この能力の使い道
「おはようございます!みなさん、それでは点呼を取っていきます」
署長ユリウスの声が、集会場に鋭く響き渡った。
眠そうにしていた監視たちもその声にぴしっと背筋を伸ばす。
このアルエッタ王国の地下にある監獄は、もともと太古のダンジョンを改装したものだ。
ユリウスの背後には今も使われている大階段がそびえ、地上へと繋がる唯一の道になっている。
広々とした集会所は署長室も兼ねており、ユリウスは常にここに滞在しているため囚人たちは決して脱獄できない仕組みになっている。
点呼が終わると、ユリウスは一呼吸置いて口を開いた。
「今日の業務に入る前に重要な報告がある。」
ユリウスの声が集会場に響く。監視たちは息をのんだ。
「昨日、また監視の不審死が発見された。この数日、監獄内では不可解な死が相次いでいるあがっている。しかも、死体の大半は囚人ではなく監視側がほとんどだ――」
ユリウスは、張り詰めた空気の中で言葉を切った。
「この件については、副署長のマルクスから説明がある」
その名が呼ばれると、視線が一斉にマルクスへと向いた。
日ごろ監視への指揮を行っている彼は、周囲を見回すことなく淡々と口を開いた。
「署長の話の通り、ここ一週間で複数の監視が謎の死を遂げている。そしてその全員が心停止で亡くなっている。何らかの魔法を使っているものと考えていいだろう。状況は極めて深刻だ。不審な点があれば、すぐに私に伝えるように」
「そういうことだ。そして現状を重く受け止め、当分の間は監視は二人行動をしてもらうことにする」
マルクスは魔法で二人組のリストを配る。
紙が空中を滑るたび、会場には一瞬、張り詰めた緊張が走った。
「当面はそのリスト通りに動いてくれ。では今日も一日、気を引き締めて仕事に励むように」
ユリウスはそう告げると朝礼は静かに終わった。
この死体を乗っ取る能力――コープスソウルを得てから、もう一か月経つ。
名前の由来は、俺が昔プレイしていたゲームのスキルだ。倒したNPCをゾンビのように操る技で、似ていたからそう名付けた。
今日まで、監視や囚人を使って色々な実験をしてきた。
その結果をまとめるとこうだ。
一つ目【死体魔法がそのまま使える】
乗っ取った死体が生前に扱っていた魔法は俺も使用することができるということ。
不思議だが感覚的に使い方がわかるようだ。
二つ目【発動条件は「完全な死」と「目を合わせること」】
相手が完全に死んでいる状態で俺が乗っ取ると意識した瞬間に発動する。
ただし条件があり、頭部が残っていること、目を合わせることである。
目がなければ発動しない、目だけくり抜いて実験したがだめだった。
三つ目【乗り換えはできるが、戻ることはできない】
新しい死体に乗り移れば、前に使っていた死体は完全に停止し、二度と乗っ取ることができなくなる。
心肺停止、ただの死体に戻るということだ。
四つ目【乗っ取った死体は再生する】
たとえ致命傷だらけでも、乗っ取った瞬間に肉体は即座に再生する。
ただし、密室や狭い空間のように身体が再生するスペースがなければ再生できない。
こんなところだ。
これらの性質を確かめるために俺は多くの監視を手にかけた。理由もなく奴隷に当たり散らかす理不尽な監視だけを呼び出し、誰にも見られないよう注意を払いながら。
――俺は決めたんだ
ユウキの無念を晴らすためにも、この理不尽な世界をぶち壊すと。
だから何一つ後悔はない。
だがしかし面倒なことになった
死体は焼却炉で処理していたつもりが、何体かは見つかってしまっているらしい。
さすがに数が多すぎた。
そのせいで、俺たち監視は当面、二人行動を義務付けられることになってしまった。
正直言って最悪だ。かなりやりづらくなってしまう。
「ライトさーん」
名を呼ばれた。
…ライト。そうだ、今の俺が乗っ取っている身体の名前だ。
ここ一カ月で何人も乗っ取りすぎて、時々ほんとうに自分の名前があやふやになる。
今、俺はライトだ。忘れるな。
ふと顔を上げた瞬間――視界の上から影が落ちてきた。
「あぶない!」
俺は咄嗟に魔力を拳に集中させ、拳を振り上げてそれを砕く。
岩は粉々に砕け散った。
「ありがとうございます」
「この辺りは落石がある。気を付けろよ」
「はい、すみません」
これが例の二人行動か…
「えーとお前の名前は…」
「ハースです。よろしくお願いします。ライトさん」
気弱そうな監視もいるもんだな――
俺はそんな印象を感じた。身体を乗り換えてきた中でも、こういうタイプの監視はあまり見たことが無かった。
俺は軽くうなずいた。
こうして気の乗らない二人行動がはじまった。
コープスソウル使用者
名前:ライト=ハーベスタ
性別:男
年齢:31
魔法:拳に魔力をため放つ。ためる時間が長いほど威力はますが、上限あり。
職業:監視官




