まだやって来ただけ
俺たちが送り込まれた場所は、何だか祭壇っぽい場所だった。
上は空がそのまま見上げられるようになっており、周囲には古代ギリシャな感じの柱が円を描く様に並べられ、下は大きさの違う円盤を段々積みにして、下から大きい順に並べられたような作りになっている。そんな場所の中央に、俺たちは立っていた。
結局もう一人の神さまは何だったのよ? 紹介されただけで何もしてないし、何も話してないじゃんっ!? やる気出せよっ自分の世界のことだろ!!
「あ~っと、取り敢えず人数の確認しとこうか」
ここで委員長さんが起動。すげー、流石に堅実的だ。
委員長さんこと、草薙陣。名前の通り勿論、男。三つ編みじゃないし、眼鏡もかけてない。本を読むより体を動かすことが好きな、サッカー部。因みにクラス委員ではなく、放送委員会の委員長。そして、彼を委員長呼ばわりするのは俺だけで、しかも今だけだ。普段、そんな呼び方をしたことはない。
何故ヤローなんかのプロフィールを知っているかと言えば、彼が俺の親友だから…………ということはない。
オタ系仲間数名と、委員長という響きを巡り論議をして、彼ほど委員長という響きが似合わないものはいない、という話をしていたためだ。
まあ、そんなことはどうでも良くて、大事なのは結局一人要らない子が居たということを『覚えいる』ことだな。
そう、俺はやってきた。ルクナさんの担当地区と言われる世界へと…………まあ、結局蓋を開けてみればクラスメイト三十八名、全員参加だったわけだけど。なんたってまあ、特にペナルティーとかないしな…………ローリスクハイリターン、やらなきゃ損でしょ。
そんなわけでまず俺がやったことと言えば、
「よーブルータス! やっぱり来たか」
「はっ!? いや? なんでブルータス? どうした国塚?」
「いいから、手を出せよ」
心で誓ったとおりに、ブルータスこと丹沢貴文へと握手をせんが為に手を際出し、
「ああ…………い゛っで」
綺麗なお姉さんに話しかけて貰えてラッキーだった勇者(笑)に、男心の嫉妬を剥き出しにした、友情の握手を放ってやった。ムシャクシャしてやった。反省もしていない、キリッ!
「早速楽しそうだな君ら…………」
俺たちに苦笑い混じりに話しかけてきたのは、俺の幼なじみの沖野ひさし。呼ぶ時は、ひさしくん。
幼なじみとは言っても、小学校の高学年からの付き合いだ。そのときからずっと君付けで呼んでいたため、呼び捨てだと逆に呼びづらいから、今でも君付けのままだ。最早俺の中では、“リバイアサン””ジョナサン”見たいなものだ。
割かしいい顔をしている、容姿的には上の下。頭も良くてテストの成績で常にトップ3から落ちたことがない。更に運動神経もいいし、性格的にも悪くない。表だって騒がれるようなタイプじゃないが、それでも女子にそれなに人気がある模様。
「まあ、不安がないわけじゃないけど、失敗しても別に問題ないんだし、楽しくやった方がよくね?」
「まあね(苦笑) でも、あの自称神って人の言ってたことが、全て真実とは限らないじゃん?
最悪、帰れなくなるって可能性もあるわけだし、報酬だってあるか分からないし……」
おっとー。そんな可能性はこれっぽっちも考えて無かったぞ、危機感足りなさすぎるだろ俺…………
「なら何で来たのさ?」
「そりゃ、何だかんだ言っても、面白そうだろ? このシチュエーションなら、こうグッと来るものがあるだろ? 男なら……」
その言葉を聞いて、俺は無意識に拳を突き出す。そこに、ひさしくんも同じように拳を突き出して合わせた。
俺たちが長らく仲の良い友人でやってこれたのはやはり、俺たちの感性が似通ってるからだと思う。
ひさしくんは勉強もするが、それと同じくらいに遊びもする。俺と同じくらい…………というか、ほぼ一緒に遊んでるのに、学校の成績がいいって言うんだから、我が友人ながら素直に尊敬出来る。そんな人物だ。
親友……とは思っているが、口に出して言ったことはない。言えないだろ、普通…………
「それに、宗士は行くだろうと思ってたからね。だからもし、あの場に宗士がいなかったら、行かないって選択してたかもな、俺は」
「あ~、はいはい」
因みに、こいつのこういう発言は狙ってやっている。そして、それに対する女子たちの反応は二分される。
俺とこいつの出来てる説をはやし立て推奨する(大)グループと、本気かどうか知らんがひさしくんに好意があり、俺を目の敵にする(小)グループだ。
敢えて言うが、俺たちにその気は全くない。なら何故そんなことを奴がしでかすのかと言えば、「退屈な学校生活に潤いを」。だ、そうだ。
そして、潤いというのは、女子たちに責められる俺である。前者のグループからは、もっとひさしくんを大切にしてあげてと言われ、後者のグループからは俺がひさしくんを独占するから女子に目を向けてくれないのだと言われる。
……俺はただの被害者だ。
さて、異世界転移ものの定番といえば召喚だ。そして、その召喚を行うのは大抵の場合は国やら教会やらとかだが…………今回は、女神さまが直接送り込んでってかたちだから、呼び寄せた側の存在という者がいない。
こういう場合は、近くの人里に紛れて出来るだけ目立たない様にしながら、取り敢えず周囲のことからコツコツと情報収集ってのが鉄板だが…………ここ自体がもう既にどこかの建物の中だから、少なくともここから出る段階で誰かには発見されることだろう。この建物に人が居れば、だが。
居た場合こっそり、というのは無理だろうから、最低限いきない襲いかかられるという事態が起こらないことを切に願おう。流石に、女神さまが送ってきた場所なんだから大丈夫だとは思うが…………
ここに来て二十分ほどが経っただろうか、流石にそれだけの時間があれば、異世界転移の興奮と言えどもある程度落ち着いても来ると言うもの。
だが、今後の指針が何もないという状況に不安の感情も芽生え始め、少しずつ転移直後とは違う意味で騒がしさが増してきた。
ガタンッ!!
そのとき、祭壇と思しきこの場所から、一カ所外方向へ伸びた通路、その先に大きな建物へと繋がる大きな扉が開いた。
「おおっ!! おおっ~!!」
扉を開いた人物は、驚きと思われる声を上げながらも、こっちに歩いて来た。
近寄って来たのは、身なりのいい威圧感のある風格というものを感じさせる壮年の男だった。
「神のお告げは真であったか!! ああ、女神シュテーゼに心から…………心からの感謝を!」
跪き両手を組んで、天に向かって感謝を述べるその男の目からは、涙が筋を作って顔から滴るほどの勢いで溢れていた。
まだストーリーが進められない、もっと簡単に進められると思ってたのに…………