集団的鬱屈
「――世界をもっと面白くなれる。人の可能性とやらも、あながち捨てたもんじゃないね!」
博士は子供のように跳ね回る。いつも愉快そうな身振り素振りをしているが今回に限っては七割増しだ。
それもそのはず今回、博士と助手は過去に類を見ない規模での「フィクション」に首を突っ込んでいた。地球、いや宇宙規模をも歪めた今回の事態は「重力からの解放」。人口十五万人程度の中規模の都市からありとあらゆる質量を持つ物体が重力から切り離されたのである。
「いやぁこの科学と言うものが流布した時代にここまでぶっ飛んだ景色を見ることになるとは思いもしなかった。やはり人間の理性というものは我々が想定以上に脆弱で想像するよりも美しい代物だね」
「……いやそんな戯言を言う暇なんてないでしょうに。どうするんですかコレ。もう滅茶苦茶ですよ。「扉」も近くにないですし、もう帰れないんじゃないですか」
中空には先程まで生きていた街が散りばめられている。粉々になったコンクリートの死骸、玩具のように散らかる車、そして醜く踊る生者たち。まるで巨大な万華鏡を覗いているようだ。静止したかのように見える総面積約九平方キロメートルの街並みは徐々に、しかし確実に、各々の慣性によって無秩序に拡散している。
これは博士と助手も例外ではない。二人は現在、上空上空七百メートル付近で観覧車のゴンドラ――その側面に腰を掛けていた。
切り離されたゴンドラは依然としてゆっくりと上空へと進みゆく。足元の三日月は二人の逃げ場のない未来を嘲笑うかのように薄く鈍く周囲を照らしている。
祝日だからね。




