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God is dead  作者: 毛利忠壱
Second purge編
11/12

2

 南條先輩とのジェットコースターのような邂逅を終えて俺は謹慎明け早々久方ぶりに任務を受けることになった。任務といっても今回は大それたものではない。小田原基地への1日付の出向。ミサイルでの攻撃任務でもなければ迎撃任務でもない。そもそも小田原基地にはミサイルは1機も配備されていないのだ。小田原基地は中規模の観測基地だった。


「響ちゃん運転できたんだね…」


「ああ。一応免許は取ってたんだよ」


 普段通り(といっても初任務で謹慎を食らったから今回の任務は2回目で普段通りという言葉が正しいかはわからないが)の任務の中で唯一違うことと言えば助手席にきいが座っていて俺が車を運転していることだった。いつもなら(といっても初任務で謹慎…以下略)運転席にはカーターがいて超絶技巧運転テクニックを駆使して予想所要時間の半分以下の時間で目的地まで愚痴を垂れながら連れて行ってくれるのだが今回はそうもいかない事情がある。彼は俺とは別に尾道基地への1日付の出向という拷問のような任務を仰せつかったのだ。今頃はきっと南條先輩を助手席に乗せて法定速度の倍くらいの速さで尾道に向かっているだろう。

 俺自身の運転技術はといえばこれは特筆するべくもない。普通だ。カーターの様に高速道路にある自動速度違反取締装置の位置を正確に記憶していてそこに近づいた時だけ法定速度を守る器用な真似は当然できない。だから交通ルールも法定速度も守る。極めて一般的な優良ドライバーだった。


「まさか響ちゃんとドライブすることになるなんて」


「呑気だな。一応任務だぞ」


「気にしない気にしない。えっとカーターさんならこんな時なんて言うんだっけ?かーっ、キョーヤは細けーな…」


「真似せんでよろしい」


 カーターはここでも悪影響を及ぼしているようだ。きいのカーターの真似は正直に言うと少しかわいかったが、口癖がうつってしまってはたまったものではない。つまらないアメリカンジョークを飛ばすようになってしまってはそれこそきいの女性としての人生は終了してしまう。

 カーターのことはともかく、きいが楽しそうなのは素直に嬉しかった。きいはいつも眠そうな顔でぼうっとしていて何を考えているか分かりづらいからこうして楽しそうな気持ちが表情に出るのは意外にも珍しいのだ。せっかくだからこのまま本当にドライブに行ってしまいたかったがそんなわけにもいかない。


「それにしてもきいと2人なんていつぶりだろうな」


「…そ、そうだね」


 本当にいつぶりだろう。ここ最近は色々ありすぎた。一世一代のテストと人生最大の危機を短期間に詰め込まれてそれどころではなかったのだ。カルピスの原液のように濃密だった。こんなのどかな気分でドライブできるなんて想像もできなかった。今カーターがこの場にいないのは幸いだ。せっかくのドライブ日和の今日も彼の手にかかればカーチェイスに明け暮れる1日に早変わりしてしまう。目的地に早く着くのはいいことだが別段常に早く着きたいと思っているわけでもないのだ。


「きいは俺たちが謹慎してる間どうだったんだ」


「…うーん…そうだね。色々やったかな。響ちゃんほどじゃないけど偵察機の撃墜もやったし…でも事務の仕事が多かったよ。だから出向は久しぶり」


「そうか。てっきりずっと最前線に出向してるんだと思ってたけど違うんだな。でもきいは意外・・と賢いからしっかりやってれば俺なんかすぐに置いてけぼりにされそうだな」


「うーん、それはないと思うな…それにあんまりこの仕事好きじゃないし」


「好きじゃない?じゃあなんでこの仕事をやめないんだ?」


 言った後しまったと思った。言わなければよかった。なぜ言ってしまったんだ。こんなの遠回しにきいにはこの仕事をやめろと言ってるのと同じじゃないか。きいがレジスタンスに入ったのは少なからず俺のせいに違いないのに。

