ?」


「彼奴は一族の者とは違う思考を持っておるし、佳奈を溺愛しておる。この案に反対するのは嫌でも分かるわい」


「そうか。なら、奴を遠ざけるために仕事を回さねば…」


人の心を持たない外道達による会議は当人の知らぬ間に終わりを告げ、佳奈の身に危険が迫っていた。


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