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ミスティックエクスプローラー  作者: K2R
第一章 ミスティックエクスプローラー
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幼馴染三人

 その日、世界は霧に包まれた。

腕を伸ばせばもう、その手のひらさえ見ることが出来ないほどの白。

それは、世界に破滅的な混乱をもたらし。されど、混乱の様子さえ他者へと気づかれないよう深く隠す、そんな霧だった。


 その霧が隠しているものはそれだけではなく、人類にとって直接の脅威たるものをも内包していた。

既存の生命と一線を画する、ただひたすらに人類のみを食らう存在。

生命にして生命にあらず。感情に左右されず、善悪も無い、非情な殺戮者。

"異形"


 人類は培われてきた技術をもって異形に戦いを挑むも。

霧のある所に突然現れ。深い霧に阻まれ、姿もろくに見えず。打ち倒そうとも、ただ霧へと還り。時を置いて再度その姿を現す。

つらく、終わりの見えない戦いに人類は疲弊し、追い詰められていく。


 世界が終わる。そう人類が諦め掛けていた時、異形に敢然と立ち向かう者達が現れた。


 霧を見通し、異形を見つけ出す目を持ち。

 人類を凌駕する高い身体性能を誇り。

 異形を狩る技術、術技(アーツ)を振るう者達。


 人類は彼ら希望の戦士を霧の探訪者 "ミスティック" と呼んだ。



 荘厳な音楽と共にそのテキストが流れ終わると、画面は暗転し。一瞬、通信中を示すアイコンが現れる。

そして、次に表示されたのは、ただいまメンテナンス中という文言。


昨晩から何度目かというその画面に、月代久蓮(つきしろくれん)は、ため息と共にスマートフォンのアプリを終了させた。


「おはようキュウちゃん。またゲーム?」


 門扉を抜けてすぐの石塀に寄りかかってスマートフォンを弄くっている久蓮に、隣の家から出てきた少女が声をかけた。

近所のお嬢様学校の制服に身を包んだ長い黒髪の少女に、久蓮は視線だけを向ける。


「おはよう、ミヤ」


 仁科美弥子(にしなみやこ)は久蓮の幼馴染で、同い年の高校3年生。

彼女の家は近隣で有名な名家であったが、美弥子は気にせず仲良くやっていた。


「昨日の夜中からずっとメンテで入れないんだよ……やっぱりいろんな所で叩かれてるな」


 運営からの発表が何か無いかと覗いたSNSは、ユーザーの運営に対する文句で埋めつくされていた。

深夜2時に投稿された緊急メンテナンスのお知らせを最後に、運営から何の発表もなされておらず。

その投稿になされたユーザーからの返信の内容は時間を追うごとに過激さを増していく。


「あ、でも。しょうがないって意見もあるんだね」横から画面を覗き込み、美弥子は言った。


「あの運営じゃあしょうがねぇって、諦めってやつだよ、諦め」


 そう言ったのは、久蓮の家と向かい合う家から出て来た少年だった。

身体が大きく、平均身長より僅かに大きい久蓮よりも頭ひとつ高い。短く切りそろえられた髪と、人懐っこい笑顔の少年東健太(ひがしけんた)は、久蓮と同じ高校の征服姿をしていた。


「おはようケンちゃん」


「おっす」


「おはよう御両人」


 三人は物心付いた頃からの仲だ。

高校に入って、美弥子が別の学校に通うようになって駅前のバス停までという距離だけになっても。変わらずこうして朝は一緒に登校する。


「それで、何を諦めているの?」いつもの通り並んで歩き始めると美弥子が尋ねた。


「結構評判悪いんだよ、そこの運営」そう答えたのは久蓮。


「いっちゃん有名なのは、アプリが起動しない不具合の放置だな。配信したての頃から言われてて、2年間たった今だに放置だ放置」健太は他人事のように笑った。


「そうなんだ。それじゃあ、出来ない人は可哀相だね」


「まぁ、それほど有名なゲームって訳じゃないし、それほど問題になってねぇけどな。無料だしよ」


 健太はスマートフォンを取り出し、アプリを起動してみる。そして出た言葉は「メンテ中で~す」と軽い一言。

正直、若干腹が立っていた久蓮とは対照的に、健太はさして気にしていないようだった。


「二人ともいいな。私もやってみたい」


「対応機種がこいつだけだからな。ミヤのケータイじゃ無理なんだから諦めろ」


「親父さんに買い替え頼んでみたら?」


「もう、いくらお嬢様だからって。そんなにポイポイ買ってもらえる訳じゃないの知ってるくせに」久蓮の茶化すような物言いに、美弥子は頬を膨らませて、いじける様に見返した。


「去年の夏休みに付いていった時は楽しそうだったもの。知らない人とわいわいやってさ」


「そうだな。また三人でどっか行きたいな」久蓮はその時の事を思い出して眼を細めた。


「そうだね、もう三年生だし……」


「じゃあまた夏休みにでもな。受験もあるが、ちょっとは大丈夫だろ」


「本当に大丈夫? 二人とも心配だなぁ」


 楽しそうに笑う三人は、いつしか、いつものバス停にたどり着いていた。

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