 俺の後悔とは裏腹に当のきいは首をかしげているだけだった。


「なんでだろう…なんでなんだろうね」


 そう言うものの彼女の顔はあまり不思議そうではなかった。


「まあでも好きじゃないことだってやってて良かったと思うことの1つや2つあれば続けられるもんだよ。人間なんてそんなもんだよ…うん…そんなもん」


 自信なさげにきいは人間をそう定義した。


「そんなもんかねえ」


「そんなことより」


 彼女は突然助手席から身を乗り出し語気を強めた。


「『意外』は余計じゃない?」


 普段は眠そうな目が今はしっかりと見開かれている。頰が膨らんでいる。どうやらお怒りのご様子だ。


「悪い悪い。きいは賢い賢い」


 頭をぽんぽんと叩くと膨れた頰は元に戻り上機嫌な顔に戻った。


「わかればよろしい」


 彼女はえっへんと胸を張る。こういうところは昔から変わらない。人前ではそんな素振りは見せないが見知った人の前では少しひょうきんでお調子者。おどけたりもする。見知った人の前ではと言ったが中々レアなのでそれを見ることができるのは欣喜雀躍と言えば過言だが中々に嬉しかった。

 きいをただのおとなしい女の子だと思う人は多い。だから何かの機会にきいの別の一面に気づいて驚く。でもそれがきいなのだ。何にも興味がなさそうに見えて人一倍好奇心旺盛、眠そうに見えて時に物の本質を見抜く、おとなしく見えて実はひょうきん。どれもきいだ。全部ひっくるめてきいなのだ。相反する二面性を持っていてどちらかが本当の一面ではない。きいがどんな人かと聞かれて眠そう(恐らく本当に眠い)な人と答えても好奇心旺盛な人と答えても、あるいはおとなしい人、ひょうきんな人と答えてもそれは的を射ている。結局のところ彼女は何にも興味がなくて人一倍好奇心旺盛で眠くて時に物の本質を見抜きおとなしくてひょうきんなのだ。


「そういえばきいは確か南條先輩と部屋一緒なんだよな」


「…そうだよ」


「どうだった。たしか俺の部屋で初めて会った後きいの部屋で2人になったんだろ?」


 南條先輩ときいはどんなことを話していたのだろう。2人とも全く違うタイプに振り切っている感があるからお互いどう考えているのかは気になる。


「…うーん。なんか変わった人だったかな。でもいい人だったよ。面白い話をいっぱいしてくれたし…響ちゃんはどう思った?」


 どうだろう。いざ聞かれるとどんな人かが全くわからなかった、というのが率直な感想だった。変わった人とかいい人とか面白い人というような有り体の答えは既出してしまっている。とりあえず容姿についてでも言っておくか。


「そうだな。綺麗なおねーさんって感じだったな。包容力がありそうと言うか、優しくて気さくな人って印象。あとは…まあ、美人だった」


「…ふーん」


 無感情な返事。


「響ちゃん確かに昔っから年上のおねーさん好きだったもんね。ふーん、ああいうのがタイプなんだー」


「心外な。年上も年下も女性ならみんな好きだ。守備範囲は広いからな。なんなら小◯誠って呼んでくれたっていい」


「うわ…」


 きいが本気で顔をしかめている。冗談が過ぎたか。カーターに毒されているのはどうやらきいだけではないらしい。


「あとわたし別に千葉ロッ◯マリーンズのファンじゃないし…」


 あとで聞けばきいは阪◯タイガースが好きだったとのことだった(正直少し意外だった)ので守備範囲の広い例えに小坂◯を挙げたことがそもそものミスでアンディ・シ◯ツとか鳥◯敬とかにしておけば良かったと後悔した。後の祭りである。なぜ遊撃手ばかりなのかという疑問はこの際看過してほしい。


「響ちゃんの変態!会ったばかりの人に手を出すなんて、変態界のロベルトカル◯スだよ」


「いや、俺は手出してねえよ。あといくら俺が守備範囲が広いって言ったからって遠回しに攻撃型ディフェンダーって言うのはやめろ」


 ロベル◯カルロスをなんだと思ってるんだ。いや、確かにサッカー史に残る超攻撃型ディフェンダーだけど。

 きいがあまりスポーツ観戦をしているのを見たことはないからきっと◯坂誠やロベルトカ◯ロスの名前は知識として頭に入っているだけなのだろう。しかしそれを必要な時に引き出しから出して相手に合わせて当意即妙な返しをする彼女の能力には脱帽せざるを得ない。


「響ちゃんが変態なのは置いといて南條先輩について少し気になるんだよね」


「ん?どうした」


 変態扱いは甚だ遺憾だがそれより気になることの内容が気になった。


「いや、本当にどうでもいいことなんだけど…」


 前置きを自信なさげに言った後にこう続けた。


「なんでこのタイミングで日本に帰ってきたのかな…って…」




















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