虚飾の翼ブロローグ
「Uh―Uh――………」
出鱈目なハミングが夜空に彷徨う。文明の光に押し負けた星々は沈黙し、血の気の引いた満月が残る空の下、少女は独り囚われていた。
囁きめいた歌声は少女を抱き込む硝子の窓に阻まれ、露と消えゆく。
――この歌は世界から孤立するための小さな抵抗。
……あるいは自らをも誤認させうる一種の諦観か。
地上から閉ざされた部屋には外界の色彩を忘れたかのように、モノクロームの世界が広がっている。打ちっぱなしのコンクリートの部屋に、ぽつん、と置かれたベッドはこの無機質な部屋とはあまりにも不釣り合いだ。
少女はベッドから立ち上がると、引き込まれるように厚い硝子の窓へと歩み寄る。
ぼう、と。
暗がりから覗かせたのは少女の現身。
静に灯る街を背景によるぼんやりと浮かぶ輪郭は、けれどしっかりと付き纏っていてる。
反射する姿見は白磁のような滑らかな肌に、腰まですらりと伸びた濡れ羽色の髪。顔には幼さと艶を帯びた唇が奇妙に調和していて、均整の取れた目鼻立ちをしている。
それは天使、と揶揄されるにはに相応しい形をしていた。
しかしその呼び名とは裏腹に、少女の瞳には不吉な静けさを纏っていた。黒色の大きな瞳には小さな虚無の闇に覆われていて、時折反射する街の光が冷ややかな視線を露にさせる。
そんな妖しさすらも巻き込んで、窓に映る少女の姿は人間からは逸脱した神秘を加速させるように取り込んだ。
少女の手が窓に伸びる。
それはゆっくりと、指先で朧げな輪郭をなぞるような動作。
美貌の皮膜から脳髄の裏側へと続く思考の狭間、脳裏に巣食う言葉がはっきりと形作られる。
それは吐息にも似た、微かな震え。
「――あぁ、醜いなぁ……」
途絶えたハミングは、ただ耳鳴りのような静寂だけを残して消えていった。
りはびり




