一章:暁風 その八
さて、頑張りますか。
「え、え、え、えぇぇえ!」
廊下はクリーム色の床の上に鶸色のカーペットが敷かれている。どちらもチリ一つ落ちていない。おまけに床と同じ色の壁には洒落た黒い燭台がロウソクの灯りを際立たせていた。
「なんで外と中がこんなに違うの!?まぁ中は前来た時と同じだからいいけど。それで、右に曲がるんだったな」
体の向きを変えた瞬間思いっきり自分より小さい何者かにぶつかった。
「いてて」
「ごめん!って君は確か昔伶君と遊んでた秋城…」
「美鈴です。えっと、あなたがマスターさんですか?」
「うん。何で分かったの?」
「前に栗色の髪をしたチビがマスターだって話をしてて…」
マスターは風船のように頬をふくらませた。
「もう!伶君は相変わらず酷いなぁ」
「すいません。後で殴っときましょうか?」
美鈴はぬっと白く繊細な指を折り曲げて拳骨を作った。
「いや、いいよ。その時はボクがシメるから」
マスターの唇から獣のような舌がちろりとのぞいた。
「あ、そうですか」
それを聞くやいなや美鈴は固く握っていた手をふわりとゆるめた。
「ところで、どうしてわざわざ裏口からここに来たの?」
「あ、忘れてた!」
スカートのポケットから四つに折った紙を差し出した。
「えっと、ギルドに侵入したのはわたしなんです。その時にこれを盗ってしまったので返しにきました」
「そうか。君だったんだね…」
マスターは差し出された紙をぱさりと開いた。
「……そっか。だから君はこれを盗ったんだね」
「はい。でもここにあるべき物なので…」
美鈴はふっと自嘲気味に笑った。
「いや、違うよ」
「へ?」
美鈴はその言葉にはじかれたように顔をあげた。
「これは伶君が持っているべきだよ。これ、見せたの?」
「いえ、まだです…」
「なら、早く見せてあげなよ」
「え、でもこれは…」
「今回は見逃してあげるよ。だから、早く行ってきな」
美鈴は猛烈な勢いで何度も頭を下げた。
「ありがとうございます!どうお礼をしていいか…」
「いいんだよ。頼みたいことがあったらその時言うから。その代わり、上手くいったら一番にボクに伝えてね。人伝いで知りたくないから」
「はい!勿論です!」
そして、羽が生えたようにもと来た道を走っていった。
私としては個人的にマスターがツボってきましたね~。




