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ミスティックエクスプローラー  作者: K2R
第一章 ミスティックエクスプローラー
7/20

救助

 極めて見通しの悪い霧の世界は、普段通いなれた道でさえ見知らぬ土地のように思わせた。

手元にGPS付きの地図があるからこそ道に迷うことは無いが。無ければ方向すら見失いかねない。


 久蓮の予想通り、全力で走り続けても息は上がってこない。

ミステックの能力に物を言わせ、ただひたすらに真っ直ぐ。多少の障害物は飛び越えて進んでいく。

途中見つけた異形の反応は全て無視して避けて通った。


「異形は無視でいいんか?」


「今はちょっとでも時間が惜しいからな」


 健太が言いたかった事は久蓮も分かっていた。無視した異形の下で助けが必要な人がいるかも知れず、自分達にはそれを助けることが出来る。

だが、それよりも美弥子の所に行くことが優先されただけだ。

もちろん、近くで悲鳴でも聞こえれば助けに入るつもりではあったが。そんなことになってほしくないと思ってはいたし、だからこそ異形を避けて走っている。


 絡まる蔦が歴史を感じさせる高い壁を乗り越えて久蓮は足を止めた。美弥子の通う学校の敷地に入ったのだ。

久蓮は地図を確認し、敷地内の異形の位置を調べる。


「おかしいな。ダンジョンなのにほとんど異形がいない」


 久蓮の地図上ではすでにヴァンパイア城のすぐ傍まで来ているはずだったが、異形の影はちらほらといった具合で。それもダンジョン内ではなく周辺をうろついている。


「ロード以前にヴァンパイア自体いねぇぜ。名無しだけだわ」


「とにかく進もう。ミヤをさがさないと」


 歩き出して久蓮は広い敷地のこの学校を腹立たしく思った。

霧の所為で建物の全景が見えないから、判断がつき辛い。高等部三年の教室が最も可能性が高いと分かっていても、その高等部校舎が分からない。


地図のおかげで建物の位置は把握していても。五棟もあり、尚且つ感覚が無駄に開いているとなれば。中に入って確認するのも手間というものだ。


「入り口あたりにゃ、案内板があるんじゃねぇか?」


「ああそうか。結構近いし、そのほうが確実か……」


 近くに異形の反応が幾つかあるが、健太によればさっきと同じ犬らしい。

あの程度なら十体であろうと勝てる相手だ。


 校門は走って一分も掛からない距離にある。そこに向かう途中、不意に進む先から女性の悲鳴が響いた。

久蓮の脳裏に美弥子の姿がかすめ、走る速度を速める。

校門の脇、駐車スペースの中で異形に囲まれた女性を見つけた。


「《断ち落とし》!」


「《流星脚》!」


 同時にジャンプから繰り出される術技を放ち、女性に最も近い二匹をそれぞれが仕留める。

そのまま異形達との間に割って入ると、素早く頭を巡らせて敵を確認。数は六匹。全て犬型の異形だ。


「どうしてこんないんだよ」 健太が怒りをこめて叫ぶ。


「知るか! パーティー標示はされてなかったし。……ひょっとして点が重なってて見逃したか?」


 女性を守るよう二人で挟み込んで、異形達とにらみ合う。

異形達は久蓮等を警戒するように少し離れて、輪になって囲み、隙を窺うようにゆっくりと回る。


 久蓮は自分達の装備する術技を思い出し、範囲攻撃や複数同時攻撃を捨ててきた事を悔やんだ。 

一つ一つ確実に数を減らす戦いが彼らの作戦で。ゲームだった頃は誰かを庇いながら即効で決着をつけなければならない事態などなかった。


「このままカバーしながら来る奴だけぶっ飛ばすか?」


「いや、それだと時間が掛かり過ぎる。それに、周囲から援軍がくるかもしれない」


 その時、轟音が轟き、異形の一体が吹き飛んだ。

それが銃声だと気がついたのは、霧の中から現れた男が小銃を手にしているのが見えたからだ。


 男は素早く銃口を別の異形に向けて発砲。異形は頭部を吹き飛ばされた。

突然の出来事に異形達の動きに混乱が見え、輪が乱れる。


「ケン、今だ! 《閃衝・獣》」 いまだこちらを見ている異形に左手の短剣を突き入れる。


 久蓮に呼応して健太も倒せば残るは二体。こうなってしまえば一対一で問題なく処理できる。

全て始末したの後、地図を見て銃声で異形がよって来ていないかを警戒し、安全が確認されてやっと息をついた。


「まさか俺らに増援がくるとは」


 男は三十後半ぐらいで、よれたスーツ姿に無精ひげといった出で立ち。

手にした銃を下げて、久蓮たちの動きに、口を開けて驚きのまなざしを向けていた。


「いや、なんか妙な格好だと思ったが。なんかすごいね君たち」 われに返った男は、顎髭を撫でながら言った。


「ははは。来てくださって助かりました」


「うんまぁ、それはいいんだけど。その女性、なんか怪我してるみたいだよ」


 男に言われて初めて女性が腕から血を流している事に気付いた。

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