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Just place of Love  作者: 諏訪貴信


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7/7

異能の自覚

封印は、音もなく始まった。


 世界が、薄い膜を一枚かぶせられたように遠ざかる。色彩はそのままなのに、輪郭だけが曖昧になる。

 思考が、ゆっくりと沈んでいく。


 ——ああ、これが終わりか。


 そう思った瞬間だった。思考の底で、違和感が浮上した。


 封印は、「存在」を閉じる処理だ。

 記録、因果、観測。すべての系から対象を切り離し、なかったことにする。五天剣において、最も慎重で、最も不可逆な手段。


 なのに。


 俺は、まだ「考えている」。


 それどころか、封印の手順が、手に取るように分かる。

 誰が、どの剣が、どの段階を担当しているか。観測の予測曲線、切断の刃道、改変の補正値、調停の介在率、封印の収束条件。


 知っているはずがない。

 教えられていない。

 それなのに、理解している。


 ——違う。


 理解しているのではない。


 見えているのだ。


 世界が、設計図に変わる。

 人間、施設、ルール、未来。すべてが「構造」として重なり合い、層を成している。


 その中心に、ひとつの空白があった。


 俺だ。


 空白なのに、全体を歪めている。

 存在していないはずなのに、すべての計算に影響を与えている。


 そこで、ようやく気づいた。


 俺は、因果の外にいる。


 未来予測が途切れた理由も、剣同士が干渉せざるを得なかった理由も、全部これだ。

 五天剣のシステムは、「原因と結果」が前提だ。だが俺は、原因でも結果でもない。


 余白。


 世界の設計図に、最初から残されていたバグ。


 封印が、失敗した。


 正確に言えば、成立しなかった。

 閉じるべき「存在」が、定義できない。


 視界が戻る。

 俺は、膝をついていた。床は無傷だ。身体も、何ひとつ変わっていない。


 だが、周囲の人間の「位置」が、分かる。

 視線の向き、思考の重心、次に選ぶ行動の分岐点。

 未来を読むのではない。ただ、未来が書けない箇所が、黒く抜け落ちて見える。


 そこには、必ず俺がいる。背後で、誰かが息を呑んだ。


「……封印、未成立」


 第五剣の声が、震えている。


 その瞬間、はっきりと理解した。


 この力は、武器ではない。

 守ってくれるものでもない。


 世界が、俺を前提に作られていないという証明だ。


 そして、もっと最悪なことにも気づいた。


 五天剣は、この異能を——

 すでに、どこかで想定している。


 俺は、偶然じゃない。

 試験体だ。


 それを自覚した瞬間、調停の男の声が、やけに遠くから聞こえた。


「……だから言っただろう。

 君は、剣じゃない」


 その先は、聞かなかった。


 聞いてしまったら、たぶん、もう戻れなくなる。

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