転生者(笑)の幼馴染が壊れた時の対処法
「ねね、私、ざまぁするタイプの悪役令嬢になりたい!協力して!」
広い庭に響き渡る少女の声。
広い庭の一角。声を上げた少女の対面に座る少年は、その美しい顔を歪ませ、そのまま流れるような動作で頭を抱えて盛大な溜息をついたのだった。
なんてことを大声で言い出すんだと。黙ったと思ったらいきなり叫んだことにも驚いたが、内容も内容である。
少年の考えとしては、天気の良い昼下がり。庭で友人とお茶。・・・なんて、幸せなひとときと言える時間をぶち壊すような事をなんで笑顔で言いやがった。ふざけんな。大人しくしててくれ。である。
なぜ悪役令嬢なのか。なぜ協力しなくてはならないのか。そもそも、ざまぁするタイプの悪役令嬢とはなんなのか。ざまぁしないタイプの悪役もいるのか。ネットのなろう系小説とかだとざまぁしてるのしかなくね?最初でざまあしてないやつも本人の意思関係無く結果的にざまあしてるし。つか、ざまぁしようとしなかろうと悪役令嬢は悪役令嬢だろ。というかざまぁの定義とは。
などという考えが、少年の頭をぐるぐるとしているところで、また少女が叫んだ。
「ねぇ、ねぇってば!聞いてんの!?」
止めてくれ。ただでさえよく響く声なのに叫ばないで欲しい。こちらは、お前の言動で頭痛がしているというのに。これ以上叫ばれると、誰かが来てしまう。仕方がないと溜息をつき、返事をした。
「聞こえてる。いきなりどうしたの」
いきなり・・・そう、いきなりなのである。話の流れからならまだ良い。クッキーが美味しい。と言った後に冒頭の言葉を言われたら唖然とするだろう。するなという方が難しい。
「いやさ、ネットとかであるじゃん?ほら、あのー、えっと・・・あれだよ!あれ!」
あれとはなんだ。あれだけで伝わると思うなよ。お前じゃないんだぞ。僕は単細胞じゃない。
あれだあれだと繰り返している少女を宥めつつ、少年は情報を聞き出す。
少女の話は順序が滅茶苦茶で、このままでは聞いていても意味がわからない。少年は少女の話から言いたいことを読み取り脳内で纏めた。
・悪役令嬢になりたい(ざまあするタイプ?らしい)
・一人じゃ出来ないから手伝って
面白そうでしょ。面白そうだよね?面白そうって言え。面白そうって言ったね?じゃあ手伝って。という流れで手伝う羽目になった少年。ただただ不憫である。
俗に言うマシンガントークを続ける少女。今は、悪役令嬢ってやっぱ縦ロールかな⁉縦ロールだよね!!
呆れている少年を気にすることなく話し続ける少女に、聞く気が無いなら聞かないでくれ。疑問符を付けるな。あと縦ロールは偏見が過ぎるだろ。と少年は酷くなってきた頭痛に頭を押さえる。
普通、友人が頭を押さえていたら、話しをやめて心配したり、子供なら大人を呼びに行くなど相手を気遣うものだが、生憎、この少女に普通は通用しない。少年は長年の経験でそれをよく理解していた。
普通だったら、いきなり悪役令嬢になりたいと叫んだりしない。
笑顔だったり悩んだりと、ころころと表情を変えて話し続けている少女は友人の顔色が悪いことなどお構いなしである。
さて、第三者視点は飽きてきただろうし、少し少年の視点を覗いてみよう。え?飽きてないって?あーあー聞こえない聞こえなーい。読者が飽きていようがいなかろうが、関係無し!少年、少女、って面倒なんじゃーー。なら少女でもいいんじゃないかって?少女の頭ン中はうるさすぎるのよ。わざとじゃないけどっボケまくるし。あと、思ったことをそのまま口に出すから視点変える意味がない。思考が見れるからいいのに。その点、少年は割と静かだし見やすいんだよ。流石ツッコミ。口は悪いけど。
てことで、どぞ
悪役令嬢と言えば金髪!金髪と言えば金髪碧眼!憧れるよね~、と目の前ではしゃぎ続ける少女―――アリスを前に、先程から収まる気配のない頭痛に頭を悩ませる僕―――クレイは今すぐこの場から逃げ出したくて仕方がなかった。
とはいえ、今逃げ出しては目の前の暴走女に何をされるかわかったもんじゃない。暴れるだけならまだましだ、だが、家族や使用人に何か吹き込むかもしれない。前科がある。
なんだよSМプレイしてる人を前にしてする読書が好きだって。どっから出てきたその設定。3時間かけた大作だ、じゃねえよ。んなこと考える暇があんなら勉強しろ万年赤点野郎。
・・・・・・はい。結局巻き込まれることになりました。あれから考えたけど、協力した方が得だなって。僕の変わりの王子があいつの新しい玩具になってくれるんだから。それに、一つ約束を取り付けたからね。『僕のお願いを何でも一つ聞く』というもの。言ってみたら二つ返事でOKされた。馬鹿なのかな。悪用されるかもしれないのに。まあ、アリスはそこまで考えてないんだろうけどさ。
面倒ではあるけど得。アリスの嫌いな勉強、マナー関連も「頭悪くてマナー壊滅的な悪役令嬢はかっこ悪くない?」と言ったらやる気になった。ちょろい。帰り際、アリスママに感謝された。やる気にしてくれてありがとう、ってさ。聞けば、屋根に上ったりして逃げ回ってたらしい。あいつ本当に人間?悪役令嬢より野生児に向いてない?
