合流
バスが入り口側に停まるとバリケードを押しのけて少年と少女が姿を現した。
「リゼットさん!」 少年がバスに駆け寄ってくる。
「よかった。弘樹君も芹香ちゃんも無事でよかったわ」
まだ小学生ぐらいだろうか。この二人がヒロキとリリのプレイヤーだ。
本当に初心者のようで、装備品も未だ初期装備のミスティックスーツという服を着ている。
「リゼットさんが引き付けてくれたから私たちは大丈夫でした」
「話は後にしましょう。他に避難してきた人を連れてきたの。バリケードをどかして頂戴、皆さんがはいれないわ」
リゼットに言われ二人はいそいそとバリケードを撤去する。
その間、久蓮たちはバスに積み込んである荷物を運び出す準備をした。
「バスはそのまま壁代わりにするぞ」 虎二が運転席から声を上げる。
車内がからっぽになるとバスをスロープの終わりまで運び、道をふさぐように止めた。
すでにもう辺りは暗く、目測を誤ったのか、車体が壁にぶつかったような音がしたが、車の傷など気にする必要も無い。虎二は小走りに久蓮たちの待つ店舗入り口に戻ってきた。
「さぁ、中に行きましょう。みんなに挨拶しないと」
店内に通じる階段は真っ暗だったが、店舗内にはちらほらと明かりが見えた。
ホームセンターだけあって、照明器具、防災グッズと揃っていて、それなりの環境は整えられる。
食料品に関しては心もとなかったが、そこは久蓮たちが持ってきた物資でまかなえそうだった。
「ウェバーさん達はどこにいるの?」
「店の奥の方だ思うんだけど」
言われたとおりに店舗の奥へと歩いていく。途中、避難してきた人々の側を通ったが、皆、一様に疲れきった顔をしている。
それは久蓮も同じであった。霧が発生してからというもの、休むことなく動き続けているのだ。
「市民を守るのがあんたらの役目だろうが!」
不意に、向かう先から怒号が響いてきた。
制服姿の警察官が二人、恰幅の良いオジサンに詰め寄られていて。その中心には、弓を背負った男と、筋肉質で長身の男とが、困り顔で様子を眺めている。
久蓮は内心係わりあいたくなかったが。弓を背負っているのがウェバーであろうし、無視を決め込もうにも、リゼットと健太が足早にそちらに向かえば、これはもう諦めるしかない。
同じ気持ちらしい虎二と並んで、嫌々ながらも後に続く。
「ですから、状況が待ったくつかめていないのです。少し前から電話も通じなくなっておりますし……」
「ふざけるな、それでも貴様ら公僕か」
「いやもう、それは意味わかんないですから。とりあえず今分かっていることを説明するんで、皆さんを集めてください。皆さんを代表して文句を言いに来たんだから、あなたが説明があるって声をかければすぐでしょう」 リゼットがすごい顔で近づいている事に気付いたのか、ウェバーが早口で切り上げた。
男はなにやらもごもごと言っていたが、ミスティックの力で背中を押されては、抗う事などできず。そのまま呟きながら皆のほうに歩いていった。
「お帰りリゼットさん。囮とはまた無茶をしてくれて、武芸者じゃ多数相手はまずいでしょ」
「あの時はあれしか思いつかなくて。30レベルに三体出られたら、守りきるのは無理でした」
「近接物理系なら弘樹君が……ってまぁいいか」 久蓮たちに目が行って、さっさと打ち切る。
「また新しいミスティックかい。これは頼もしいね」
警官の一人が片手を差し出す。
「月代久蓮です」
「東健太っス」
「俺はミスティックとやらじゃないんですが。まぁ、宮瀬虎二です」
久蓮たちが名乗ると今度は警察官二人が自己紹介をする。残る一人は店内を巡回中とのことで名前だけはきいた。
「んで、おれはウェバー、見ての通りの弓使いだ。よろしく」
短いポニーテールの20代後半に見える男で。
背中の弓は90レベル以上で装備できる、星命弓という武器だ。稀少度を現すランクでは最上級のレジェンダリーに位置する代物だ。
「御堂英冶、格闘家だ。なんか見たことはあるな。グレンとケンタは」
「そうですか? パーティー組んだ事はないですよね」
それでも同じ町に住めば、何度かすれ違いもするだろう。
英冶は実際に格闘技でもやっていそうな体系をしている。肌も浅黒く体育会系を地で行く雰囲気だ。
年のころは20代に見えるが、絶対にそうだとは言いきれない。
「さっきのおっさんに言ってましたけど、みんな集めてなんか説明するんスか」
「しなきゃ駄目だよねぇ、やっぱり」 ウェバーが心底面倒臭そうに言った。
「君が言い出したのだろう」 警官が呆れたように言う。
「あまりに面倒くさくて。リゼットちゃんの顔、やばかったし。あのおっさん《一閃》食らってたよ」
「そんなことはしません! ただ、あの方の口ぶりが許せなくて。現状を少しでも見れていれば、あんなことしても無駄だと分かるはずです。……それと、《一閃》は抜刀術なので、大太刀では使えません」
最後の一言でウェバーは噴出した。
「まぁなんですよ。なんも分かってないって事を分かってもらいましょう。無知の知って奴です、たぶんね」




