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ミスティックエクスプローラー  作者: K2R
第一章 ミスティックエクスプローラー
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霧の塊

「ケン、回復!」


「大丈夫なのかよ、普通ん人につかっちゃって」


 そう言いつつ健太は腕を押さえてしゃがみこんでいる女性の傍に跪いた。

先程の異形の爪にやられたのであろう深い切り傷から鮮血が流れ出しており、早急な手当てが必要であろうと素人目にもわかる。


「すんません」 一言健太は謝って、血で赤く染まったブラウスの袖を引きちぎり、傷の上に手をかざした。「《治癒光》」


 健太の手から光が溢れ出し、傷口を照らすと、その傷口が見る見るうちに閉じていく。

《治癒光》は文字通りの回復術技。回復効率が全ての術技の中で最も優れるこの術は、生命術士の基本であり、最重要術技といえる。


「治っちゃった……」


 女性があっけにとられたように呟く。

この学園の教師だろうか。20代と思われる女性は我に返ったように頭を下げた。


「危ない所を助けていただき、ありがとうございますっ!」


「いえ、別に」


「まぁ、なんかこの子らだけでも何とかなっただろうがね」 男は頭を掻いて答える。


「本当に魔法使いみたい。あなた達は……」 女性が言いかけたのを男が止めた。


「まぁ色々あるが、ここを離れた方が良い、なんか安全な場所を探したほうが良いだろ」


 久蓮は首を横に振った。


「すみません、俺らは知り合いを助けに来たんで、先に行かせてもらいます」


「ああそうだった、車を持っていかないと……あの子達待ってるわ」 ポンと手を打ち、女性は立ち上がる。


 男は大きくため息をつくと、ふらふら歩き出す女性の腕を掴んだ。


「話をきかねぇお嬢さんだ。お前らなんか悪かったな。俺がこの人はなんとかする」


「いや。人がいるんスか、どこに?」 健太は地図を女性に見せながら訊ねた。


 女性は怪我のショックで震える指で難儀しながらも、校舎の脇にある建物を指し示す。


「高等部の体育館に私の生徒が。怪我をしてる子もいて車を持っていこうと」


 健太は久蓮の顔を見た。冒険中は常に久蓮がリーダーとしてやってきたし。普段から三人で動くと美弥子が言い出し、久蓮が決め、健太はそれを補佐する。そんな関係になっていた。


「車を出してください、途中まで護衛します」


「そいつは助かるぜ」 男は銃の弾倉を交換しながら笑った。


「はい、今すぐ!」 女性は自分の車らしい黄色い軽自動車まで走っていくと、手間取りながらも鍵を開けてエンジンをかける。


「ちょっと小さすぎんな。人数が多かったら、動けない人をミヤんちに運んでもらっか」


 美弥子の家まで自動車ならば五分でつける。

残りは久蓮たちが護衛をして歩いてもらうしかない。美弥子を見つけるまで待たせることになるが、周辺の異形を殲滅しておけば再配置までは安全だ。


「少年、行くぞ」


 男に声をかけられ、久蓮達は車に先行して走り出した。

霧の中を安全に注意して進む車より早いということもあるが。先に行って地図で安全を確認するほうが重要だ、敵の中に車を突っ込まさずに住む。


 100メートルほど進んで、久蓮は自分の判断が正しかったことを知った。

地図上100メートル先、体育館の傍に異形の反応があった。光点が通常よりいびつな丸で、やや大きく見えるのは、複数の光点が重なっている可能性があることはさっき学んだばかりだ。


「この先100メートルに敵がいます。停まってください」


「見えるんですか?」


「レーダーがあるんスようちら。この辺りには異形はいないんで一応は安全です」


「俺達が先行して排除します。待っていてください」


 迂回して、体育館で救助中に車が襲われでもしたらと思うと、流石に見逃す訳にはいかない。

さっさと排除してしまおうと、久蓮と健太は目標に向けて走った。


「敵はこないだの犬だ犬。あとサソリもどき見たいなのと、蟻っぽいのもいる。蟻は2レベだ」 50メートル以内に入ると、健太が叫んだ。


「蟻とサソリは抜かれない、無視だ」


 50メートルは今の二人にとって一瞬だ。久蓮がそういい終わった時にはすでに視界が開ける20メートルに入っていた。

そこにいたのは犬が五匹にサソリと蟻が十数匹。そして、地上5メートルに浮ぶ白い球体。


 距離感がつかめないが、球体はおそらく大きさは直径2メートル。光沢を持っており、光の揺らめきから液体にも思えた。

球体の下部が歪み始めると、しずくを落とすように一滴白い塊が零れ落ちる。

それは地面に触れると異常な濃さの霧となり、サソリ形の異形となって実体化し動き出した。


「あいつ、何だよいったい。ダンジョンの代わりにジェネレーターか?」


「なんにしてもぶっ壊すぞ。犬を殲滅、その後ジェネレーターだ。雑魚は邪魔なら俺が通常攻撃でやる」


 本当に範囲攻撃がほしい。気の合う二人は同時にそう呟いた。

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