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ミスティックエクスプローラー  作者: K2R
第一章 ミスティックエクスプローラー
3/20

エンゲージ

 担任教師が教室を出て行くのを見送った時、久蓮のポケットの中で小さな電子音が鳴るのが聞こえた。

自習なのを良いことに、反射的にスマートフォンを取り出す。


 この聞きなれた音は、ミスティックエクスプローラーの発したエンゲージ警告音だ。

ミスティックエクスプローラーは地図上に敵キャラクタが存在している上、その一部は自由に動き回る性質を持っている。

それら異形が設定した警戒範囲に進入した際、AIによる自動戦闘を回避するための警告音だ。


 無意識にアプリを立ち上げていた久蓮は、エンゲージしたということはメンテナンスが終了したのだと、タイトル画面を見てやっと気がついた。


 タイトル画面をタッチ、期待した通り画面はメイン画面に切り替わる。

慣れた手つきで地図画面へと切り替えると、確かに10メートルほどの距離に異形を表す光点がひとつ見て取れる。

10メートル以内ならば有視界距離となっており、タッチで詳細が見て取れる。距離は10メートル以内であったらしく、異形の詳細が表示できた。


 テキストは、異形 3レベル それだけだ。


 名称は表示されず、始めて見る姿だ。もっとも近い生き物はサソリであろう。両前足のハサミは鉤爪に、尾の先の毒針は剣のように長く鋭く変わっている。


 名称なしは奇妙なことではあるが、レベル3は雑魚中の雑魚だ。

交戦距離ではあるし、戦闘を仕掛けることにする。しかし、画面上に戦闘開始のアイコンがみあたらない。

メンテナンスでレイアウトが変わったのかと色々といじってみたが、どうやら地図画面では戦闘に入れないようだった。


 変更した所を調べようと色々画面を切り替える。

キャラクタのステータス画面を開いたときに、装備が全て外れている事に気がつき、強敵との戦闘に入る前に気が付いたことに胸を撫で下ろす。


 グレン 78レベル 主技能 盗賊  補助技能 狩人


 キャラクタの能力に関しては変更は無い。

ならばと久蓮は手早く装備変更画面で使い慣れた装備を身につける事にする。


 黒飛竜のスティールグローブを腕装備に選択する。その時驚くべき事が起きた。

突然スマートフォンを持つ両手に靄が集まってくる。驚きでスマートフォンを取り落としたその両手にまとわり付いた靄は徐々に硬質化していき、数秒後に靄が晴れると漆黒の革で作られたオープンフィンガーグローブが装着されていた。


 まったくつけている感覚の無い代物だったが、革独特の匂いに、金属部品の輝き、触れた時のざらつく質感は、それが現実に存在している事を証明していた。


 状況に脳が追いつかず、しばらく自分の手を見つめる。

必死に混乱を収めようと巡らせていた思考は、突然廊下から発せられた女生徒の悲鳴によって中断させられた。

廊下傍に座っている生徒が廊下を覗き込み、驚きの声を上げると。教室内の生徒達が好奇心を除かせて廊下へと我先に出ていく。


 久蓮も少し遅れて廊下に出て、それを見た。

廊下の先で窓が開け放たれており、表の霧が入り込んで小さな霧の滝のようになっていて。そこに先程教室を出て行った担任教師が倒れていた。

そして、倒れる教師のその胸の上に、1メートルのサソリに似た生き物が伸し掛かっているのが見えた。


 あまりに非現実的な光景に生徒達は距離をとってその様子を見つめる。

だが、その生き物が両手の鉤爪を教師の胸に突きたて、鮮血が吹き上がると、一気に恐怖が生徒達の間に広がる。


 ひとりの生徒が半狂乱に叫びをあげて逃げ出すと、その様子が恐怖に拍車をかけて周囲の生徒達も我先にと逃げていく。


 その一団の中にあって、久蓮は黙って教師を襲う怪物を見つめていた。


 手の中のスマートフォン。そこに表示されている地図上。久蓮の前、6メートルに異形の反応があった。

それは確かに、自分の眼前6メートルほどにいる怪物と一致する。


 怪物と久蓮だけが対峙する廊下で、久蓮は自分の呼吸が荒くなっていくのを感じた。

知らずに握り締めた拳が、革の張る音で軋む。


 確かめることに躊躇いを覚えつつも、ゆっくりと装備画面に切り替え、武器の欄にエングレイブカトラスを装備させる。

内心、何もおきない事を期待していたが、果たして先程と同じように靄が身体にまとわり付き始め、ベルトと刃渡り60センチメートルほどの剣が姿を現し、腰に吊るされた。


 震える手で剣の柄を掴むと、そのしっかりとした感触に現実を認めざるを得なくなる。

抜き放った剣のずっしりとした重み、鈍く輝く片刃の剣身が、徐々に自分の置かれた状況は他者よりも切迫していることを物語っていた。

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