ショートショートー返してくれない?
「ショートショート・カプセル」シリーズVol.2です。
夢を見た。
夢の中で知らない女が『そろそろ返してくれない?』と言っていた。
次の日も夢を見た。
またあの女が言った。
『ねぇ、そろそろアレを返して欲しいのよ』
それから毎日、同じ夢で同じ女が『アレを返して』と言うのだった。
気になって考えた。
借りたまま返してない物……漫画本、小説の文庫本、映画のDVD、雨傘、あっ、飲み代の3,500円!
う〜む、結構あったんだな。
でも、女からは借りていない。
今日もまた見るんだろうなぁ、あの夢。
やはり見た。
だが女の言うことが少し違っていた。
『あと1週間だけ待ってあげるわ』
期限を切ってきたぞ!
それから毎日、夢の中でカウントダウンが始まった。
『あと6日だけ待ってあげるわ』
『あと5日だけ待ってあげるわ』
『あと4日だけ待ってあげるわ』
『あと3日だけ待ってあげるわ』
『あと2日だけ待ってあげるわ』
女から借りたものなど何もない。
これは単なる夢だ! そう思ってみるが、気になって仕方ない。
それに、なんか少し怖い。
よし、今日見る夢で『何を返せばいいのだ?』とあの女に聞いてみよう。
夢を見た。
あの女だ。
よし! 聞いてみよう。
あのぉ、私がいったい何を――
『明日取りに来るわね。まさか失くした、とか忘れた、とか言わないでよね。そんなこと言ったら……分かっているわよね?』
ビビってしまった。
聞くことができなかった。
どうしよう。分からないものは分からないのだから、「分からない」と言うしかないか。
待てよ、夢なんだから、返す物が分かりさえすれば何でも返すことが出来るんじゃないか?
それとも、夢を見ることもないほどに、しこたま酒を飲んで泥酔状態になってみるのもいいかもしれない。
そうだ!
今日一日寝ずに起きているか。
そう決意した――はずだった。
……目を開けると、白い天井。
『はい、お疲れさまでした。起きて頂いて結構ですよ。15分ほどで検査結果が出ますので、外の待合室でお待ちください』
女の看護師が、私の頭や胸に貼り付けてあったコード類を取り外しながら、体を起こしてくれた。
どうやら眠っていたらしい。
待合室で呼ばれるのを待ち、診察室に入ると、医師がモニターを見ながら話し始めた。
『詳細な診断結果は後日送付しますが……当院のAI睡眠下潜在意識解析方式によりますと、あなたの性格診断結果ですが……』
医師はキーボードを叩きながら言った。
『あなたには、問題を先送りにする傾向があるようです。診断結果は後日、あなたとあなたの会社に送付されます。はい、お大事に』
診察室を出る瞬間、耳の奥で声が囁いた。
『明日……取りに行くわ』




