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生きて死んでまた生きて

アルエッタ王国の地下深く。

買い手のつかない奴隷や、罪を犯した者が収容される労働施設がある。

一度ここに落ちれば、二度と日の光を浴びることはない。

――そして俺はその一人だった。


カキン。

掘り進めていた岩盤の奥から、金属音が返る。


「これでこの鉱石も7個目か…」

「今日は早く帰れそうっすね!先輩!」


泥まみれの顔で笑っているのはユウキ。

俺のことを先輩と呼んでいるが、年はそう変わらない。

違うのは、とんがりとした耳――エルフ族ということだけ。


「そういや先輩は何が理由でここに収容されちまったんすか?」


「あれ?話してなかったか?俺は異世界転移させられて、訳もわからずここに流れついちまったんだ…」


「…イセカイテンイ?…どういうものなんすか、それって」

ユウキは首を傾げる。言葉の意味がわからないらしい。


「要するにこの世界とは全く別の世界があって俺はそこから連れてこられたってわけだ」


ユウキはまだピンと来ていないようで再び首を傾げた。


「最初は俺も、どこか外国にでも攫われたのかと思ったんだが……

この世界は、明らかに元いた世界とはまったく違うんだ。

人間以外の種族が当たり前にいるし、なにより魔法が存在している…」


魔法なんておとぎ話の中だけのものだと思っていた。

だけど、ここに来てから何度も見せつけられた。


「先輩の世界には魔法がないんすか!?…じゃあ魔物とはどう戦うんすか?」

「そんなもん、いなかったよ」


「でも、そのイセカイテンイ?したらここから解放されるってことっすよね! 希望が持てるっす」

少し間が空いた後、ユウキが明るく言った。


「お前のその前向きな思考を俺も見習いたいよ」


――でもどっちがマシなんだろうな。

元いた世界と、今の現状と

どっちが……


俺は元いた世界を思い浮かべ、少し憂鬱な気分になった。


「あっ、先輩!」

そんな俺を察したのか、ユウキが明るい口調で声をかけてきた。


「今日は早く終わりそうですし、ちょっと休憩しませんか」

ユウキが座れそうな岩を指した。

俺は無言で頷く。


「そういえば先輩って僕がここに来た理由、話してましたっけ?」

俺は首を振った。


(そういや、お互い長い間ここで収容されているが、その経緯を話したことはなかったな…)

信用されているということだろうか。俺は少し嬉しくなる。


ユウキは岩に腰を下ろし、ぽつりと語り始めた。


「僕の村、昔盗賊に襲われたんす。そんで奴隷商人に売られたんす。」


ユウキは一度視線を落とした。

「僕らエルフって、大昔に、大罪を犯したって言われてて……今も差別されてるんすよ」


ユウキは右目の眼帯を撫でながら続けた。


「エルフの目って魔力が宿るんすよ。

ハイエルフなら、その目一つで国が動くくらい。

そりゃ盗賊にも狙われるっすよね」


「エルフなのに魔法が使えない僕なんて――」


ユウキが言い終える前に、俺は手で制した。


「魔法が使えないからって、そんな落ち込むことか?

俺なんて、生まれてから魔法なんて使えたことねーよ」


少し間を置いて、俺は続けた。


「それに、さっき魔力がどうのこうの言ってたが、右目があればきっと魔法を使えたんだろ」


ユウキが何か言いかけたのを、俺は再度、手で制して続ける。


「悪いのは環境で、お前自身何も問題ねえよ」


環境。

自分で発したその言葉が、重なって響いた。


「先輩は魔法がない世界に住んでいたからしょうがないっすよ。僕とは違うっす」

ユウキの表情に、ふっと笑みが戻る。


「でも……ありがとうございます」



作業を終えた俺たちは刑務官に鉱石の報告に向かう。

今日はいつもより早く終わったせいか、報告の列は短かった。


「ふむ。ちゃんと取れているな。ごくろうだった」


刑務官の満足げな顔に俺たちはほっとする。

ようやく部屋に戻れると思った時だった。


「お前には少し用がある。残れ」

なぜユウキだけ?

俺はどこか不安を抱えながら先に部屋に戻った。



どれくらい時間が経っただろう。

就寝のチャイムが鳴っても、ユウキは戻らない。

なんだか胸騒ぎがした。


気がづくと、俺はユウキと分かれた場所へと向っていた。


――ユウキに、何かあったのか?


坑道はすでに静まり返り、照明石の明かりが揺れている。

心臓の音が聞こえるくらい心拍数があがっていた。

その時、血の匂いが鼻を刺した。


「……え」


ユウキが倒れている。

刑務官。血まみれのナイフ。

なんで


「笑うから」

理解が追い付かない俺に刑務官は吐き捨てるように言った。


「生まれた時から魔法の使えないエルフなのに笑う、それが気に食わねえ」


…そんな理由で?

それに生まれてから魔法が使えないって、それは違う

だってユウキは。


「目さえありゃ魔法だって――」

俺は咄嗟に口走っていた。


「違うっすよ先輩…」


え?


「僕の目には最初から魔力なんて宿っていなかったんすよ」


………………


「……僕は…生まれた時から、魔法を使えないゴミだったんす。」


…………


「こんなところなんて言わないでください……

俺はここに来て、先輩と会えて楽しいっすよ。

だから――」


……


瞬間、刑務官の指先が動く。

閃光と轟音。

視界と聴覚が奪われる。


目を開けると、ユウキの身体に大きな穴が空いていた。


こんな理不尽。

思えばずっとそうだ。

ここに来る前も。


「うわあああああああ!」


ナイフを拾いあげ駆ける。

瞬間、刑務官の指が光る。


俺はただ前へ走った。


光が直撃する瞬間、身を屈める。

轟音。視界が白く染まる。

爆風は坑道を吹き抜け、壁にぶつかる。その衝撃で俺の身体は弾き飛ばされた。


だが、その爆風を逆手に取り――

飛ばされたまま監視の胸に刃を突き刺した。


監視官の口から血が溢れる。

「……こいつ、下半身を犠牲にしてまで」

その声は途切れた。



「はは…」

俺の身体半分が、もう無かった。

視界が闇に沈んでいく。


――思えば、元いた世界より、こっちに来てからの人生の方が長かったな


そう思ったところで、意識が途切れた。




目を開ける。

冷たい石畳の上。目の前には、下半身の無い俺が横たわっていた。


(……どうなってる?)


息を吸うと、胸が動く。

――違和感

手を見た。指の形も、肌の色も違う。


(誰だ……)


ふと、血のついたナイフが視界に映る。

そのナイフは鏡のように誰かを映す。

そこにいたのは――俺を殺した、俺が殺したはずの刑務官の顔だった。

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