国境
彼には感謝すべきだ。そんなことを思いつつも店内を見回す。テーブルを眩しく照らす夕日が窓から零れ落ちている。心地の良い風がそれらを運んでくるかのように。そういえば、ここに来てからというもの慌ただしい現状についていけず、1度も落ち着くことがなかった。
店員「ご注文はお決まりですか?」
いつのまにかアストロが店員を呼んだらしい。まだメニューさえ見ていないのに、意外と勝手な人なのかもしれない。
それにしても…この女性店員。巨乳が目立つ。
アイリス「……」
ふと下に目をやるが、視界には何の邪魔もなくそのまま自分の太ももと握りしめた拳が見える。悔しい。
アストロ「コーヒーでお願いするよ。」
アイリス「あっ、わ、私も。」
メニューがわからなかったのでとりあえず便乗してみる。
コーヒーってなに?美味しいのかな。不安がよぎる。
店員「はい。少々お待ちくだ……あれ?アストロじゃん!」
アストロ「気づいてもらえないかとハラハラしたよ…」
アストロは少し傷ついた様子だ。
店員「いやぁ、可愛い子がいたからそっちに気をとられちゃって。」
そう言いながら店員がチラッとこちらを見てくる。自己紹介した方がいいのだろうか。といっても自分のことをあまり知らないのだが。
アイリス「えっと、こんにちわ。」
店員「こんにちわ。もしかして、アストロの彼女さん?」
いやいや、むしろあなたとアストロの方がそう見えますって。と言いたいところを飲み込んだ。
アストロ「違うよ。スケッチ広場でお祭りをやっているのだけれど、そこで意気投合してね。」
店員「へー。名前は?」
さっき彼にもらった名前で自己紹介をする。その名前を誰がつけたかは説明しなかった。普通そこまでは言わないだろう。
店員「良い名前だね。私はアネモイっていうの。よろしくね。」
アイリス「あ!みんな名前の最初にアがつきますね!」
言った途端に疑問がわいた。私の名前をつけた本人が目の前にいたからだ。まさかこの会話が繰り広げられることを予期していたわけではあるまい。
アネモイ「確かに!奇跡だね。」
本気で驚いているアネモイに、彼は申し訳なさそうな顔1つ見せない。むしろ、会話に便乗して楽しんでいるようだ。
アストロ「っと。アネモイ。そろそろ飲み物を…」
アネモイ「ごめん。忘れてた。持ってきまーす!」
お店の奥の方に厨房があるのか。小走りで取りに行く。
いろいろと破壊力のあるお姉さんだった。
彼とは気安い仲なのだろう。私のつけたあだ名と全く同じあだ名で呼んでいた。割とメジャーだったのか。
アストロ「騒がしくてごめんよ。あの人は僕と幼馴染みなんだ。昔からあんな感じなんだ。」
少し笑いながらお姉さんの紹介を終えてすぐ、真面目な表情になった。広場のある方向を見つめながら抑えた声で話しはじめた。
アストロ「君はあれを初めてみたんだろう?怖い思いをさせたね。」
あれとは、わざわざ口に出さなくてもわかる。
アイリス「もちろん。でも、装置を付けられていた男性はきっともっと怖かったと思うわ。あの男性はあの後どうなってしまうの?」
少し答えることに躊躇った様子で重くなった口を開く。
アストロ「記憶を消去されたあと、どこか遠くへ追放されてしまうという噂はきいたことがある。あくまで噂だからね。」
噂という言葉を繰り返す心理はわかる。それを信じたくないのだ。
アイリス「追放って…。この国ではそれが当たり前のルールなの?」
アストロ「まだわからないよ?それが本当なら、傷ついてしまった人を必要としない社会なんて、僕には理解出来ないね。」
私にも理解出来ない。いや、出来ないのが普通だろう。
どうすればそんな国が出来上がるのか。そんな息苦しい世界が。
アストロ「君はこの国に来てからまだ間もないね。よかったら、何故こんなところにきたのか話してくれないかい?」
察しが良い。ここで当たり前のことを質問として彼になげかけた結果だろう。
アイリス「それが、気が付いたらあの広場にいたの……」
アストロ「じゃあ、旅とかそういうことではないみたいだね。」
アネモイ「おまたせ。ん?何?2人だけの秘密の会話?」
ちょうどコーヒーを運んできた彼女は何事もないかのように私の横に座る。何故、秘密の会話だと思う会話に入ろうとできるのか。さすがだ。話すことをやめたら不信がられるパターンが読めたので、話を続けた。
アイリス「実は…」
覚えていることを全て話した。誰もいない広大な草原にある家で暮らしていたこと。突然、本が現れたので興味本位で開いたら、光に飲み込まれて、気づいたら広場にいたこと。この国の決まりをついさっき知ったこと。自身のことはほぼわからないということ。
アネモイ「本を開いてから、何か唱えたりした?」
アイリス「いえ。何もしてないです。ただ読もうとしただけで…って、なんで唱えるんですか?」
アネモイもアストロもきょとんとしている。突っ込むところがおかしかったのだろうか?
アネモイ「まさか…知らないの?」
何をだ。
アネモイ「えーっと、国境を超えるために本の魔法を使うことは?」
アイリス「そんなこと出来るんですか?!」
アストロ「僕が説明するよ。」
彼は一冊の本を鞄から取り出す。その本は、古ぼけていて表紙の文字が読めるか読めないかといった具合だ。しかし、自分が拾ったものとはデザインが違うようだった。
投稿がとても遅れてしまいました!申し訳ない!
新たな登場人物も迎え、ますます賑やかになりそうです♪
話の続きを考えながら書いていますので、設定とか、忘れてかるーく破っちゃいそうで怖い笑
読んでくださりありがとうございました♪