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ミスティックエクスプローラー  作者: K2R
第一章 ミスティックエクスプローラー
6/20

術技

「よし、さっさといこう」 そう言って久蓮は窓を開いた。「かなり濃いと思ったけど、意外と見通せるもんだな」


「おい、ちょっと待てぃ」 下を覗き込んでいる久蓮を慌てて止める。


「これぐらいの高さなら大丈夫だろ」


「いやいやいや。三階だぜ。一応10メートルはあるだろ」


「お前はまだミステックのチカラを体験してないからそう思うんだよ。実際に体験してみるといい」


 そうはいっても流石に三階。現実味のある高さに、余裕を装ってるが久蓮もいざとなれば足がすくむ。

それでも言った手前、久蓮は率先して窓から飛び降りた。

受身も何も無い、ドンという音と共に両足で着地。しばらくそのまま固まっていたが、問題ないことを確認すると健太を仰ぎ見る。


「大丈夫そうだぜ」


 そうなってしまえば健太も跳ばざるをえない。一瞬躊躇ったが、健太もまた窓から飛び降りた。

同じように着地し、同じように動きを止める。


「大丈夫か?」


「2ダメ食らった」


 能力値画面のヒットポイントが2点減っている事を見せられて 久蓮は腹を抱えて笑った。


「笑ってねぇで、さっさと行くぞ。《鷹の目》で、お前が先行だろ」


「わかったわかった」 スマートフォンを片手に走り出そうとして、止まる。「そういえば、この先にさっきの異形がいるが」


 先程の銃声がした場所に異形のことだ。

健太は小さくうなずくと、スマートフォンを操作。《生命感知》を発動する。


「レベル20の相手が一匹だな。何でか名前はわかんねぇ」


 《生命感知》は有視界距離を伸ばす術技だ。

感知距離を伸ばす《鷹の目》と違い、異形に気がつく距離は変わらないが。異形の詳細が見える有視界距離が伸びるため、10メートル以内に接近する危険を冒さずに敵を知ることが出来る。


「名前はさっきも見れなかったな。何があったか少し気になるし、行ってみよう」


 久蓮が先導して走り出す。

霧の中の見通しは20メートルといった所か。地図を片手に、学校の敷地を分ける塀を簡単に飛び越え、異形が視認できる距離まであっという間だ。


 実際に見た異形は2メートルはある巨大な犬といった外見だ。

光沢ある漆黒の装甲に身を包み、その隙間から血管のようにマグマのような朱色が明滅している。

道路の中心。事故車の傍らで、警官らしい犠牲者を貪っていた異形は、久蓮達の接近に気がつき、淀んだ闇のような双眸を二人に向けた。


「いくぞケン。構えろ」 久蓮は剣を引き抜く。


「おいこれ、アーツはどう使うんだよ?」


 慌てる健太の様子に好機と見た異形は、一瞬、事故車の陰に隠れ、二人の視界外から距離をつめて健太に飛び掛る。

健太は分厚い篭手で喉笛に喰らい付こうとする異形の攻撃を防いだ。65レベル以上が装備できる重篭手はこの程度の攻撃では貫徹しない。

しかし、目の前で火花が上がり、獣の口臭とよだれに健太は顔を背けそうになった。


「戦闘画面には入ってないし、フィールドで使えるパッシブ以外、使用アイコンがないし。多分撃とうとすればいける筈!」 久蓮はそう言うや否やナイフを上に放り投げ左手を振りかぶった。「《縛鎖微塵》!」


 振りかぶった手の中にY字に繋がった鎖が現れ、そのままそれを異形へと投げつける。

微塵と呼ばれるその武器は、投げられるとそれぞれの鎖の先につけられた分銅の重みで鎖は回転しながら跳び、当たった相手にきつく巻きつく。

健太の腕に噛み付いていた異形の胴に当たった鎖は、一瞬にして巻きついて締め上げた。


「でかしたぜ。喰らえ、《四肢連牙》!」


 引き剥がされた異形に右前蹴りを叩き込む。そのまま流れるように左フック、右アッパー、そして左回し蹴りで締めた。


 異形は悲鳴を上げて吹き飛び、空中でそのまま霧と消えた。


 《縛鎖微塵》は盗賊の術技で、1ターンの間、敵一体の敏捷性を2点下げ。次の攻撃を必中させる技だ。

攻撃回数の多い格闘家の術技を全て命中させることが出来るこの一連の流れは、二人の基本連係にひとつだった。


「ははは……マジででたわ。つか、防御箇所を選べるってのは良いもんだな。腕はかてぇからここで受けてりゃいいんだよ」


 もっとも防御力の高い胴体を軽量で固めなければならない格闘は、防御力が不安要素であった。


 そんな健太を無視して、久連は警官に近づく。

それもすぐに諦め、今度は事故車に。中の様子を見て、顔をしかめて健太のもとに戻る。


「警官と、車の中にひとり。もう死んでると思う」 見たものを振り払うように頭をふる。


「かなりやばい事になってるな」


「ああ、急がないと」


 二人頷きあって、美弥子の学校へ向かい走り出した。



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