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「じゃあ魔法って何?」

▶前回のまとめ

魔力とは仕事量に換算できる。

使用できる魔力量は代謝、ATPの分泌量に依存する。

ただし、魔力自体は視床下部から分泌される。

ところで視床下部は感情などの生理欲求も司るので感情や欲求によって魔力は増大する。

「じゃあ、魔力がエネルギーだって分かったところで……魔法って結局何だと思う?」

板書をしていた黒羽が突然私に聞いてきた。

咄嗟には答えられず、その様子を見た黒羽が嬉々として解説を始める。


「魔法は“ベクトルを印加する技術”だ。

つまり、物やエネルギーに方向と大きさの矢印を与える行為なんだよ」

その一言で、私の手のひらがうずいた。

前回の「魔力=仕事量」を思い出して、答えが出そうな気がした。


「一番分かりやすいのは火球とか矢を飛ばす魔法。

あれは“エネルギーを熱や物質に変換したうえで、その塊にベクトルを与えて投射してる”ってこと」


「つまり、強く押すイメージ?」と私が訊くと、黒羽さんはにやりと笑った。

「そう。魔力はエネルギー。エネルギーを一点に集中して押し出せば、物は飛ぶ。やってみろ、根鈴」


私の前に一本の矢が置かれる。


黒羽さんの言葉は単純で心地よい。

教科書的な定義の代わりに、手早い行動指示が降ってきた。

私はノートを閉じ、深呼吸をして手の内の魔力を絞り出すイメージで集中する。

(エネルギーを一点に集中して、押し出す……!)


「この矢の向きに力を細く、一本だけ入れるイメージでね……そうそう」


このまま、押し込む……!

──パキッ。

嫌な音がして、目を開けて矢を見ると折れていた。

だいたい後ろから3分の1ほどのところでポキッと。


「あらら、……一気に力をつぎ込んだでしょ」


あれ?一気に押し込むんじゃなかったの?


「コツとしてはゆっくりと力を籠めること。

力学で言うと、物体に加速度を与えるのと同じ」


グッと力を籠めるんじゃなくてぐいーっと押す感じ……?


「物理現象と違うのは、魔法は“媒介なしに直接ベクトルを印加できる”ところだ。

いやまあ、正確には魔力が媒体なのだけど。

だからこそ、感覚が違って難しいよね」


「ところで、この折れちゃった矢を見て」


う。あまり見たくないけどな。


「まあまあ、……これってさ、

矢の後ろ半分だけに力を入れちゃって引き裂かれちゃってるんだよね。

──なにか、これを見て思いつかない?」


……?

何も思いつかない。つい、首をかしげてしまう。


「まあ、ヒントが少なすぎるよね。

──過去の法術師は考えたんだ。これって防御手段にできるのでは?ってね」


防御手段……まだピンとこない。


「つまり、飛んでくる物体の一部分ずつに違う方向のベクトルを加えれば。

……その物質は引き裂かれる」


……!


「法術師の中には、というよりある程度以上の力量を持つ人たちは、

この動作を自動で行う領域……“力学結界”を展開して自分に飛んでくる飛翔体から身を守ってるんだ」


「……黒羽は……使えるの?」


その問いに対して黒羽は……


「うん。見せようか?」


どや顔で返した。


◇◇


「じゃあ……見たいな」


「分かった。今から外に行こうか」


そういうと黒羽はチョークを持って教室の扉から外に出ていく。


「あ、ちょっと待って」

そういうと私は慌ててついていく。


◇◇


「さて、このチョークを俺に向かって投げてみて」

私にチョークを渡した後、10メートルくらい離れたところに歩いて行ってそこで微笑んで待っている。


「うん……分かった」

えっと……えい。


私が投げたチョークが黒羽に当たる直前。

黒羽に当たるはずだったチョークは空中で消えた。

むらなく粉砕され、霧散したチョークの粒子は黒羽を中心とした球状の範囲に入れずに、

それ以外の方向に拡散してゆく。


自然に広がっているように見えて、

黒羽の周りには見えない壁……“力学結界”があってその広がりを阻んでる。

それはとても違和感がある光景だった。


「へー、すごい……」

「でしょ?その辺の石を投げてきてもいいよ」

はにかみながら、しかし絶対の自信をにじませてそう言う。


ちょっと抵抗があるけど、でも見てみたい気持ちもある。

しばらく迷った後、私は黒羽に石を投げ込んでいた。


さっきのチョークと全く同じように防御する黒羽の力学結界に対して、

投げ込むものがエスカレートしていったのはまた別の話。

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