とまあ、色々あったけどここまでは順調だった。でも問題発生。
アリスが大根役者過ぎた。高笑いさせてみても何時の間にかウグイスの真似になってるし。足をかけて転ばせる真似をしたかと思えば自分がすっ転ぶわで。
取り敢えず、これから毎日特訓です。
「アリス・マトランシャ!お前との婚約を破棄する!!お前の様に性根の腐っている女を次期王妃にする訳にはいかない!」
はい、只今テンプレ通り過ぎる言葉でうちの馬鹿に婚約破棄を宣言したのはこの国の王太子であるオウジサマ。そしてその腕に抱えられているのはヒロインことこの計画のオヒメサマ。
にしても、知らないのかな。二人の婚約は家同士の物だ。当人の意思は関係無い。でもそれは婚約が成立してからの事で、その前に顔合わせがあり、その時に嫌だったら断れるんだけど。まあよっぽどの事が無い限りは、断られる事なんて無いんだけど。
一度成立した婚約は、簡単には解消出来ない。勿論、個人の都合で勝手に破棄することも出来ない。それは、次期国王である王太子であっても。
馬鹿だなあ。こんなこと、アリスでもわかってるぞ。特訓のおかげだけど。さすがにこの年でそれを理解していないのはどうかと思う。次期王だとか関係なく。この国の将来が心配になる言葉でした。
そんな状況で僕が何をしているかというと・・・ずっと笑いを堪えています。これを計画した時から笑うだろうな、と思ってポーカーフェイスの練習をしていたし耐えられる様になった方だとは自分でも思うんだけど、思ったよりもツライ。
ちなみに表面上の僕はにっこにこ。無表情は無理なので、いつも通りの微笑みを浮かべて耐える事にした。口角が上がりすぎない様に気を付けないと。
ここまで笑うか?と思う人もいるかもしれないけどさ。
だって、しょうがなくない?ここまで全部、‘‘計画通り‘‘なんてさ。
と、いう訳で~
王子達の勢いが強過ぎて、うちのお転婆姫が困ってるみたいだし。それの解決と僕のオネガイ、聞いてもらいに行こうか。
アリスの目の前で跪き、右手を取る。
「アリス、ずっと君が好きだったんだ。プロポーズ、受けてくれる?」
あの日、アリスが協力を求めてきて、僕がそれに応じた時から、こうなる様に仕向けてた。
王子が、アリスを蔑ろにしてるって噂を流して。
君が喜ぶように、オヒメサマが僕に惚れるように仕向けて。
簡単に落ちた王子達とは違って、苦労してようやく落ちたと思った僕が、悪役である筈のアリスにプロポーズ。絶望したんじゃない?
それに、悪役令嬢の婚約が破棄されてその場で別の男にかっさらわれる。これと同じことをしてるだけだし。王道だ!って、アリスなら喜ぶに決まってる。
さてさて、オヒメサマはどうするのかな?焦ってるよね~。だって、君の本命は‘‘僕‘‘だったもんね。
これは、アリスの事とは関係ないけど、こんな可愛い悪戯でならいいでしょ。散々僕の前でアリスを馬鹿にしてくれたよね。だからこれは、それに対するちょっとした仕返し。
あ、アリスの目、きらきらしてる。楽しそうだ。良かった。喜ぶって確信はあった。けど、不安もあったから。
ね、アリス。言ったでしょ?
‘‘僕は、欲しい物を手に入れる為なら何だってする‘‘ってさ
僕、有言実行するタイプだから
初恋は叶わない、だっけ。誰が言いだしたのかは知らないし、どうでもいいけどさ。偶には、叶ったっていい、でしょ?僕の初恋、君だったんだよ。前世からずっと、ね。
ね、アリス。幾ら前世の事とはいえ、不用意に話したりしたら駄目だよ。簡単に特定できちゃった。
前世は女だったし、告白とか、付き合ったりとか、君に迷惑が掛かるかもしれないから自重していたけど。今は男だからさ。別に迷惑は掛からないでしょ。
わかってるよ、君は断らない。帰って二人きりになったら、ネタバラシしてあげる。前世からの幼馴染様?
この切り札、親しみを覚えられる様に取っておいたんだ。
割と今更だけど、まだ効果はあるでしょ?
逃がさないよ、絶対に
そんなどす黒い感情を全部覆い隠して、綺麗に微笑んで見せる。
「それで、アリス。返事、聞かせて?」
アリス
こんな僕の想いに、どうか
どうか
どうか、気付かないで。
予想通りの返答を聞き、僕は取った手にそっと口付けた。
ゴーン ゴーン
教会に鐘が鳴り響く。
ふわり
いつまでも純粋で無垢なままの君。被せられた白のヴェールを剥がした。
頭の弱い子が悪役令嬢になろうとして、近くにいた幼馴染を巻き込んだ話が急に降ってきました。桔梗の息抜きがてら書いて仕上げたものでございます。桔梗も最終話の確認して予約投稿したらおしまい。年内完結です。
少女は単体だといじめようとして空回りしちゃう悪役令嬢ですね。
少年は、気が付いたら愛の重い苦労人になってました。少女はいい感じに狂ってたんじゃないでしょうか。
少年の読書や「万年赤点野郎」は、前世にやられたものでございます。3時間もかかってません。実際は一つ10秒程。
少女の苗字は「的乱射」をカタカナ変換しただけです。とても物騒。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。




