決まり
少女や青年、おじいさん、おばあさん。
みんな仲むつまじそうに手を繋いで踊っている。薄ピンク色のレンガの地面をリズムよく蹴り、その上では眩しい青空が広がっていて、広場の中心では大きな噴水がきらきらと輝いている。
謎の男「アイリス、楽しいかい?」
アイリス「えぇ。とっても♪」
謎の男「それはそれはっ!それなら僕も楽しいよ。」
アイリス(この男性はこんなにニコニコしていて顔が痛くならないのだろうか…。)
そんな会話を交えていたときだった。
「おい!止まれ!!」
大きくて低い声が広場に響いた。ふと見ると警察らしき服装の人が3人ほどで1人の青年を追いかけていた。
気になり、もっと近くで見ようとすると、手を握っていた男性が私を抱き寄せた。
アイリス「え?!どうしたのですか?!」
慌てて男性の顔をのぞき込む。
謎の男「警察だ…あまり見ない方がいい。」
アイリス「わ、わかった。」
(一体、何がどうなっているの?見ない方がいいってどういうことなの?よくわからないけど、耳だけでもすませておこう。)
警察「お前、さっき泣いていただろ?」
青年「なっ…泣いてないですよ!元気ですよ。」
警察「嘘をつくな。私は見ていたぞ。」
青年「お願いします。それだけはやめてください!」
警察「お国の決まりだ。見逃すわけにはいかん。」
青年「そんなっ、」
警察「おい!暴れるな。」
ガシャン!
キュルキュルキュル……
(かなり大きめの声で言い合いをしてくれたおかげで会話はほぼ聴こえたけれど、このキュルキュルという音はなに?気になる!)
…探究心に火がついたアイリスは我慢出来ずに見てしまった。
アイリス「なによ…あれ…」
青年は警察に体を動かないよう押さえつけられ、頭には変な装置をかぶらされていた。。どうやら、音はあの機械からするようだ。
謎の男「はぁ。君にはまだ見せたくなかったのだけれど。しょうがない。」
アイリス「ごめんなさい。でも、あれは何?」
謎の男「記憶を消滅させる装置だよ。この国の決まりさ。」
アイリス「きまり…」
謎の男「そう。ここでは皆、笑顔でいなければならない。泣いたりなんかしたら、辛い記憶を消すと共にそれに関連する人物のことも全て忘れさせる。そんな決まりだ。」
アイリス「知らなかったわ。何故そんな酷いことをするの?」
(…あれ?こんな状況なのに懐かしい感覚がする。怖い。)
謎の男「わからない。この国の決まりは僕も理解出来ないよ。
それにしても、初めて見たんだろ?大丈夫かい?」
アイリス「大丈夫なわけないよ…」
謎の男「はははっ!そりゃそうか!じゃあ、少し休憩しよう。」
どうやら、その男性お気に入りの喫茶店があるらしい。
アイリスはさっきの出来事の記憶を巻き戻しながら、男性のあとをついていった。
…
(それにしても、この人について行っても大丈夫なのかしら。でも、今までの様子だと悪い人ではないわよね。信じましょう。)
広場の噴水の近くに、アンティークなお店がある。
ドアは木でできており、メニューのかかれた看板が壁にぶらさがっている。
謎の男「着いたよ。僕、ここのお店好きなんだ♪」
店内へ入ると床から少し軋むような音がした。
中は少し狭く、不思議な香りがただよってくる。
2人はとりあえず、大きな窓の近くに座った。
謎の男「さて、自己紹介が遅れたね。僕の名前は、アストライオス。呼び方は自由にしてくれて構わないよ。」
アイリス「素敵な名前ね。じゃあ、アストロと呼ぶわ。」
アストロ「これはまた素敵なあだ名だね♪」
アイリスは衝撃的なさっきの体験が頭に残り、とても気持ちが悪かった。しかし、アストロに支えられていることに気づいたら、少しだけ気分が楽になった。
(アストロには感謝しなきゃ。でも、この先私はどうなってしまうのだろう…)
アストロと出会ったアイリス、彼女の冒険はまだまだ始まったばかり!謎の法律、奇妙な記憶…ときあかすべく物語が動き始める!!
読んでくださった方、心より感謝申し上げます。