特殊能力という呪い
五天剣には、五つの「剣」がある。
それは比喩ではなく、正式な区分だ。課内では、役職名よりも先に、どの剣に属しているかが問われる。
私がそれを知ったのは、配属初日の午後だった。
執務室の奥、半円状に並べられた小さな会議スペースに集められ、私たちは簡単なオリエンテーションを受けた。
説明役は、「帽子屋」と呼ばれる男性だった。
「五天剣は、準人類だけで構成された部署だよ」
それは、すでに知っている事実だった。
彼は続ける。
「そして準人類は、全員が何らかの“偏り”を持っている。能力と言い換えてもいいし、欠陥と言ってもいい。五天剣では、それを五つに分類している」
背後の壁に、簡素な図が表示された。
五つの円が、剣の形に配置されている。
「第一の剣――観測剣」
円の一つが淡く光る。
「見る力に特化した人たち。ただし、対象は現実だけではない」
観測剣に属する職員が、こちらを見た。
視線が合った瞬間、私は自分の思考が一拍遅れたのを感じた。
「彼らは、確率の揺らぎや、因果のズレを“事後ではなく事前”に観測できる。未来予知ではない。あくまで、起こりやすさを見るだけ」
「曖昧ですね」
僕が言った。
彼は頷いた。
「曖昧であることが、条件だからね」
第二の円が光る。
「記録剣」
私は、少しだけ身構えた。
記録、という言葉に、個人的な引っかかりがあったからだ。
「彼らは、出来事を忘れない。ただし、自分の記憶としてではなく、ログとして保存する」
記録剣の男性は、端末も持たずに立っていた。
それでも、彼は今朝この部屋で交わされた会話を、一語一句違えず再現できるらしい。
「感情は介在しない。だから改竄もされない。その代わり、編集もできない」
私は思った。
それは、本当に能力なのだろうか。
「第三の剣――干渉剣」
空気が、わずかに変わった。
干渉剣に属する人間は、どこか距離を取るように立っている。
「彼らは、システムと人間の両方に“介入”できる」
「操作、ですか」
「操作というより、説得に近いね」
干渉剣の女性が、私を見た。
その瞬間、私は自分が何かを了承しかけていることに気づいた。内容は分からない。ただ、同意しそうになっていた。
「AIの判断プロセス、人間の意思決定、そのどちらにも微細なバイアスをかけられる。自覚されない程度に」
それは、剣というより毒だと思った。
「第四の剣――遮断剣」
最後から二つ目の円が光る。
「彼らは、切る」
彼は、それだけ言った。
「情報、感情、因果、接続。必要と判断されれば、すべて遮断する」
遮断剣の人物は、最初から最後まで一言も発しなかった。
存在感が、薄い。だが、いなくなったら困るタイプの薄さだ。
「そして、第五の剣」
最後の円が、少し遅れて光った。
「境界剣」
私は、その名前を見た瞬間、嫌な予感がした。
「境界剣は、分類そのものを担当する。人間か、AIか、準人類か。それ以外か」
彼は、まっすぐ私を見た。
「そして――あなたは、この剣に配属された」
一瞬、何も考えられなかった。
判断する側。切り分ける側。
それは、私がもっとも避けたい役割だった。
「境界剣に必要なのは、確信ではない」
彼は静かに言った。
「迷いだ。どちらとも言い切れない感覚。それを、最後まで保持できること」
私は、自分がここに来た理由を、ようやく理解した。
人間だと信じきれない。
人工知能だとも言い切れない。
その中途半端さこそが、武器になる場所。
五天剣とは、能力者の集まりではない。
割り切れなかった者たちの、最終配置先なのだ。
そして私は、その中心に立たされようとしていた。しかし、この帽子屋という男は何者なのだろう。まるで、世界のすべてを知っているかのような雰囲気だ。




